第49話 乗りたくないと叫んでも聞いてもらえず、天馬に乗せられて空を飛んで悪を退治するのに付き合わされました

エンゲル軍を完全に海の藻屑として帝国艦隊は歓喜の渦の中にいた。

船の操船をしている人達は両手を振って喜んでいたし、騎士達は剣を掲げて何か叫んでいた。


海戦とは、本来魔法を打ち合って船を傷つけて、最後は兵士が船に乗り込んで白兵戦で決着つけるって聞いていたんだけど、この戦いはルヴィがソニックブレードで大半の船を沈めて、残りを魔術師が寄って集って敵船を破壊して沈めて、終わりだった。


こちらの被害は殆どなかい。

完全に圧勝だった。



「ようし、これから行くぞ」

「「「「おーーーー」」」」

ルヴィの掛け声に皆雄叫びで応えていた。

こんなに簡単に片付いて良いのか?

まあ私はただ船に乗っているだけだけど……

しかし、そんな甘いことは続かなかったのだ。




「ルヴィ、敵の動きがきな臭いそうだ」

そこへ、ダニエルさんが帝国の影を連れてきてくれた。


「どういうふうにきな臭いのだ?」

「はっ、殿下。我が方へ参加の申し送りをしてきた貴族に対して、順番に拘束に回っているそうです」

「そうか。味方の全貴族に連絡。後2時間でハウゼンに上陸するとな。それまで持ちこたえろと伝えろ」

ルヴィは言ってくれた。


「エンゲルの奴らも我らが上陸すれば、もう、ハウゼンの貴族たちに構っている余裕は無くなるだろう」

「はっ」

影の一人が前から消えた。


「しかし、その一部が上陸予定地点のフェルマン子爵家に捕縛が向かったとの報が入ってきました」

影の一人が報告した。


「影だけで対処は出来ないのか?」

「出来なくはありませんが、多少は犠牲が出るかと」

「判った。私が出よう」

ルヴィが自ら進んで言ってくれた。でも、第一皇子が勝手に一人で出て良いのか?

とは思いはしたが、ルヴィはこれ以上犠牲者がでないようにシロに乗って乗り込んでくれるんだ。

なんて部下想いの優しい皇子なんだろう!

と私は愚かなことに感謝までしたのだ。


「有難うルヴィ。我が国の貴族のために乗り込んでくれるなんて」

私は感激して言ったのだ。


「何を他人事のように言ってくれるんだ?」

ルヴィが私を見つめてきた。


私はその視線に不吉な予感がした。でも、まさか、私に一緒についてこいなんて言わないだろう?


「えっ? だって一人で行ってくれるんでしょ」

私はそう思ってルヴィを見た。


「はああああ? リナ一人をここに残しておくなんて出来るわけ無いだろう」

ルヴィが言ってくれるんだけど……


「えっ、でも、この船の中なら安心なんじゃ」

「何言っているんだ。タウゼンの司令部が昨日エンゲルの影に襲われたらしい。

この船といえども安心かどうかは判らん」

ルヴィが心配して言ってくれるんだけど……


でも、私が最前線に立たないといけないの?

それはなにか違うような気がする。


いや、私としては別に立っているだけなら問題はない。


でも、シロに乗っていくということは、また空を飛ぶということで……

私はそれだけは避けたかった。


「ごめん。ルヴィ、目眩がしてきた」

私は頭を押さえたんだけど……


「大丈夫だよ。リナ。俺と一緒に飛べば治るから」

「えっ、いや、絶対にもっと酷くなるって」

私は逃げようとした。

「大丈夫だよ。リナ。俺を信じろ」

「いや、だから」

絶対に信じられない。と言うか空飛ぶの無理だから!


「リナ。お前はまたこの前の子爵令嬢みたいな犠牲者が手でもいいというのか?」

「それはそうは思わないけれど」

ルヴィからそれを言われると私は何も言えない。


「じゃあ、行こうな」

ルヴィはそう言うと私を抱き上げてくれたんだけど……


いや、だから一緒に飛びたくない!


私は周りに必死に助けを求めたのだ。


でもだれも助けようとはしてくれなかった。


それどころか皆私を感嘆の瞳で見てくれるんだけど。


いや、だから乗りたくないって!


でも私の心の叫びは誰も聞いてくれなかった。


そのまま私はシロに乗せられたのだ。


そしてその後ろにルヴィが乗ってくれた。


「いや、ルヴィ、私、この船に残りたい」

私は必死に言ったのだ。


「もう、遅いよ」

そう言うとルヴィはシロの手綱を引いてくれたのだ。


ヒヒーーーーン

シロは叫ぶと空に飛び出してくれたのだ。


「ギャーーーー」

私の悲鳴を残して!


私は思いっきりルヴィにしがみつくことしか出来なかった。


私は両目をつぶってルヴィに必死にしがみついた。

振り落とされたら嫌だ。

死ぬしかない。

絶対にそんな事はしないってルヴィは言ってくれたけれど、そんなのわからないじゃない!


シロはグングンスピードを上げていくのが判った。

前から凄まじい風が当たる。


私はもう気を失いたかった。


でも、それも出来ない。

その間に落ちたらそれで終わりだ。

私は歯を食いしばったのだ。


「リナ、下に港が見えてきたぞ」

と言われても目を開けて見る余裕はなかった。


「ようし、あそこか。行くぞリナ。ちょっと衝撃を受けるかもしれないけれど大したことはないから」

「えっ、ちょっと……」

待ってよと言いたかったが、言う暇もなかった。


バリン

「ギャーーーー」

凄まじい衝撃で全身なにかの破片を受けていた。

もう死んだ!

そう思った時だ。



ダン、という音とともに、やっとシロが止まってくれたのだ。


「よし、終わったぞ」

そう言うとルヴィが私を抱いたまま、飛び降りてくれたのだ。


もう、やめてよ。いきなり飛び降りるるのは……


「あ、アデリナ王女殿下」

私は壮年の男性の声が聞こえた。


恐る恐る目を開けると、ガラスの飛び散った悲惨な状態になった応接が目に入った。


壁から生えている? エンゲルの兵士が3体と倒れている5体が見えた。


そして、その周りには跪いている子爵と思しき壮年の男性とその妻と娘がいたのだ。

私をルヴィは降ろしてくれた。

でも待って! 腰が抜けているから……

私の心の声はルヴィに伝わらずに、私は腰が抜けて、そのまま転けそうになってしまったのだ。


慌てた、ルヴィが支えてくれたから事なきを得たけれど……


「(自分がここまで無事に来れて)死ななくてよかった」

ホッとして思わず私は言ってしまったのだ。

まずいと思ったけれど、ここまでの恐怖で涙が出てきてそれどころじゃなかった。


「あ、ありがたきお言葉。私等のために泣いて頂けるとは。一生涯殿下に忠誠を誓います」

子爵が勘違いして感動してくれたんだけど、私は聞いている余裕もなかったのだ。


でも、それが間違いだったのだ。

子爵の勘違いをここで絶対に正さなければならなかったのだ。


王女殿下はエンゲルの乱暴から貴族を守るために、婚約者に命じて命がけで貴族の屋敷に天馬に乗って空から突入してくれたという、神話が生まれてしまったのだ。


その結果、何度もルヴィに無理やりシロに乗せられて、貴族の邸宅に突撃させられる羽目になったのだ。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

あと少しで完結です。

フォロー、評価☆☆☆を★★★して頂けたら嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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