第13話 陽春のタイプ
翌日の昼休み。俺たちは昨日と同じく、屋上に集まった。俺は昨日、陽春に彼氏がいないことを確認したと小林達樹に話していた。それに触発された達樹はこの昼休みで笹川理子から彼氏がいるかどうかを聞き出すと宣言していた。
「あー、その……理子さんや」
「なに、達樹?」
「昨日、浜辺さんに彼氏がいないか和人が聞いたんだって」
俺は思わずむせた。
「いや、なんでそのまま言うんだよ」
「だって、まずそこからだろ」
「ふーん、陽春にねえ」
笹川さんが陽春を見た。
「な、なによ」
あれ? 陽春が動揺している。まさか、本当は彼氏がいるとか?
「ね、そのとき、私はモテないとか言ってなかった?」
笹川さんが俺に聞く。
「あー、言ってたね」
「やっぱり」
「え? 浜辺さんがモテない? そんなことないでしょ」
達樹がそう言った。
「ううん、ウチ、モテないよ」
「はぁ。陽春はいっつも、こう言うのよ。じゃあ言うけど、まず野球部の主将でしょ、サッカー部のエースに、バスケ部の期待のルーキー……」
「あわわ! ちょっとやめてよ!」
笹川さんの言葉に陽春が慌て出す。ん? 今のは一体……
「高校入学してからだけでも、あと3人には告白されてる」
「めっちゃ、モテてるじゃん。野球部の主将ってあの人気の先輩だよな。それにバスケ部の期待のルーキーってまさか同学年でモテモテの……」
小林は彼らのことを知っているようで、驚いている。
「もういいから!」
陽春が叫んだ。
「陽春、なんでそんな嘘を?」
俺は言った。
「嘘じゃない。ウチの……好みのタイプからはモテないの」
「好みのタイプ?」
「陽春はスポーツマンタイプだめだもんね」
笹川さんが言う。
「うん。ウチ、そういう人からばっかりモテるんだよねぇ。ウチが好きなのはもっと落ち着いたタイプで……」
「要するに陰キャ好き」
笹川さんが言う。
「え! そうなんだ」
達樹が驚いて言った。確かに陰キャ好きは珍しいかもしれない。それに陽春の性格とは真逆……。
「うん、まあね。そういうタイプの人と仲良くなろうとしても、避けられちゃって……」
「陽春ってうるさいタイプだから、逃げちゃうのよね」
「うん……。そういうタイプの人ってやっぱり同じような、おとなしいタイプの人が好きってことが多くて」
「なるほどなあ」
達樹が俺を見て言う。
「な、なんだよ」
「その点、こいつは珍しいタイプかもな、っと思って」
「うん、そうなんだよね」
陽春も言った。確かに俺は陰キャで、さらに陽春のうるささからも逃げようとしない。珍しいタイプかもしれないな。
「でも、なんで陰キャ好きなの?」
達樹が聞く。
「なんでって言われても……」
陽春は悩んでいる顔をした。
「あー、お兄ちゃんのせいだね」
笹川さんが言う。
「ああもう、言っちゃ駄目!」
陽春が両手をバタバタさせて騒いだ。
「お兄ちゃん?」
「うん。陽春のお兄さんが陰キャ」
「なるほど」
「陰キャじゃないもん。研究者! 全然違うから」
陽春が真っ赤になって大声を上げている。お兄さんが大好きのようだ。
「ね、陽春かわいいでしょ」
「うん、かわいい」
「もう、言わないで欲しかった……」
「それはともかく、理子は彼氏いるの?って聞きたかったんだけど」
達樹が言った。
「じゃあ、それはウチが話す!」
陽春が手を挙げた。
「どうぞ」
笹川さんはすました顔で落ち着いている。
「理子に彼氏は……」
「彼氏は?」
「今はいません!」
「へ、今は?」
「陽春、そこまで言っちゃう……」
笹川さんがあきれている。
「つ、つまり彼氏はいないってことだよな」
「そうよ」
笹川さんが言った。
「去年の秋頃までいたけどねー」
陽春がばらした。
「へー」
「そう。あんたが楓と付き合う直前までね」
「ふーん。そうか。別に俺は気にしないし、今がいないなら問題ないな」
「あっそう」
笹川さんはお茶を飲みながら言った。
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