第11話 陽春と電車

 俺たちは到着した路面電車に乗り込んだ。座席は空いていたので2人で横に座る。


「もう名前呼びでいいかな?」


 時間も遅かったので周りに同じ学校の生徒は居なかった。


「そうだね、和人!」


 う、名前で呼ばれるとやっぱり照れるな。


「ふふ、また赤くなってる。かわいい」


 何か悔しい。反撃しよう。


「やめろよ。陽春」


 名前呼びしてみるが、陽春は照れたりしなかった。


「なんで照れないの?」


「だって、友達はみんな陽春って呼ぶから慣れてるよ」


「そっか、男子にも呼ばれ慣れてるの?」


「うーん、ま、まあそうかな」


 そうか。やっぱり男子の友達とか多そうな子だよなあ。明るくて元気でかわいいし。

 俺は気になっていることを聞いてみることにした。


「あのさ……」


「何?」


「陽春は、その……彼氏とか居るのかなって……」


「え? ああ。……ごめん」


「え、それって……」


 やっぱり居るんだ。ショックが体を駆け抜ける。


「男子にも呼ばれ慣れてるって嘘。彼氏とか居ないし」


「え?」


 そっちのごめんかよ。嘘付いてごめんの方だったのか。


「正直言うと、今まで彼氏いたこと無いんだ」


「え? 嘘でしょ」


「実は本当なんだよねー」


「そうなんだ。ちょっとびっくり。だって……」


 こんなに可愛いのに。


「だって?」


「あ、いや……陽春、モテるだろうから」


「え? そんなことない、モテないよ。ウチより理子の方がモテるんだから」


「そうなんだ」


 確かに笹川さんも美人だが、陽春の可愛さに加え元気の良さは人気があるものと思っていた。


「で、そっちは?」


 陽春が聞いてきた。


「え?」


「だから、彼女! 和人は居るの?」


「は? いや、居るわけ無い。今までも無いよ」


「ふーん、そうなんだ」


「何、その信じられないって言い方」


「だって、和人こそモテそうだと思って」


「は? 俺のような陰キャがモテるわけ無いでしょ。女子と話すこと自体ほとんど無いよ」


「ほんとかなー?」


「ほんとだよ」


「だって、朝、高井さんと話してなかった?」


「あ」


 確かに話したな。なんで話しかけられたかよくわからなかったけど。


「あの高井さんが話しかける男子、そんなに居ないよ」


「それは……俺もなぜ話しかけられたか分からない。今朝、急にだった」


「そうなの?」


「うん。今までほとんど話したこと無いよ」


「そうなんだ。何か最近、高井さんとあった?」


「別に何も……あっ」


 ゲーセンで達樹が声かけて無残にも断られたんだった。だが、コレは言えないか。まさか陽春と理子の2人に声かける前にあの2トップに声かけてたなんて。


「やっぱりあったんだ」


「いや、嫌われるようなことはあっても好かれるようなことは無いよ」


「えー、怪しい。何があったの?」


「それはちょっと……」


「むぅ、怪しい」


「いや、あの……達樹と相談してから話すから今日は勘弁して」


「小林君? ふーん、じゃあ今日のところは勘弁してあげる」


「ごめん」


 達樹とどう話すか相談しよう。


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