第50話 エンゲル王視点 エンゲル全軍で迎え撃つことにしました

ハウゼンの子爵一族の処刑を踏み絵にして、俺は一気にハウゼンで綱紀粛正しようと思った。

俺の招集命令に応じなかった貴族たちに直ちに人質の娘を連れて来るようにと召喚の命令を下したのだ。


これで慌てて貴族たちがやって来るだろうと俺は待ち構えていた。

連れてきた娘はそのまま後宮に入れても良い。

少しでも俺に反論する奴は当主の首を撥ねて娘は娼婦に落として兵士達の相手をさせれば良かろうと思ったのだ。


だがしかし、ハウゼンの貴族共は俺の召喚命令を無視してくれたのだ。


どういう事だ?


貴族たちは俺のことを舐めているらしい。


こうなれば強硬手段だ。

俺は来なかった貴族のもとに順番に拘束するための部隊を派遣しようとした。

手始めに無作為に10家ほど選んで捕縛の部隊を派遣したのだ。


しかし、そんなところへ、帝国に潜伏させている影から、帝国の艦隊がこちらに向けて進軍を始めたと連絡があった。


帝国が指定した日よりも3日ほど早い。

俺は慌ててた。


直ちに艦隊を準備したのだ。


本来3日後に出向させることになっていた艦隊は準備のできていない船も多かった。

船乗りたちに休暇を与えている船もあったのだ。

それを1日で準備させて、俺は艦隊を派遣した。


帝国の艦隊は我が鉄甲船艦隊の前に海の藻屑になると信じて疑わなかった。


ハウゼンの愚かな貴族共も帝国艦隊が海の藻屑になれば泣いて許しを請うであろう。

最もその時には絶対に許さないが……

本人はこの前の子爵のように処刑して、女は兵士達の慰み者にしてやる。

俺は一度裏切った者達を許してやるなどという、甘い心は持ち合わせていなかった。



「陛下、大変でございます」

朝上機嫌で起きて着替えている時に、副官のシンケルが駆け込んできたのだ。


「どうしたのだ? 慌てて」

俺は眠気眼にシンケルを見た。


「はっ、タウゼンの司令部を襲撃して皇女をさらう予定の部隊が殲滅されたようです」

「せ、殲滅だと? どういう意味だ」

俺はシンケルが何を言っているか判らなかった。

影はガーリックを始めとした手練れを派遣していたはずだ。

それが殲滅されるなど信じられなかった。


「向かった者が見張りも含めて帰ってこないと留守のものから報告が入りました。なおかつ、そのものとの連絡も立たれたそうでございます」

影の長のガーリックが失敗したなど、俺には信じられなかった。


まあ、この襲撃は我がエンゲル艦隊が万が一帝国艦隊に負けた時の保険のようなものだ。

エンゲル艦隊が帝国艦隊を下せば問題はないのだ。


俺はその事で安心しようとした。


「大変でございます」

そこに伝令の兵が駆け込んできた。

「何事だ?」

シンケルが誰何していた。


「はっ、帝国の艦隊攻撃に向かっていた我がエンゲルの艦隊が消息を絶ちました」

「消息を絶ったとはどういう事だ?」

俺が聞くと

「『今から攻撃する』の連絡を最後に連絡が途絶えたとのことです」

「な、何だと」

俺はその報告に唖然とした。

連絡を途絶えたということは沈められたということだ。


勝ったのなら残りの船から連絡があるだろう。

連絡がないということはほとんどの船が沈められたということか?

エンゲル王国の誇る鉄甲船艦隊が敗れ去ったというのか……

俺には信じられなかった。


しかし、1時間後には命からがら帝国の追跡から逃れた小型船が詳細を報告してきたのだ。

エンゲルの大艦隊は帝国の剣聖の剣技の前に殲滅されたというのだ。

そんな馬鹿な。


剣で艦隊をそれも鉄甲船を切り刻むなど本来は出来ないはずだ。

それを剣聖はやったというのか……


俺には信じられなかった。


「申し上げます。フェルマン子爵の捕獲に向かった部隊が連絡を絶ちました」

「何だと」

次から次に悪い知らせが入ってきた。


フェルマン子爵の領地は港を持っており、帝国軍の上陸地点になりうると、先に捕縛するものを向けたのだ。


それが殲滅されたということは帝国が上陸したということだろう。


俺が想像するよりも帝国の動きは早かった。


慌てて向かった付近に駐屯している1個大体を向かわせたが、殲滅させられたとの報告に俺は上陸したのを確信した。


いろいろな情報を集めると帝国は3箇所に上陸したようだ。


そして、急速に王都に向けて行軍を始めたようだ。


同時に行っていた捕縛の部隊はなんと剣聖自らがハウゼンの小娘を連れて天馬で突入して捕縛部隊を次々に攻撃しているみたいだ。


エンゲルの部隊は次々に各個撃破されているみたいだった。


「この王都に集結させろ」

俺はシンケルに命じた。


各個撃破されるよりは戦力を集結して当たった方が良いだろう。


俺は全戦力を集めることにしたのだ。


王都の郊外に俺はハウゼンに展開している6個師団の全てを集めるように指示した。


それと王都に集めた貴族たちの娘や家内を全て王宮の一室に集めたのだ。


負けた時はこの者達を人質にして、帝国と交渉することにした。


うまく行けばハウゼンの小娘を捕らえるつもりでいた。


なあに、帝国の剣聖もハウゼンの小娘もあまちゃんだ。


こいつらの命を盾に取れば、武装解除くらいはしてくれそうだ。


その隙に影を使って王女を捕らえて、形勢を逆転してやる。


「覚えていろよ。小僧共め、必ず俺様に逆らったことを後悔させてやるわ」

俺はそう言うと高笑いしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る