第47話 エンゲル王国 影の長視点 皇女を襲撃したら逆襲されました

私はエンゲル王国の影の長だ。

影、暗部、特殊部隊、隠密、忍者と国によって言葉は違うが、王国の諜報、特殊部隊と言ったところか。


エンゲル王国に生涯をささげる大組織だ。


総数は協力者の数も入れると一万人は超えるだろう。


エンゲル王国がここまで大きくなったのは、わが陰の力によるところも大きい。


もっともそれが公になることはないが……


今回のハウゼン王国侵略にしてもここ10年以上かけて千名近い人間を潜り込ませたのだ。


成功しない訳は無かった。


対する帝国だが、前皇帝の帝位継承争いの時には二千名近い人間を動員し、そして、負けたのだ。

我が方に対する被害も千名を超えた。やはり帝国は大国で我が方が勝てるわけはなかった。


その痛手をまだ引きずっていた。


エース級の人間が何人も帝国の影に殺されたのだ。


さすが帝国、防諜機能もある程度きちんとしていた。


今回のハウゼンの小娘誘拐計画でもその生き残りを使ったが、やはりうまくはいかなかった。


生き残りは戦力的には落ちるのだ。


更に残っていた拠点のいくつかが叩き潰されてしまった。


そんな事をしている間に、我が国の陛下が襲撃されてしまったのだ。我が影の完全な手落ちだ。


まさか、このハウゼンの地で、帝国の影に出し抜かれるとは思ってもいなかった。


その後、我が方の影が、必死に犯人を捜したが、未だに見つかっていない。


帝国の影もこのハウゼンには多く派遣されていると見た方が良いだろう。


帝国も継承争いで多くの影が死んだはずなのに、体制を立て直してきたと見える。


まあ、人口からして我がエンゲル王国と帝国では桁数からして違うのだが……


今回の帝国からの侵攻も、まともに戦えば我が王国に勝ち目はない。

何しろ我が王国は十個師団しかなく、帝国は優に30個師団以上あるのだから。


しかし、今回帝国が進撃してくるのは高々三個師団だという。


それならばこのハウゼンに展開している六個師団で何とかなるはずだ。


ただ剣聖が自ら出てくるというのが一抹の不安だ。


高々剣聖一人なのだが、前回はロンメルツ王国にてハウゼンの小娘を連れてあっさりと逃げられたという実績がある。


その戦力が未確定なのだ。


噂によるとその剣技によって一個師団を殲滅したことがあるとの事だったが……

ロンメルツでも、わが方の部隊が一つ殲滅されていた。


その剣聖のアキレス腱がハウゼンの小娘だというのだ。


今回の侵攻に対して、当然小娘はタウゼンの街に置いていくはずだ。


その小娘を襲撃し誘拐するのだ。剣聖への足かせになるだろう。



私はその子娘、襲撃作戦を自ら指揮することにしたのだ。

タウゼンに影の実行部隊を集結させて、私自身も商船に乗って向かったのだ。


タウゼンは港町で外国人も多くいた。


その中で我らはそれほど目立たないはずだ。


エンゲル人街の居酒屋に集合した私達は最終確認をした。


タウゼンの師団事務所の横の建物が帝国の臨時作戦本部になっており、クリスティーネ第一皇女が詰めているとの事だった。


そして、なんとハウゼンの小娘は剣聖と一緒の船で出て行ったというのだ。


「本当なのか?」

俺は思わず聞いていた。まさか戦場に剣聖が小娘を連れて行くとは思ってもいなかったのだ。


「はい。一緒の船ででていくのを確認しました」

現地の影の長が報告してくれた。


「どうしますか?」

他のものが聞いてきた。


「こうなれば代わりに皇女を誘拐していくしかなかろう」

「しかし、帝国の影が守っていると思われますが」

現地の影の長が躊躇した。


「どのみち、襲撃するところは同じだ。その対象が変わるだけではないか」

「それはそうですが」

私は現地の長の躊躇する原因をもう少し確認すべきだったのだ。




その深夜、我らは黒装束に着替えて、皇女の滞在している建物に侵入したのだ。


侵入はやけにあっさりで来た。


そこで警戒すべきだったのだ。こんなに簡単に侵入できる理由を。


我らは皇女の部屋だと思われていた所に侵入したのだ。


衛兵すら立っていなかった理由を考えるべきだったのだ。


扉を開けた瞬間、座っていた皇女と目があった。


「ああら、やけに早かったのね。もう少し時間がかかるかと思っていたわ。ねえ、グーテンベルク」

皇女が平然と言ってくれたのだ。

「本当に。途中で色々罠を仕掛けていたんですが」

その横には頭のはげた男がいた。

こいつは帝国の影の長のはずだ。


私は謀られたのが理解できた。


まずい。現場の長が躊躇していたのも、何かヘマをしていたのだろう。どうやらこいつらと我らは力的に大きな差があるみたいだ。


でもここまで来たらやるしかない。


今はこちらのほうが人数は多いのだ。


「やれ」

私達は一斉に二人に襲いかかったのだ。


しかし、二人は忽然と消えてしまったのだ。


「ははははは、馬鹿じゃないの。わたしたちが捕まる訳ないのに」

皇女の笑い声がしただけだった。


「15年前、私には可愛い妹がいたのよ。でも、帝位継承のゴタゴタの時に殺されたわ。お前たちエンゲルによってね。

その時の恨みは忘れない。

死ね!」


「ぎゃーーーーー」

皇女の怒りの声がしたと同時に、私達は一瞬で炎に包まれていたのだ。どこにも逃げ道はなかった。

のたうち回った挙げ句に私達は殺されたのだ。



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