第12話 陽春と書店

 俺たちは通町筋で路面電車を降り、大型書店に向かった。


「何見るの?」


「俺はSF」


「あー、言ってたね」


 とっさに書店に行くと言ってしまったが行く場所は決まっている。SFのコーナーだ。海外SF、国内SFをチェックする。


「うちは漫画かな」


「そっか、あとで合流する?」


「なんで? せっかく2人で来てるんだから一緒に見ようよ!」


「そ、そうか」


 俺たちは2人でまず1階にあるSFのコーナーに向かった。とはいえ、そうそう新刊が出るようなジャンルでは無い。本当は来る予定でも無かったし、特に見るべき新刊は無かった。


「ね、どれが今面白いの?」


 陽春はどれも知らないだろうからメジャーどころでいいだろう。


「うーん、これかな」


 俺は中国のSF『三体』を紹介する。


「へぇー。何か難しそう」


「そんなことないよ。実写化されてサブスクで見れるよ」


「そうなんだ。今度見てみようかな」


「俺は見たこと無いけどね」


「ないんかよ!」


 そして、俺たちは2人で漫画のコーナーに移動した。俺は普段見ることは無いから新鮮だ。


「あ、いろいろ新刊出てる」


 陽春は楽しそうに本を手に取っている。

 俺も近づいてみたときだった。


「あれ? 浜辺さん? それに櫻井君も」


 近づいてきたのは制服姿の女子。同じクラスの委員長・山崎奈美だ。


「あ、委員長! お疲れ様です!」


 なぜか陽春は委員長に敬礼した。


「何で敬礼よ。それにしても2人?」


「うん!」


「へー、お邪魔だったかな」


「え?」


「だってデート中でしょ」


 すると、陽春の顔が途端に赤くなり出した。あいつも照れることあるのか。


「いや、俺たち今日、図書委員だから。帰りに本屋に寄ってみただけ」


「ふーん」


 委員長は怪しげに俺たちを見た。


「まあいいけど。別に隠す必要は無いわよ」


「隠してないし。それに俺がこんな可愛い子と付き合えると思うか?」


「か、可愛いとか」


 また、陽春の顔が赤くなり出した。


「あらあら。まだ口説いてる途中みたいね。やっぱりお邪魔みたいだから、じゃあね!」


 委員長は去って行った。


「なんか変な誤解されたかな」


 俺は陽春に言った。


「ま、ある意味正しかったんじゃないかな」


「え?」


「無自覚……」


 陽春はぼそっと言ってまた漫画を見始めた。


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