第14話 文芸部の先輩

 放課後、陽春が俺の席に来る。


「青年! 文芸部に行こうか!」


「何で青年だよ。まあ、行ってみるか」


 俺は今日、文芸部に体験入部で行くと陽春と約束していた。早速、陽春と一緒に文芸部の部室に向かう。文化系の部室は3階にあり、俺たちの教室からは1つ階を上ることになる。文芸部の部室は一番奥にあった。


「浜辺陽春! 入ります!」


 陽春は大声を出して扉を開けた。部屋の中には長机が4つ箱形に並べられており、奥の机に2人の生徒が座っていた。男女2人で両方とも眼鏡を掛けている。その後ろにはホワイトボードがあり、その奥は物置のようだ。


「……失礼します」


 俺は小声で部室に入る。


「おお! 君が新入部員候補か!」


 男子の方が俺に声を掛けてきた。2年生は陽春が一人だけということは3年生か。真面目そうな人だ。


「は、はい。体験入部と言うことで……」


「彼の名前は櫻井和人! ウチと同じ2年1組です!」


 陽春が大声で俺の紹介をした。


「……櫻井です」


「俺は部長の三上大地みかみだいち。そして――」


「私が副部長の長崎雪乃ながさきゆきのよ。よろしくね」


 女子の先輩が言う。黒くて長い髪に眼鏡。文学少女という感じだ。


「よ、よろしくお願いします」


「三上部長! 櫻井君はSFが好きであります!」


 陽春が俺をそう紹介する。


「おお! そうか、何を読んでる?」


「えっと、いろいろ読んでますけど……最近はアシモフとか」


「アシモフか、いいね。アシモフと言えば『我はロボット』だよな」


「はあ? 『黒後家蜘蛛の会』でしょ!」


 三上部長の言葉に副部長の長崎先輩が反論する。


「何言ってるんだ、アシモフと言えばロボット三原則。その原点となった『我はロボット』だよな!」


 三上部長は俺に同意を求めてきた。


「アシモフは推理小説作家としても名高いのよ。『黒後家蜘蛛の会』は傑作よね!」


 長崎副部長も俺に同意を求めてきた。


「まーた、始まった。お二人ともやめてください! 新入部員候補がびびってますので」


 陽春が二人をいさめる。


「そ、そうか。すまない」

「ごめんね」


 二人の先輩の謝罪に俺は恐縮してしまった。


「い、いえ……大丈夫ですけど、もしかしてお二人は……」


「うむ。俺はSF好きでミステリーも読む」


「そして、私はミステリー好きでSFも読むの」


「なるほど……」


 SFとミステリーは両方好きな人も多い。だが、その軸足がどこにあるかで大きく違う。2人は似たような作品を読むが、趣味はだいぶ異なっているのだろう。


「やっぱり、揉めたりするんですか?」


「しょっちゅうよ」

「そうだな」


 やばい、雰囲気が悪い部に来てしまったか。


「ふっふっふ。心配はいらないよ。だって、この2人、付き合ってるから!」


 陽春が俺に言った。


「え?」


 驚いて二人を見る。すると、2人ともさっきまでの喧嘩の様子から一変して照れだした。


「浜辺、いきなりバラすなよ」

「そうよ、陽春ちゃん……心の準備ってものが……」


「喧嘩もイチャイチャの一種だから。だから、ウチ一人でいるのつらくて。櫻井君、入ってくれると嬉しいな」


「なるほど……」


 陽春が俺の入部を熱望する理由が一つ分かった。


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