第6話 ガーデンカフェ

 小林がしゃべらなくなり、みな黙ったままになった。こんなとき、陽キャの浜辺陽春がしゃべってくれるかと思ったが、何もしゃべってくれない。ニコニコしたまま俺を見ている。仕方ない。俺は浜辺さんに話しかけてみることにした。


「浜辺さん、アニメ好きだったんだね」


「うん、そうだよ。だから文芸部入ったんだー」


「え? 文芸部ってアニメも扱うの?」


「あー、アニメは扱わないけど漫画は扱うから」


「そうなんだ」


「うん。ウチの学校、漫画部は無いでしょ?」


「そっか」


 それで会話が止まってしまった。何か話さなきゃ。そうだ。文芸部について聞いてみよう。


「文芸部って部員多いの?」


「少ないよ。3人しか居ない」


「3人? それで部活成り立つの?」


「成り立たないよ。5人は居ないと廃部になっちゃう」


「え? やばいんじゃない?」


「うん。一年生に期待してるんだけど、もし入部無かったらマジでやばいんだ」


「へぇー。じゃあ、櫻井入れば?」


 ここまで黙っていた小林が急に会話に入ってきた。


「え? 俺?」


「うん。だってお前帰宅部だろ。それに本好きだし」


「いや、そうだけど……小説書いたりは出来ないぞ」


 確か文芸部はそういう活動をやっていたはずだ。


「もし、櫻井君入ってくれたら嬉しいなあ!」


 浜辺さんが俺を期待のまなざしで見つめてきた。


「でも、2年で新たに部活入るって何か……」


「大丈夫! いま2年生、ウチだけだし」


「え? そうなの?」


「うん。だから入ってくれると助かるんだー」


 浜辺さんは相変わらず期待のまなざしだ。


「……分かったよ。考えてみる」


「ほんと! ありがと!」


 浜辺さんが俺の手を取って喜んでいる。


「あ、ははは」


 俺が照れ隠しに笑っていると、小林がニヤニヤして俺を見てきた。


「なんだよ」


「いや、俺より先に青春始まってるから」


「はあ?」


「あんたは青春終わったよね」


 笹川さんが小林に言う。


「え、ひどいなあ。終わってないから! 中休みだから!」


「楓に言いつけるからね」


「えー! 何をだよ」


「私のことナンパしてきたって」


「いや、ナンパじゃないから。っていうか、今更、楓に何言われても俺は関係ないし」


「そっか。別れたんだもんね」


「……まあな」


 また小林の元気がなくなった。


「へぇー、楓、別れたんだ」


 浜辺さんは初めて聞いたようだ。


「あ、知らなかった?」


 笹川さんが言う。


「あれ? 小林が楓さんと付き合ってたことは2人知ってたの?」


 俺は思わず言った。確か小林は内緒にしていたと言っていたが……


「「うん」」


 2人ともそう答えた。


「小林は隠してたって言ってたけど」


「はあ? みんな知ってるよ」


「え! 隠してたのに」


 小林が驚いて言う。


「いや、どう見ても見せつけてる感じだったけど」


「うん。あれで隠してたんだ……」


 どうやら周りにはすっかりバレていたようだ。


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