第10話 図書委員

 放課後になった。陽春が俺の席に来た。


「図書委員の君! 仕事に行こうか!」


「そうだな」


 俺と陽春は図書室に向かった。2人とも去年やっていたので、慣れている。俺たちは返却された本をてきぱきと棚に戻す。あとはカウンターの仕事ぐらいだ。俺がカウンターで貸し出しの受付をしているとそこに2トップの1人、高井立夏が来た。


「お疲れ様」


「あ、高井さん。本借りに来たんだ」


「うん。櫻井君が今日、図書委員みたいだったから来てみた」


 教室で陽春が大声で言ったからなあ。

 でも、なんで俺が図書委員すると高井さんが来るんだろう。


「あ、普段借り慣れてないとか?」


「そういうわけじゃないけど……」


 高井さんが言葉を濁していると後ろからもう1人の2トップ長崎冬美が来た。


「立夏、もう借りたの?」


「あ、うん」


「ちょっと待ってて。まだ決まってない」


「うん、いいよ。じゃあ待ってる」


 高井さんは近くの席に座って本を読み始めた。


 暇になった陽春が俺の横に来た。


「あれ? 高井さん、来てたんだ」


「うん。長崎さんも居るよ」


「へぇー、珍しいね」


 そこに長崎さんが本を持って来た。


「あ、長崎さん。2冊ですね」


 陽春がバーコードを読み取り本の貸し出し処理をする。


「はい、一週間後までです」


 陽春が本を長崎さんに渡した。


「ありがと……図書委員同士、仲いいのね」


「え?」


 俺は長崎さんを見た。


「なんか距離近いから」


「あー、カウンター狭いんで」


「う、うん。俺、棚整理に行ってくる」


 俺は何か恥ずかしくなってカウンターから外に出た。


◇◇◇


 ようやく図書委員の仕事が終わった。


「櫻井君、帰ろうか!」


「そうだね」


「私は路面電車だけど櫻井君は?」


「俺もだよ。どこまで行くの?」


「ウチは熊本駅」


「そっか。俺は新町だからなあ」


「完全に路線違うね。残念!」


 熊本駅行きはA系統、新町は上熊本駅行きのB系統の路線だ。途中までは同じだが辛島町から分岐していく。だから、俺と陽春は同じ電車では帰れない。

 でも、残念と言ってくれるのが嬉しかった。


「あ、でも俺は街中にちょっと寄ろうと思ってるから同じ電車で行こうかな」


 単に『街中』と言うとそれは熊本の中心街である下通りや上通りのアーケード街を指す。そこはまだ路線が分岐する手前だから俺も陽春と同じ電車に乗れる。

 本当はどこにも寄る予定は無かったが、一緒の電車に乗りたいから嘘を言った。


「え、どこに寄るの?」


 し、しまった。何も考えてなかった。


「あー、本屋」


 咄嗟に答えた。これなら違和感ない。


「じゃあ、ウチも行こうかな!」


 マジか。期せずして放課後デートみたいになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る