第44話 戦い前夜、白馬の騎士の胸の中で眠りました

タウゼンの港町はハウゼン王国の対岸にあり、そこそこ大きな街だった。

ここに今帝国軍の軍船が集結しつつあった。

総数300隻、3個師団3万人を乗せていくのだ。


それにハウゼンの亡命軍がかき集めて千名、各軍について道案内に当たる者も入れると二千名近くがいた。

兵糧と軍馬の干し草等、次々に集積されつつあった。


私達は祖父母の家には結局2日くらいしかいなかった。

翌日にはシロに乗って、この攻略基地のタウゼンに来たのだ。



借り切った建物の中で次々に作戦計画が立案されている。

その中心にはクリスだ。影の諜報部隊からの情報を集めていた。


「ハウゼンの貴族は半分は寝返ってきたわ」

クリスが書類をもってルヴィのところに来た。

「まあ、それだけいれば十分だろう。兵数にして5千人くらいか」


「お兄様、出陣の日はいつにするの? まだ日にちはあるけれど」

クリスがルヴィに聞いてきた。


「明日の朝には出撃する」

ルヴィは言い切ってくれたんだけど。

それって予定よりも3日も早いんだけど。


「エンゲルはこちらの宣戦布告に合わせて、ハウゼンで味方してくれる勢力を先に攻撃しようとしてくるだろう。こちらはそれを見越して動く」

ルヴィはそう言ってくれた。

ハウゼンの味方のことも考えてくれるんだ。私は少し嬉しくなった。普通の者ならばハウゼンの味方勢力を囮にして、上陸作戦を行うとか言いかねない。


それをハウゼンの味方が攻撃される前に動いてくれるなんて、ルヴィは良い指揮官だと私は嬉しくなった。


「それは当然でしょう。これから統治していくうえで当然のことよ」

クリスが当たり前のように言ってくれたけれど、なかなかそうできる指揮官はいないはずだ。


「じゃあ、明日出撃で皆には伝えるわ。リナはどうするの?」

「本来はこちらに残していこうと思ったんだがな。エンゲルに不吉な動きもあるんだろう?」

「そうね。エンゲルの影の多くがこのタウゼンに入ったようよ。リナをさらおうとしているのかもしれないわ」

「えっ? また私が狙われているの?」

私はいい加減に嫌になってきた。


「だってそれは仕方がないじゃない。ハウゼンの生き残りの王族はもうあなただけなんだから」

クリスが教えてくれた。そうだった。遠い遠い親戚以外はもうハウゼンの王族は生き残っていないのだ。エンゲルの襲撃を考えて私はうんざりした。


「まあ、こうなったら一緒に連れて行くしかないだろう」

ルヴィが言ってくれるんだけど……


「リナは戦場の経験が殆ど無いけれど、大丈夫なの?」

クリスが心配してくれた。

「まあ、俺と逃避行で1週間くらい体験したんだ。なんとかなるだろう」

ルヴィは言ってくれるんだけど……


まあ、元々私の国のことだから私が前線に立つのは王族ならば当然だとは思う。

でも、まだ馬には全然慣れていないから、そこがネックだった。


「でも、お兄様。リナを乗せて守りながら攻撃できるの」

クリスが更に心配して聞いてくれたが、


「俺を誰だと思っている」

ルヴィは自信ありげに胸を張った。

まあ、ルヴィは今まで私をちゃんと守ってくれた。そこはあまり心配していない。ただ、ジェットコースターみたいな感じになるととても嫌なんだけど。

前は3階から飛び降りられたし、空も飛ばせられたし……


「剣聖なのは知っているけれど、リナを守りながらは大変じゃないの?」

クリスが更に言うが、

「ゆっくり行軍するならリナを守りながら、十分に攻撃は出来るさ」

ルヴィは自信満々に言ってくれた。


「それに、リナ。今回はこの前の逃避行みたいにあそこまでのアクロバットはしないから、心配しなくていいよ」

ルヴィは言ってくれたから私はそれを信じることにしたのだ。



その日も私はルヴィと一緒の部屋で寝た。

ここに着いてからも、ベッドは別だけど、もう婚約者だから別に良いだろうとルヴィに言われてずっと同じ部屋だった。まあ、良いことか悪いことかは判らないけれど、ルヴィは懸命にも私を襲ってこなかった……


でも、いつもは疲れているのですぐに寝れるんだけど、その日はベッドに横になったけれど、明日からの事が心配でなかなか良く寝れなかった。


「どうした? リナ。眠れないのか?」

いつもは真っ先に寝てくれるルヴィが今日は声をかけてくれたのだ。


「明日から戦場だから、今日はゆっくり寝たほうが良いぞ」

ルヴィの言う通りなんだけど、私は戦場に慣れていないし、やはり緊張する。


「仕方がないな」

そう言うと、ルヴィがベッドを出て私のベッドに潜り込んできてくれたのだ。


「えっ?」

思わず私は慌てたが、

「伯爵の家で俺のベッドに潜り込んできたリナが何か言う?」

笑ってルヴィは言うんだけど、


「あの時はルヴィは寝ていたじゃない!」

私がムッとして言った。


「大丈夫だ。リナを抱きしめる以外何もしないから」

「本当に?」

私はそう言いつつ、ルヴィの胸の中に飛び込んだ。

次の瞬間ぎゅっとルヴィが私を抱いてくれた。

お互いにキスを交わす。

何度もしているからかもう慣れたものになっていた。

唇を何回もふれあいつつ、お互いの体を抱きしめた。

「これ以上やるとリナを襲いそうだから」

ルヴィはそう言うと唇を離した。

少し物足りなかったけれど、ルヴィの理性を保たせるには仕方がない。


「大丈夫。リナのことは必ず守るから」

私を抱きしめながらルヴィは言ってくれた。

「よろしくお願い」

私はそう言うともう一度ルヴィにしがみついて、目を瞑った。

ルヴィの胸の中はとても暖かくて、私はルヴィに抱かれてからしばらくしたら、いつの間にか寝ていたのだ。


夜空には満月が出て、戦いの前なのに、海も凪いで本当に静かな夜だったのだ。

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