第3話 少女と聖女②

「ところで、女神様はすごく人間らしい観点をお持ちなのですね。」

『まあ、私も元は人間だったからね。』

「そうなんですか?」

『そうよ、生きていた頃は聖女をやってたんだけどね。』


 そう、実はこう見えて私は生前それなりに名の通った聖女だったのだ。


「聖女様⁉︎やっぱりうんこのですか?」

『いえ、別の聖女よ。』


 やっぱりってなによ、普通に考えてうんこの聖女なんてなりたくないわ。


「そういえば、聖女様と言うのは具体的にはどのようなことをなされるのでしょうか?」

『聖女の役割?そうね、まあ簡単に言うと女神の代弁者ね。』

「大便者⁉」

『代弁者ね、なんとなくだけどあんたの考えてるものと違う気がするわ。要は女神の代わりに信仰を広げたり、信託を受けて女神の言葉を信者たちに伝えるの。女神にとっては信仰こそが力だからね。』


 女神は信仰が多ければ多いほど、力を手に入れ、その力を加護や祝福にして信者や世界に還元することができる。女神と信者はそう言った関係にで成り立っている。


「なるほど、でも私は聖女様じゃないのに女神様と話せていますよ?もしかして私を聖女様に選ばれたのですか?」

『あー、それは恐らく他に信者がいないからじゃないかしら?』

「そうなんですか……」


 そう言ってマリアは少ししょんぼりしている、だが普通に考えてうんこの女神の聖女なんて目指すもんでもない。


「では聖女様にはどうやってなるんですか?」

『んーそうね、方法なら二つあるわ、正確に言えば聖女には二種類あるの。』

「ニ種類ですか?」

『ええ、一つは人が選んだ聖女ね、信者の女性の中から見た目、振る舞い、そして魔力などを基準に聖女候補を選び、そして儀式を通して女神に正式なや聖女として認めてもらうの、これが一般的な聖女のなり方ね。そしてもう一つが神聖女しんせいじょと呼ばれる女神自らが選んだ聖女よ。選ぶ基準や法則は特になく単に女神の好みと言ったところね。』

「好みですか?魔力や信仰心とかではなく。」

『ええ、普通の聖女はそこから候補を選ぶけど、神聖女の場合は魔力や聖力なんてものは女神が与えてくれるから関係ないのよね。』


 私なんて元はただのコソ泥で追手から逃れるために適当に入った神殿で、聖女のふりしてたらその姿が理想の聖女っぽいって理由で女神に気に入られて選ばれたくらいだし。


 ……今思うととんでもないな、当時は女神が本当に存在することすら知らなかったというのに……

 顔が良ければ何でもあり的なスタンスだったから私の仕えていた女神様はなかなかぶっ飛んでいたと思う。


「その双方の聖女様には違いはあるのですか?」

『勿論あるわ、まず大きく違うのは加護の違いね。例えば水の聖女なら人が選んだ方では聖力を使って、雨を降らしたり激流を緩めたりと水を操ることができるの。でも、神聖女になれば聖女に相応しい魔力と聖力を女神から授かり、加護も使い方次第では街一つ水没させることができるほどの力をもらえるの。』


 まあ勿論どの女神の聖女になるかにもよるけどね。

 信者の少ない女神だとその分加護や祝福の力も少ない、だからこそ聖女も布教活動に力を入れるんだよね。


『それくらい恩恵に差があるのよ、ただその分当然リスクにも差があるけどね。』

「リスク……ですか。」

『ええ、普通の聖女は途中で引退することができるし結婚もできるけど、神聖女は女神に御身を全てを捧げるから一度聖女になれば、やめることも結婚もできない。もし、破ろうものならそれ相応の罰を受けるわね。』

「ちなみに、女神様はどちらだったのですか?」

『勿論、神聖女よ。』


 まあ、私の場合は選択の余地がなかったんだけどね、聖女にならなきゃ追っ手に捕まってたし。

 でも衣食住に困ることはなかったし、お金も信者からの寄付金がたんまり入ってさらに結婚願望もなかったから結果的に万々歳だったけど。


「ちなみにうんこの聖女様になればどんな力が?」

『え、私の加護?さあ、与えたことないからわかんないけど多分、お腹の調子を整えたり、便秘を解消したりできるんじゃないかしら?後は相手をお腹を壊したりするとか?神聖女となれば信者の全体の体調管理とかもできるかもね……知らんけど。』


 適当に言ってみたけど実際、この程度だろう。女神の力は信仰力なので0人の私にはこれが限界だ。


 ……何故この子は目を輝かせているんだ?


「素晴らしいです!便秘は女としての最大の悩みであり、お腹を壊さないと言うなら母も存分に野草が食べれます!それに相手のお腹を壊す力!これがあれば相手を傷つけずに、無力化できます!」


 そうなんだけどなんか違う!そして無闇に母に野草を食わせるな!

 ……て言うか、この子さっきからやたら聖女に食いついてくるわね?まるで聖女を目指してるかの様に……


 『……ねぇ、あなたもしかして聖女になりたいの?』

「はい!」

 『何の?』

「うんこです!」


 そんなはっきり言わなくても。


「……駄目でしょうか?」


 マリアが下から覗き込む様に見つめながら懇願してくる。


『……ちょっと、考えさせて。』


 いやいや、考える間もなく無しでしょ。だってうんこの聖女よ?私が言うのもなんだけどあの臭くて汚い汚物だよ?

 それをこんな清楚で愛らしいマリアに……しかもあのランドルフの子孫を私の聖女になんかにしたらあの世からでもあの騎士が襲って来そうだもん。

 それに向こうは貴族のご令嬢、かたやこっちは下品なうんこの女神、比べる必要もない、断ろう、丁重に。


『マリア、あなたの気持ちはうれしいけど、それは難しいと思うわ、だってうんこだもん、家の人が許してくれないわよ。』

「両親は頑張って説得します!精一杯うんこの魅力を語ればきっと両親も許してくれるはずです。」


 どうだろうか?私は貴族ではなかったが、貴族の相手ならたくさんしてきた、その中で貴族の女性というのは噂がものをいう世界だ、そんな世界でうんこの信者というだけでも大変だというのにうんこの聖女になることなんて許す親がいるだろうか?

でも野草を食べて腹を壊すような親だからなぁ……割とあり得るのかもしれない。


『それにあなた貴族でしょ?貴方ほど可愛い子なら婚約者とかいるんじゃないの?』

「んー、その件に関しては現在少し複雑な状況なので、寧ろ結婚できない状況を作った方がすっきりすると思います、うんこをした後のように!」


 そう言ってマリアは苦笑いを見せる、最後のは余計だけど色々揉めてるのね、まあ家柄も良くてこの可愛さなら相手も後を絶たないだろうしなあ。

なんか、余計に断りずらいな。


『そもそもメリットがそこまでないじゃない?お腹の調子なんて薬でなんとかできるわよ?』

「最大のメリットはこうして女神様とお話しすることです。」


 ぐはっ、ここに来て胸に突き刺さるような言葉を。


『それなら今でも――』

「今だけですよ、これから私がたくさん信者を増やしますから、いずれは国中をうんこの信者で一杯にしてみせます。」


 それはそれで嫌なんだが……やっぱりダメだ、ちゃんと断らないと、私が認めなければ聖女になれないんだから。


 ……だけど、もしここでこの子を受け入れなければこの先、新たな信者なんて見つかるかどうかも分からない。

 そうなればまた何百年と一人でここにいることになる。


 ……


「……三年。」

「はい?」

「三年間の間にあなたの周囲の人間を全員説得しなさい、それで周りを納得させて、その三年の間で貴方も気持ちが少しも変わらなかったら聖女にしてあげる、そしてそこから更に三年聖女を務め、身を固める覚悟ができたら神聖女にしてあげるわ」

「女神様……」


 この三年区切りはいわば猶予のようなものだ、私の聖女になるって事は相当なリスクになる。

 マリアは本当に愛らしい、それは女性にとって大きな武器であり弱点にもなる。

 三年あればきっと沢山の人がこの子の聖女を諦めさせようとするだろう、それでも聖女になることを選んだとしても、次はうんこの聖女という肩書によって辛い目に会うこともあるだろう。


 それでも諦めずに神聖女を目指したいというなら、その時は私はこの子を私の聖女にしよう。


「わかりました、ではこの三年間の間に周囲を説得し、立派な聖女になれるように勉強させていただきます」

『せいぜい頑張りなさい。』

「はい!頑張ります!」


 そう言ってマリアはやる気に満ち溢れた笑顔で、返事をする。

 だが、この時の私は知らなかった、このマリア・ランドルフという少女がどういう子供なのかを、そしてこの子がうんこの聖女になることを頑張ることが周りにどういう影響を与えることになるのかを……

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