第16話 陽春と高井さん
翌日、俺が登校して席に着くと、また高井立夏に話しかけられた。
「おはよう」
「おはよう、高井さん」
「櫻井君、文芸部に入ったの?」
「うん。浜辺さんに誘われて」
「そうなんだ。じゃあ、雪乃さんとも会った?」
「雪乃さん? って長崎先輩か。知り合いなの?」
「うん。だって、冬美のお姉さんだもの。知らなかった?」
「え、そうなんだ」
長崎副部長が長崎冬美のお姉さんだったとは。何か雰囲気が全然違うが。副部長は文学少女っぽいが、妹の方はギャルっぽいし。
そんなことを考えると、今日もまた大きな声が響いた。
「1組の諸君! おっはよう!」
浜辺陽春だ。
「浜辺さん、雪乃さんのこと、櫻井君に言わなかったの?」
高井さんが浜辺さんに尋ねた。
「え? ああ、妹さんのこと? 言うの忘れちった」
陽春が頭をかいた。
「ふーん、わざとらしいわね」
高井さんが言う。
「え? なんで?」
「冬美に近づいて欲しくないから言わなかったんじゃないかなって」
「ち! ちがうもん! ほんとに忘れてただけだし!」
陽春が大きな声を出す。
「まあ、俺は別にいいから。陽春も落ち着いて」
「ご、ごめんね。ウチが言い忘れたばっかりに」
浜辺さんが謝る。
「まあ、そういうことにしておこうかな」
高井さんは自分の席に向かった。
◇◇◇
私、笹川理子は親友の浜辺陽春がなにか落ち込んでいるようなので休み時間に話を聞いてみることにした。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うん。大丈夫だけど……」
「だけど?」
「高井さんがウチにきついのよね」
陽春が珍しく小声で話す。
「そうなんだ」
「やっぱり、和人を狙ってるのかなあ」
「どうだろ」
陽春は高井さんが櫻井君を狙ってるんじゃないかと前にも言っていた。
「高井さん相手じゃ、勝てないよ……」
「そうかな。櫻井君次第だと思うし、今のところ陽春がリードしていると思うけど」
「そう?」
陽春は急に元気になった。
「そりゃそうでしょ。図書委員に文芸部。お昼も一緒なんだし」
「だよね。えへへ」
「あっさり元気になったね」
「でもなあ、高井さん、強敵だよ……」
陽春はまた沈み込んでいる。
「面倒くさい女ねえ」
「そうなんだよ。ウチ、面倒くさいしうるさいし」
「ブラコンだし」
「ブラコンだし……って、それは関係ないでしょ!」
「ごめんごめん。でも、そんなに心配ならコクっちゃえば?」
櫻井君とはいい感じだし、成功するように思える。
「うーん、ガツガツ行って引かれた経験から、あんまり自分から行きたくないんだよなあ」
「ふーん、十分行ってると思うけど」
「分かってるけど……告白は失敗したら元に戻れないから。せっかくいい感じで来てるのに」
「まあね」
「逃したくないのよ。ウチを受け入れてくれる陰キャの人ってほんと貴重なんだから」
陽春は櫻井君に本気のようだ。
「うん、うん。そこまで思ってるなら私も協力してあげるから」
「ほんと?」
「うん。たいした協力じゃないけどね」
「理子様、頼みます!」
私はちょっとしたサポートをすることにした。
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