第20話 ファミレス

「じゃあ、帰る?」


 高井さんが俺たちに聞いてきた。俺は正直に言うことにした。


「……実はこの後、小林たちと待ち合わせしてるんだ。だから時間を合わせるために本屋に来ていただけで」


「そうなんだ。じゃあ、私たちは帰るね」


 高井さんと長崎さんは帰って行った。


 俺と陽春は下通商店街を歩いてファミレスに向かう。


「はぁ」


 陽春は元気なさげにため息をついていた。珍しい。


「どうしたんだ?」


「だって……やっぱり、和人モテるんだもん!」


 俺をにらんで言う。


「そんなこと無いって」


「はあ? 高井さん、めっちゃ積極的だったじゃん!」


「そ、そうかな……」


「そうだよ」


 あの高井さんが俺のことを……なんてあるわけないと思うけど。さすがに俺も勘違いしない。


「おすすめの本を聞きたかっただけだよ」


「いや、どう考えても違うでしょ!」


「あとは俺たちをからかってる遊んでるだけとか」


「そんなわけないでしょ」


「そうだって。陽春が考えるようなこと無いから」


「そうならいいけど……」


 陽春を心配させちゃったかな。


「俺は陽春と一緒に居るときが一番楽しいから」


「そ、そう?」


「うん。陽春、面白いし」


「『面白い』って! そこは『可愛い』とかでしょ!」


「あ、ごめんごめん。まず『面白い』が来ちゃった」


「もう!」


 陽春は俺の腕を叩いた。


「イタッ! ごめんって」


「じゃあ、ウチ、可愛い?」


「え? うん……可愛いよ」


 俺は恥ずかしいけど正直に言った。


「そっか……」


 陽春も照れているようだ。


「和人も――」

「おーい!」


 陽春が何か言おうとしたとき、小林の声が聞こえてきた。もう、ファミレスの前だ。


「達樹、遅れてごめん。いろいろあって」


「もう腹減ったよ」


「よし! ファミレス入ろう!」


 俺たち3人は2階にあるイタリアン系のファミレスに入った。


「いらっしゃいませ。あ、来たね」


 早速、入り口に笹川さんが居た。当たり前だが、ファミレスの制服を着ている。


「いらっしゃいました! 3人様だよ!」


 陽春が言った。達樹は笹川さんの制服に見とれているようだ。


「な、何よ」


 笹川さんが達樹に言う。


「か、かわいい」


「店員口説くのは禁止だから」


「俺と理子なんだからいいだろ」


「ダメ。はい、席はこっち」


 笹川さんが案内してくれた。


「もう、こうなるから来て欲しくなかったんだけど。陽春のためだからね」


「うん! 感謝!」


 陽春が笹川さんを拝んだ。


「はあ。ご注文が決まりましたらお呼びください」


 笹川さんは去って行った。


「陽春のためって?」


 俺は陽春に聞いた。


「いいの。気にしないで。さ、諸君、食べようではないか!」


 陽春はメニューを広げた。


 注文するものが決まり、俺は呼び出しベルを押した。すると、笹川さんが来た。


「お決まりでしょうか?」


「うん。理子ちゃん下さい!」


 達樹が言う。


「注文シートにメニューの番号を書いてお渡しください」


 笹川さんは冷静に言った。


「はい!」


 陽春がメニューの番号だけが書かれた注文シートを笹川さんに渡した。笹川さんはそれを見て全てのメニューを復唱した。


「すげー、暗記してるの?」


「だいたいはね」


「さすが」


「じゃあ、出来るまで待っててね!」


 笹川さんは去って行った。


「いやあ、理子の制服、かわいいなあ」


 達樹が笹川さんを目で追ったまま言っている。


「お前、メロメロだな」


「まあな」


 達樹のニヤニヤは止まらなかった。

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