第2話 少女と聖女①

「女神様、うんこって素晴らしいですね!」


 やってきて早々何言ってんだこのは。


 神殿に訪れると同時に眼を輝かせてうんこを讃えるマリアに思わず顔を顰める。

 いや、うんこの女神としては喜ぶべきなんだろうけど、幼い少女に笑顔で言われると私が教えたわけでもないのになんだが無知な子供に変なことを教えている様な気持ちになる。


「人は、いえ、この世に生きる全ての生き物はうんこに生かされてます、うんこをすることによって体にある不純物を取り除き、うんこの臭いや具合を見ることによって健康面を確認することもできます。更に動物の中にはうんこの独特の臭いを利用して縄張りの主張をするものもいるとか、まさにうんことは生き物が生きるのに切っても切り離せない存在、世界はうんこで回っているといっても過言ではありません」


 過言だと思うけどなぁ。


 熱弁はありがたい?が、うんこうんこうるさいな。

 ここまでうんこを神聖化する人は初めてだわ。


 私はうんこの女神だから本来はこの様な思想は喜ぶべきなんだろうけど、人間として生きていた記憶が残っているので素直に喜べない。


 このうんこを語る少女、マリア・ランドルフと出会って早一ヶ月、彼女は定期的にここを訪れては調べたうんこの知識を語って帰っていく。


 一ヶ月前、彼女が助けを求めてきた母親は食中毒による腹痛を起こしていたようで、幸いなことにうんこの女神である私の力で無事治すことができた。

 原因も特に毒に守られたという訳でもなく、食べたものが原因らしいが、貴族が一体何を食べて食中毒を起こしたのか気になるところでもある。


 症状も深刻なものではなく別に私が助けなくてもあと数日もすればも治っていただろうけど、普段からしっかりしているように見える大人が苦しむ姿は子供にはかなり深刻に思えたようだ。


 そして、無事腹痛を治すとマリアは家族と共にこの村を去り、もう会うことがないだろうと思っていた数日後、再びやってきたと思ったら自分で調べたうんこの話を語りにここへ通うようになっていた。


「知っていますか?農家の方々が作る畑の肥料にはうんこが使われているそうです。あと動物の中にはまだ幼い子供のために母親が自分のうんこを食べさせたりして栄養を与えている生き物もいるとか。」

『へぇーそうなんだ。』


 臭くても……いや、腐っても、こちらはうんこの女神である。

 うんこの知識に関しては無自覚に身につけており、ここの世界だけでなく異世界からの知識も取り入れているので自慢じゃないがうんこに関しては誰よりも知識はある。

 だが、誇らしげにうんこを語るマリアの愛くるしさにこちらも相槌を打つしかない。


「まさにの神秘ですよね!」

『そうね、まさにの神秘ね。』


 敢えて言い直して同意するがマリアは気にすることなく、うんこの神秘として私の女神像に対して祈りを捧げる。

 この影響もあってか心なしか最近力が増してる感じもする。


『ところで、あなたの母親はもう大丈夫なの?』

「あ、はい、先日はお騒がせしました。あの後聞いた話ではどうやら村に滞在中に見つけた野草を食したのが原因だったようです。」


 なんで、貴族が野草の拾い食いなんてしてんのよ。


『……あんたら、本当に貴族なのよね』

「はい、我がランドルフ家はここ一帯の領地を治めております伯爵貴族です。」


 成程、ここの領主様だったか……ん、ランドルフ?


『そう言えば今思い出したけど、昔ランドルフって、騎士がいた様な……』

「はい、我が家は代々王家の騎士として仕えている家柄で、父も国の騎士団長を勤めておりますよ?」

『やっぱり!て事はあの堅物騎士の家系か!』


 私が人間だった頃のランドルフと言えばそうだった。王子の右腕にして王国最強の騎士、私も何かと縁があって、何故か目の敵にされてたっけ?

 あの騎士の末裔が、田舎の神殿に通ってうんこを語っているなんて……

 これは私のせいなのか?私が悪いのか⁉︎


 いや、私は悪くない!うんこの女神として仕事をした……訳でもないのになんかこの娘が勝手に信者になっただけだ。

 今のランドルフ当主がどう言う人物なのかは知らないが、女神になった今でも私は未だにちょっとしたトラウマが残っている、よし、この子には悪いけどここはちょっと距離を置いてもらおう。


『と、ところであなた貴族令嬢なんでしょ?ここに来るばかりじゃなく勉強とかお茶会とかはしないの?』

「勿論ありますよ、ですが女神様とお話がしたくてしっかり日程を合わせて会いにきていますのでご安心ください。」

『へ、へえ……、ならいいんだけど。』


 そんなこと言われたら、来るななんて言えないじゃない。


「先生方にも信仰している神殿へのお祈りを理由に話したところ、喜んでスケジュールの見直しをしてくださいました。」


 きっとうんこの女神ということは言ってないんだろうなあ。

 こんなうんこを讃えている以外見た目も中身も清楚な少女の言葉なら、自然と愛や光の女神の信仰と判断してしまうだろう。


「……あの、もしかしてここに来るのは迷惑だったでしょうか?」

『え⁉いや、そんな事はないわ、ただ私なんかと話してていいのかなと思って。ほら、私うんこの女神だし、嫁入り前の貴族令嬢なんかが話して悪い噂が流れたりしない?』

「そんなことありません!うんこは素晴らしいです!うんこの女神様と話せる事はほまれであっても恥ではありません!」


 きっとそう思っているのは貴方だけよ。


「それに私、女神様と話すのがすごく楽しいんです。」


 ほんと、この子は……


 何でこんな可愛い事を言うんだ、あとはうんこさえ語らなければ完璧なのに。


「うんこの話ができるので!」


 ほんと、この子は……


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