第9話 名前呼び

その日の休み時間。4人のグループにメッセージが来た。


小林『みんなで一緒にお昼食べない?』


 それを見た笹川さんが浜辺さんのところに行って何か話し合っているようだ。

 やがて、メッセージが来た。


浜辺『いいよ! みんなで屋上行こう!』


 屋上か。おそらく、あの2人はいつも屋上に行ってるのだろう。


笹川『バレないように来てよ』


 そうだな。みんなで一緒に行ったら4人で食べているのがバレてしまって、からかわれるだろう。

 小林が了解のスタンプを送っていた。俺は「了解」とだけ送った。


◇◇◇


 お昼休み、浜辺さんと笹川さんが教室を出て行った後、しばらくして俺と小林も屋上に向かった。

 屋上に出ると結構人が居た。俺と小林は2人がどこに居るかを探す。


「こっち、こっち!」


 浜辺さんの大きな声で場所が分かり、俺たちはそこに向かった。


「いつもここで食べてるの?」


「うん、そうだよ」


「じゃあ、俺たちがお邪魔する形だな」


「我が家にいらっしゃーい!」


 相変わらず浜辺さんはテンションが高い。


 食べながら朝の小林と笹川の話になった。名前呼びの話だ。


「名前かー、ウチはかまわないけどね」


 浜辺さんが言う。


「まあ、陽春はるはいい名前だもんね」


 笹川さんが言った。


「えー! ウチはあんまり好きじゃ無いよ」


「え、そうなんだ」


「そうだよ。でも、名前で呼ばれると距離近くなった感じになるからいいと思うけどな」


「まあそうだけど。男子は女子を名前で呼びたいものなの?」


 笹川さんが俺たちに聞く。


「俺は呼びたい!」


 小林が言った。


「俺は……ちょっと恥ずかしいかな。今まで呼んだこと無いし」


「へぇー、じゃあ櫻井君の初めて、ウチがもらっちゃおうかな。陽春はるって呼んでみて」


 浜辺さんが可愛くおねだりした感じで俺に言ってくる。


「は、陽春はる……」


 俺は赤くなっていた。


「うわー! 照れてるねえ、青年!」


 浜辺さんがからかってくる。


「う、うるさいよ」


「あ、生意気だなあ、青年。生意気だぞ! 和人!」


 浜辺さんが俺を名前で呼んだ。俺はさらに顔が赤くなるのが分かった。


「アハハハ! 和人、かわいいね」


「う、うるさいよ。俺はこういうのに慣れてないんだよ」


 そんなことを言っていると隣で笹川さんが小林に言った。


「うわあ、イチャイチャはじまっちゃったよ、どうする?」


「櫻井のこんなところ初めて見たな」


「そうなんだ。陽春は平常運転かな」


「だろうな」


「でも、陽春、楽しそう」


 それを聞いた陽春は言った。


「で、理子はどうすんの? ウチは名前呼び許したよ」


「え、今のでもう許したことになるの?」


 俺は驚いて言った。


「うん。和人だけね」


「えー、俺は?」


「小林君はまだダメかな。仲良くなってないし」


「えー!」


「じゃあ、私もダメ」


 笹川さんも言った。


「なんで! ここは俺と笹川さんでオッケーにする流れでは?」


「だって、私もそんなに仲良くないし」


「えー!」


 俺は思わず笑った。


「なんだよ、和人。お前はいいよなあ」


 小林が俺を名前で呼んできた。


「おい! 俺を名前呼びするのかよ」


「それぐらいゆるせよ、和人」


「そうだな、小林」


 俺はわざと今まで通り呼んでみる。


「……お前、俺の名前知ってるよな」


「えっと……なんだっけ?」


 俺はとぼけた。


「達樹だよ、た・つ・き」


「あ、そうなんだ」


 笹川さんが言った。


「ちょっと、へこむんでやめて」


 小林が言う。


「ふふ、冗談冗談。ちょっとは可愛いところもあるね、達樹」


「え! 今、達樹って……」


 笹川さんに初めて名前で呼ばれて小林は驚いているようだ。


「呼んじゃダメなの?」


「いい、いいです! 理子」


「何、名前で呼んでんのよ。私は呼んでいいけどあんたはダメ」


「えー!」


 俺たちはたくさん笑った。そして、笹川さんは言った。


「はあ、笑った笑った。でも、うちらだけの時はいいよ、達樹」


「え?」


「だから、理子でいいよ。うちらしか居ない時は」


「あ、ありがとう、理子!」


「ふふ、いいよ、達樹」


「でもそうだね。普段はやめたほうがいいな。教室とかはね」


 俺は言った。


「そっか……じゃあ、私たちだけで居るときね」


 陽春もそう言ったので、俺たちは4人で居るときだけ名前で呼ぶことにした。

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