第43話 エンゲル王視点 帝国の剣聖が宣戦布告してきたので、迎え撃つことにしました
まさか、帝国で小娘襲撃が失敗するとは思ってもいなかった。
途中まではうまくいったのだ。
剣聖の小僧が出て来たからおかしくなった。
俺にはあいつだけは許せない。
しかし、これ以上影の戦力を失うわけにはいかなかった。
今回の騒動で帝国内に入れていた影の多くが捕まってくれた。
帝国を舐めすぎていたのかもしれない。
俺は少し後悔したのだ。
まあ、ここまで帝国が出て来なかったのがおかしいかったのだ。
今度は帝国が攻め込んでくるという話もあったが、俺はそれを笑った。
今頃出て来てもハウゼンは押さえた後だ。まだ王国が残っている時ならいざ知らず、今更帝国が出て来たところでどうしようもないだろうと俺様はたかをくくっていた。
そんな時だ。ロンメルツの国王アルバンから連絡が入った。
「どうした、アルバン?」
「いや、カスパルも結構苦労しているなと思って」
笑いながらアルバンが言ってくれた。
「何の話だ?」
俺には何の話か判らなかった。
「帝国の陰謀で肥溜めに嵌められたんだろう?」
「はああああ? 何の話だ?」
帝国のやつ、あの話を皆にバラしてくれているのか?
でも、それはデマだと笑ってやれば良いのだ。
俺はこの時までそう思っていたのだ。
「いや、肥溜めにお前が嵌められる画像が帝国から送られてきてだな」
「な、何だと!」
俺はそれは知らなかった。帝国の奴らがあの時のことを記録に残しているなんて。
そんなことまでしてくれていたのたか?
俺は完全に切れた。
「それと帝国はそちらに攻め込むと言ってきているぞ」
「攻め込んでくるだ?」
俺は驚いた。そんな余裕が帝国にあるのか?
帝国内で散々反乱を起こさせてやったのに。
まあ、その多くが鎮圧されたみたいだったが……
「そのうえ、我が国に援軍を送れと命令してきやがった。当然こちらは断ったがな」
「な、それは本当か?」
「貴様に嘘ついてどうする? そもそもこちらにも送って来たんだ。そちらにも送ってきているのではないのか」
「いや、まだ聞いていない」
「まあ、良い。帝国の脅しだけかもしれないが、とりあえず警告はしたからな」
そう言うと通信は切れた。
どういうことだ?
帝国がこちらに海を渡って攻め込んでくるだ?
今までそんな事はかつて無かったはずだ。
「シンケル!」
俺は慌てて副官を呼んだ。
「陛下。お呼びですか」
副官のシンケルがやってきた。
「いまアルバンから連絡があったのだが、帝国がこちらに攻め込もうとしているという情報はあるのか?」
「はいっ、私も今そういう報告を各地から受けており陛下に報告しようとしておりました」
「遅い! そういう事はアルバンから連絡のある前にやれ」
俺はシンケルを叱りつけていた。
「申し訳ありません」
シンケルは頭を下げた。
しかし、報告が遅かったことに俺はとても不愉快になった。それもアルバンから知らされるなんて。
「それよりも陛下、帝国から宣戦布告のようなものが来ております」
「何! すぐに持ってこい」
「はっ」
副官は慌てて飛んで行った。
帝国からの宣戦布告してきただと。どういうことだ? 帝国は今は国内の内乱をやっと抑えている段階でこちら側に来る余裕などないはずだ。
北方民族の平定に結構時間がかかっていたはずなのに……
しかし、俺は帝国からの映像でぶちぎれた!
何と帝国は俺が肥溜めに落ちる映像を記録していたのだ。
俺は自分が肥溜めに落ちるさまをまざまざと見せつけられた。
なんて言う事だ。
俺は怒りに震えた。
そして、あろうことかその画像の後に剣聖の小僧の画像が映ったのだ。
「エンゲルの野蛮王へ。私は帝国の剣聖エルヴィン・バイエルンだ。
貴様が肥溜めに嵌って悶える様を見てくれたか?
今頃貴様の画像は全世界で見られているはずだ。
皆貴様の無様な姿に腹を抱えて笑っているだろう」
俺は手に爪が食い込むのも構わずに手を握っていた。手から血がにじみ出たくらいだ。
「ふんっ、こんな事は手始めだ。
貴様はあろう事か、卑怯な手を使い、わが同盟国ハウゼンを攻め落としてくれた。
なおかつ、卑劣な手段で何度も我が婚約者のアデリナ・ハウゼンに手を出そうとした。
俺はその事を許さん!
よって貴様を成敗する」
あろう事か剣聖の小僧は俺に向かって指を突き出してくれたのだ。
「直ちに降伏せよ。そうすれば貴様の首を、今は亡きハウゼン国王夫妻の墓に備えてやる。
降伏しない場合は10日後には我軍はハウゼンに進出して、貴様を成敗する。
どちらにしても貴様の未来はない!
首を洗って待っていることだな」
そう言うと、画像は切れたのだ。
俺は怒りのあまりしばらく声も出なかった。
おのれ帝国の小僧め。俺に手向かったこと。ハウゼン国王のように絶対に後悔させてやる。
「いかがなさいますか。陛下」
副官が聞いてきた。
「直ちにハウゼンの全貴族を集めよ。それと同時に将軍を集めよ」
「はっ、直ちに」
副左官達は指示するために散っていった。
「おのれ、帝国のクソガキめ。必ず目にもの見せてくれるわ。
貴様と小娘を捕らえて、貴様の眼の前でその小娘を甚振ってやるわ。
俺に逆らったことを絶対に後悔させてやる」
俺はそう言うと送られてきた水晶を取り上げると地面に叩きつけたのだ。
水晶は大きな音を立てて砕け散ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます