第48話 とある子爵家の困惑 エンゲルの兵士達に踏み込まれましたが、白馬の騎士が退治してくれました

帝都の近くの子爵家が、エンゲルによって血祭りにあげられたと聞いて私は震え上がった。

その娘や家内がエンゲルの兵士たちに傷物にされて子爵もろとも殺されたというのだ。


それを聞いて邸内全体が震え上がった。

我が娘もその娘を顔見知りだったとショックを受けていた。


エンゲルもここまでするのかと唖然とした。


私はこの情報を王都に行っていた隣の領地の男爵から聞いたのだ。

男爵はそのままエンゲルにつくことにしたそうだ。

そして、こちらも娘や家内をエンゲルに傷つけられたくなかったら、エンゲルにすぐに付いたほうが良いのではないかと親切心で言ってくれた。


私の心は大いに揺れた。


そもそも、帝国の示した集合地点は王都を挟んで反対側だ。

ここから100キロも離れている。

普通な馬で移動しても2日はかかる。王都を回避して、歩兵も連れて行くと考えると5日もかかるのだ。

はっきり言ってもうギリギリだった。



そろそろ出発しなければいけない。


しかし、移動すれば領地の防備が少なくなる。


それにこのまま、帝国についてもし負けたら家内や娘も同じ目に合うだろう。


私はとても苦悩した。


家内も娘も青い顔をしていた。

娘など、食事もしたくないと部屋を出てこなくなったのだ。

私は家内と二人で見つめ合った。

しかし、すでに賽は投げられたのだ。今更変えられるものではなかった。


「旦那様。エンゲルの中隊が押し寄せてまいりました」

そこへ執事のジョナスが青い顔で駆けつけてきたのだ。そんな、こちらはまだ準備が完全に整っていない。皆家に帰って荷物をまとめている頃だった。

こちらには兵士は20名も残っていないのだ。


「中隊が?」

「隊長のゴルバンと言われる方が旦那様に面会を求めておりますが」

ジョナスは困ったような顔をしていた。


屋敷内は緊張が走った。


今ここには兵士は20人もいない。戦っても蹂躙されるだけだ。

ここまでエンゲルの動きが早いとは思ってもいなかったのだ。

案外、隣の男爵が自分可愛さに俺を売ったのではないかと疑うほどだった。



外では門番が開ける開けないで揉めているようだった。


「とりあえず、中に入れろ」

俺はそう命じるしか出来なかった。


そして、邸内のものに兵士たちには飲み物と簡単な食料を配るように指示する。




「これはこれはフェルマン子爵。偉い遅いご対応でしたな」

応接に案内したゴルバンと名乗った中隊長はふんぞり返って俺を待っていた。


こいつはどういうつもりだ? 俺は子爵だぞ!

俺は流石にムットした。


このままこいつを切り捨てるか?


しかし、邸内にすでに100名のエンゲル兵を入れたのだ。


邸内には兵士は20名くらいしかいない。


到底勝ち目はなかった。


「子爵は陛下の命令に反して王都へはいらっしゃらなかったと聞いておりますが」

「何を言っているのか。そのときはちょうど体調を崩していたのだ」

俺は心の中を見透かされたかのように思ったが、なんでもないように言った。


「ほおーーーー。そう言う言い訳が通用するとでも?」

ゴルバンは馬鹿にしたように俺を見てきた。


こいつ、俺を捕まえに来たのか?

俺は緊張した。


「きゃーーー、おやめ下さい」

悲鳴が響いた。


「何事だ」

私が叫ぶと


扉が開いて娘と家内が兵士たちに引きずられて入ってきたのだ。


「な、何をする」

俺は慌てて駆け寄ろうとして、兵士たちに剣を突きつけられた。


「あなた!」

「お父様!」

娘と家内が悲鳴を上げた。


兵士たちはニヤついた笑みを浮かべている。


「フェルマン子爵。その方、陛下に逆らった反逆罪にて拘束する」

「な、何だと。どこにその事実がある?」

「ふんっ、貴様らが反逆の準備をしているなど付近からの情報提供で判っているのだよ」

鷹揚にゴルバンが言ってくれた。


「反逆者の家族がどうなるか知っておろう」

ニヤついた笑みを浮かべてゴルバンが立ち上がった。


「なかなかきれいな奥方と娘ではないか」

ゴルバンは下品な笑みを浮かべて二人に寄った。


「寄るな!」

「あなた」

「キャーーーー」

娘が悲鳴を上げた。


兵士が服の上から娘の胸を鷲掴みにしたのだ。


俺は歯ぎしりした。これだったら入ってくるなりゴルバンを斬ってやれば良かった。


「ふん、エンゲル王国に楯突いた愚かな亭主を恨むんだな」

男はそう言うと家内の服に手を伸ばしたのだ。

「キャーーーー」

家内の悲鳴と同時に


バリン


凄まじい音がして庭に面した窓ガラスがいきなり割れてそこに白いものが飛び込んできたのだ。


それは一撃でニヤけたゴルバンを蹴倒してくれていたのだ。


ゴルバンは家内を捕まえていた兵士もろとも壁に頭から突っ込んでいた。


娘を捕まえて喜んでいた兵士は現れた騎士の剣によって斬られていた。


部屋の中にいたエンゲルの兵士達は次の瞬間には全員戦闘不能になっていたのだ。


そして、部屋の真ん中にはペガサスに乗った騎士に抱えられたアデリナ王女がいたのだった。




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