第34話 帝国に恨みのある女騎士に囚人の護送の馬車から蹴落とされて破落戸共に取り囲まれました

「今すぐにこの宮廷から出ていきなさい。二度とこの宮廷に顔を出すことは私が許しません」

皇后様にそう言われて私は茫然とした。

そんなこといきなり言われても……しかし、私の戸惑いは無視されて、いきなり騎士たちによって皇后の間から連れ出されたのだ。


そして、馬車乗り場で私が乗せられた馬車はなんと窓に格子が入っていたのだ。

完全な囚人の護送用の馬車だった。


「ちょっと、いくら何でも、この馬車はないんじゃないの?」

私は声を上げたが、

「煩い、皇后様の命令だ。つべこべ言わずに乗れ」

私はそのままその護送の馬車に、無理やり乗せられたのだ。



これはあんまりじゃないの!

宮廷を出る馬車の車窓を眺めながら私は思った。メンロスで乗せられた馬車もさすがに囚人を護送する馬車ではなかった。生まれて初めて囚人の護送馬車に乗せられたのだ。

私はあまりのことに目に涙を浮かべていた。

それを見て私と一緒に乗った女騎士がニタリと笑ってくれたのだ。

私はムッとして、睨み付けると、

「威勢の良い女だね」

そう言って女騎士は笑ってくれたのだ。

私はムッとしたが、取り敢えず黙っていることにした。変に逆らって暴力を振るわれても嫌だ。


私はここに来る時は皇族の馬車だったのに、出る時は護送馬車なんて、待遇の違いに言葉も出なかった。



本来、ルヴィが皇子だって判った段階で、私はルヴィからは離れようとしたのだ。

それを無理やり、ルヴィがこの宮廷に連れてきたのだ。それも私に婚約の誓いまでさせて……


それが今度は囚人の扱いだ。さすがの私も、目から、涙が漏れた。


本来、私は亡国の王女に過ぎず、国が滅ぼされたのだから、帝国の第一皇子のルヴィの婚約者になんかなれないのは判っていた。それを無理やり連れてきたのはルヴィだ。

皇后様も文句はルヴィに言ってほしかった。

それに、私は別にルヴィを誑かしてなんていない。

強制的に婚約の約束をさせられた方なのだ。そう何度言っても皇后様は聞いてもらえなかったが……


それに母の話なんてしてもらっても私は困る。私の生きていない時なんて私にはわからないのだ。

皇后様の話を聞くと、昔、皇后様の想い人を私の母が横取りしたらしい。

でも、それって私の父を皇后様が好きだったってこと?

それに皇帝陛下も私の母を好きだったってどういう事なんだろう?

昔の学園ってそんな爛れた学園だったんだろうか?

それに比べれば私は余程まともだ。婚約している時は婚約者のアヒム一筋だったし、後は強引にルヴィの婚約者にされたけど、ルヴィだけだ。ルヴィの婚約者は無理だって言ったのに!

ルヴィが聞いてくれなかったのだ。



それに母の事は私と全く関係ない。

母のことは生きている間に本人に言ってほしかった。

母の責任まで私に負わされても私も困る。


というか、護送馬車で祖父母の所に行かされるのはやめて欲しい。


だって、私はまだ、祖父母に会ったこともないのだ。

それが帝国の女性の中で一番偉い皇后陛下に宮廷追放されて護送馬車に乗せられて祖父母の所に連れて行かれるなんて、酷すぎる。祖父母に酷い目に逢わされる未来しか見えなかった。それでなくても、母と祖父母は殆ど交流がなかったのだ。皇后様に睨まれた私なんぞに来てもらっても困るだろう。

皇后陛下は鬼なんだろうか?


こんなことになるのなら、ルヴィの言うことなんて聞かずに、前世の知識を使って、平民として生きていけば良かった。

何が私の事は必ず守るよ! 

ルブィのバカ!

全然守れていないじゃない!

私が心の中で文句を言ったときだ。


ブスッ

いきなり、私の馬車の横を走っていた騎士の背中に矢が突き刺さったのだ。


「えっ?」

私はぎょっとした。

矢が刺さった騎士が、どさりと落馬して、地面に落ちた。


「敵襲だ!」

「反撃しろ!」

騎士達は横に展開した。


しかし、次々に矢が突き刺さる。


ドカーン


火炎魔術が傍に爆発して、騎士達が巻き込まれる。

騎士達は次々に撃ち取られていった。


いつの間にか、馬車は止まり、馬車の回りにはいかつい人相の破落戸達の乗った騎馬が取り囲んだのだ。


帝国内なのに破落戸どもに襲撃されるなんて、帝国も治安が良くないんだろうか?


そんな中で一緒に乗っていた女騎士は何故か落ち着いていた。私は理由が良く判らなかった。


「遅かったわね」

私と一緒に乗っていた女騎士が扉を開けた男に言ったのだ。

「なかなか、襲いやすい、寂れたところが少なくてな」

男は女騎士に笑いかけたのだ。


この女騎士はぐるなんだ。

私は絶望に襲われた。


「あなた、帝国を裏切るの?」

私が驚いて聞くと

「でかい口を叩いているんじゃないよ」

私は手を捕まれるとそのまま押されて、馬車の外に落とされたのだ。


ドシン


という音ともに、私は地面に叩きつけられた。

「……」

痛くて声も出なかった。


「あんたらのせいでね。私の家は没落したんだよ。前の継承争いでね。私んちは第二皇子殿下を押していたのさ。お前が今の第一皇子の婚約者候補というのもムカつくんだよ。

ここで皆におもちゃにされて皇子にひと泡吹かせられて、清々するわ。

恨むんなら、あなたのおじいさんおばあさんや陛下達を恨みな」

私は女騎士の言う事の理不尽さを感じた。

私は何も関係ないじゃない。


私は必死に起き上がろうとした。



でも、なかなか動けない。

「は、元王女様もこうなったら形無しだな」

破落戸達はげひた笑いで言ってくれた。

私は両足をあられもなく広げて倒れ込んでいたのだ。

慌てて足を閉じようとする。


「どうする、ここでやってしまうか?」

「そうね。エンゲルの奴らが文句をいうかも知れないけれど、元々王女は遊び人だったということで良いんじゃない?」

女騎士が言ってくれた。


「そうだよな。誰彼構わず寝ていたと言うことで、報告でもするか?」

「まあ、俺たちの子供を孕むかもしれないしな」

男達はげひた笑いをすると私に迫ろうとした。


「嫌、止めて」

私は後ずさった。


次の瞬間下ひた笑みを浮かべた男達が一斉に襲いかかってきたのだ。

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