第42話 ハウゼン王国とある子爵家視点 帝国につくことにしました
私はロホス・フェルマン、元々ハウゼン王国の子爵家だった。
そのハウゼン王国が突如エンゲルの侵攻によって消滅したのは半年前のことだ。
少数民族の反乱の討伐軍に息子を派遣していたら、いきなりエンゲルの大軍が現れて、討伐軍は壊滅に近い打撃を受けたのだ。我が家は息子と100名の兵士を差し出していたが、10名も帰っては来なかった。
息子も帰っては来なかった。
帰って来れた者の証言で、討伐軍は突然のエンゲルの大軍の出現になすすべもなく、蹂躙し殺されたというのだ。他の者達は逃げるのに精一杯で、息子がエンゲルの兵士に倒されるのを兵士の一人が視界の端で見ていたという話だった。
「ご子息様を守れずに申し訳ありませんでした」
と謝る兵士に私は首を振ったのだ。
そんな状況では生きて帰って来るだけで精一杯だったろう。
私は涙にくれる家内を抱きしめることしか出来なかった。
エンゲル軍はそのまま王都を囲んだのだ。
我が子爵家としては大半の兵士が死んだ後で王都に援軍を出す余裕も無かった。
その王都も囲まれて10日でパスカル・クンツ等の裏切りで落ちたのだ。
陛下も王妃様も殺されたと聞く。
王妃様はご自害なされたのだとか……
エンゲルの兵士たちの規律はないに等しく、王城は略奪の渦に巻き込まれたということだった。
凄惨な略奪が行われたと聞く。
王城に詰めていた多くの貴族が殺されたそうだ。
私は幸いなことにその当時王城にいなかったので、そのまま領地は安堵された。
しかし、その代わりに金貨一万枚の上納を求められたのだ。
そんな大金がこんな子爵家にあるわけはないではないか!
私は驚き慌てた。
上納できなければ娘を差し出せとエンゲルの将軍が言ってきた。
娘は16歳にも満たなかった。
そんな娘をエンゲルなどに差し出すわけには行かない。
私達は城にあるものを売り払い、借金までして何とか1万枚の金貨を用立てて差し出した。
それでホッとした所に、エンゲルからさらなる要求が届いて、私は唖然としたのだ。
取れ高の10%を上納しろと。
「こんなふざけたことはあるか」
私はその書面を執務室の地面に叩きつけたのだ。
我が領地の税は取れ高の4割だ。
それに兵役や道路の整備等に領民を借り出している。
更に10%の増税をして、果たして領民が素直に従ってくれるかどうか不安だ。
「しかし、お館様、どうなさるのです。この要求を拒否されますか?」
私は執事のジョナスの言葉に固まってしまった。
そうだ。エンゲルの言うことに首を振ることは出来ない。
「拒否したキッタネン男爵家がお取り潰しになったと言う話を聞きました」
ジョナスが教えてくれた。我が家にはまだ、娘と妻がいるのだ。
「やむを得ん。今年は領民に10%の増税を指示しよう」
「左様でございますな。でも、皆従うかどうか」
執事のジョナサンも不安そうに首を傾げた。
「やむを得まいだろう。エンゲルが言ってきたのだ。どのみち避けられないだろう」
私は力なく頷いたのだ。
しかし、その1ヶ月後だ。
今度は帝国から書面が送られてきたのだ。
朝、入口に封書が放り込まれていたらしい。
封には帝国の剣の紋がはっきりと入っていた。
「いかがなさいますか?」
ジョナサンが聞いてきた。
「見るしかなかろう」
開けると中には記録用の水晶が入っていた。
直ちに魔道具にかけると映像が飛び出した。
画面には馬車が映っていた。
それも見たくもないエンゲル王家の馬車だった。
なんでこんな物を送ってきたのだ?
私は意味がよく判らなかった。
その馬車の車輪がいきなり破損したのだ。
そして、馬車は一瞬で傾いて、中に乗っていた者が飛んでいって畑に突っ込んでいった。
いや、違う、あれは畑ではなく肥溜だ。
真っ黒になった男が画面に現れた。
私はそれを見て唖然とした。
一度王宮に上がって拝謁したエンゲル王、その人だったのだ。
「おのれ、何だこれは」
そこにはクソまみれになって悔しがるエンゲル王がいたのだ。
執務室にいた面々は唖然としていた。
その画面を見て、思わず不謹慎だと思ったが、顔がにやけてしまった。
「ハウゼン王国の諸君。遅くなった。私はエルヴィン・バイエルン、そう、帝国の第一皇子だ。
今君らハウゼン王国の者たちは野蛮なエンゲルの奴らに虐げられていると思う。
その君等に私からのプレゼントだ。大いに笑ってくれたかな」
帝国の皇子はそう言うと笑ってくれたのだ。
「帝国としては先のエンゲル侵攻の折り、何も出来ずに誠に申し訳なかった。野蛮国エンゲルは王都を蹂躙し、国王夫妻を殺した。我が帝国の同盟国でありながら、守れなかった不甲斐なさをここに謝る。
今回私は貴国の王女のアデリナ・ハウゼン殿下と婚約した。そして、婚約の手向けとしてハウゼン王国を復活させることにした。
我が帝国は全軍を持って海上から侵攻する。
貴族諸氏も兵力を集結し王都の西50キロのガントウの地に集結して欲しい」
そこで画像は変わった。
「みなさん。アデリナ・ハウゼンです。私は亡国の王女として何度もエンゲルに命を狙われました。その中、助けていただいたのはエルヴィン殿下です。殿下は15年前に我が国で1年間お匿いしたことがあるのです。この度はその恩を返していただけると言っていただきました。私自身、もう亡国の王女で国については仕方がないかなと思っていました。
しかし、一部の貴族の方々から聞いたところでは、ハウゼン王国は増税になって庶民が苦しみ、更にエンゲル兵の横暴で多くの民が難儀していると聞き、考えを改めました。
王族の一員として離れた地でゆうゆうと暮らすのは許せないと思い知ったのです。
今こそ、みなさんと一致団結してエンゲルの奴らをハウゼン国内から一掃する時が来たのです
ハウゼン王国を復活してみなさんとお会いできる時を楽しみにしています」
私達はそれを唖然と見ていた。
「いかがなさいますか?」
執事のベルモントが聞いてきたが、今まで黙っていた帝国が何を今更と思わないでもなかったが、このまま10%の増税が続くのも嫌だ。
「少し考えよう」
私は答えていた。
「帝国の第一皇子殿下は帝国では剣聖として有名です。先日は隣国のロンメルツ王国で帝国の1個師団を1人で殲滅したとも聞いています」
「お前は帝国についたほうが良いというのか?」
私は執事を改めてしみじみ見た。
「まあ、向こうは王女殿下を連れていますし、大義名分はあるのでは」
「しかし、税は変わらないかもしれませんよ。支配者がエンゲルから帝国に変わるだけかもしれません」
衛士長が執事に反対した。
「まあ、それはそうだ」
私は頷いた。
我が家は重臣会議を開いたのだ。
しかし、その結果は王女につくという意見が圧倒的に大きかった。
エンゲルの兵士たちは横暴で、我が家のものもあちこちで嫌な目に遭ってきたのだ。
「あの威張り腐ったエンゲルよりはましだと思います」
家内まではっきりと言ってくれたのだ。
我が家は帝国に、いや王女殿下につくことにしたのだ。
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