第35話 白馬の騎士視点 祖父母のもとに送られた婚約者を白馬に乗って追いかけました

俺は、リナを婚約者として、認めるように、何度も両親に掛け合っていた。


それと同時にハウゼン王国復活のための侵攻戦の協議を、軍務や財務、外務と詰めようとした。


しかし、両親は俺の言うことを全然聞かなかった。


今まで散々俺の婚姻を勧めてきたのに、俺が折角その気になったのに、それに反対するなどどういうつもりなんだろう? 俺がずっと独身で良いのか?


今帝国は、他国を圧倒しており、わざわざ他国と政略結婚する必要もない。

それはエンゲルを後ろ盾に帝位継承を争った第二皇子の件で、貴族たちも懲りているはずだった。


内部の貴族間の勢力の均衡とか言うけれど、リナの両親はすでに亡く、外戚が力を持ちようがないのだ。リナの祖父母のディール伯爵家は俺の母のベルナー公爵家の系列だからベルナー公爵家の力が強くなりすぎると気に掛ける向きもあるが、ベルナー公爵家とディール伯爵家はリナの母の件でギクシャクしており、そんなに仲が良くはない。


貴族共にとっても帝国にとっても別に問題はないのだ。


問題があるのは昔、リナの母に好きな人を横取りされた母のプライドだけの問題だろう。

俺としては昔の昔話として忘れてくれとしか言えない。


それに俺は既に剣聖の剣に誓ったのだ。


そのことは帝国の都合も糞も関係なかった。


剣聖が剣に誓う以上のものはないのだ。特に帝国では!


俺がそう宣言したのに、勝手に誓うなど許せないとか、訳の判らない事を言ってくるが、両親は剣聖の剣の誓いの重要性を判っていないのか?


初代剣聖は当時の王朝が民を虐げたので、民のために新たな国を築くと剣に誓って、帝国を建国したのだ。

それ以来帝国では剣聖の誓い以上の重要事項などないのだ。剣聖の剣への誓いは何にもまして重んじられる最優先事項なのだ。

にも関わらず、反対するなど本来皇后のすることではないのだ。



そして、その次のハウゼン王国の復活に対しても、今度は外務も財務も良い顔はしなかった。


帝国に何一つ利がないというのだ。


しかし、元々帝国は民のために作られた国なのだ。民のために動くのが帝国だ。


話を聞く限り、エンゲルに併合されたハウゼンは税金が上がり、民が苦労しているのだ。

それを助けるのは帝国の建国理念に合致する。


国の利益など二の次にするのが基本なのに、こいつらは俗世に汚染され過ぎていると俺がいうと、若はまだ、清すぎますよ!

と軍務卿が言ってくれた。


しかし、対岸に親帝国勢力が出来るのは帝国にとっても良いことだ。


近年力をつけつつあるエンゲルをここで叩き潰すのも帝国にとって利があるはずだ。


何よりも、帝国の威信を無視したエンゲルには鉄槌を下す必要があるのだ。


それを財務は金金金金というが、なんなら帝国の文官の給与を1割削減すればそれくらいの金は出てこよう。


外務もエンゲルとの友好が壊れるなどとふざけたことを言っているが、弱腰な対応は単純にエンゲルに舐められるだけだ。彼奴等は力以外の何物も信じないのだから。

ここは帝国の力を見せつてやるしかないのだ。



しかし、俺の言うことは財務卿と外務卿に反対されてなかなかうまく進まなかった。


俺が軍務卿と今後のことを協議しているところへノーラが飛び込んできたのだ。


「坊っちゃん大変です」

「坊っちゃんはやめろ」

俺は乳母のノーラに文句を言った。


「それどころではないのです。アドリナ様が皇后様の部屋に連れて行かれました」

「なんだと、つけていた護衛はどうした?」

「皇后様の護衛に邪魔されて一緒にいけなかったみたいです」

「本当に母上はどういうつもりだ」

俺は胸騒ぎがした。


「判った、すぐに母のところに行く。軍務卿、早急な出陣準備を立ててくれ」

俺はそう言うと母の部屋に向かったのだ。



しかし、俺が母の部屋に入ろうとすると、母の護衛騎士等が邪魔しようとしてくれた。


「どけ!」

俺は強引に押し入ったのだ。


しかし、母の部屋にはリナはいなかった。


「どうしたのです。エルヴィン。いきなり入ってきて。いくら母の部屋とはいえ、ノックくらいしたらどうですか?」

母は悠然と構えていってくれた。


「それよりも母上、リナはどうしたのですか?」

「リナとは?」

「ふざけないで頂きたい。俺の婚約者のアデリナですよ」

「アデリナを婚約者になど私は認めておりません」

俺が怒って言うと、母はまた蒸し返してきたのだ。


「申し訳ありませんが、母上がどう思われようと関係ないのです。この剣聖エルヴィンが剣に誓ったのです。帝国の全ての権威に優先されます」

俺が説明すると

「な、何をふざけたことを」

母には理解できないみたいだった。


「ふざけてなどおりませんよ。で、アデリナはどこにいるのです」

俺は母を問いただした。


「さあ、部屋にでも帰ったのではないですか?」

母は言ってくれるが、俺には信じられなかった。


「そこのお前、剣聖の俺が問う。リナはどこだ?」

俺は騎士に剣聖として問いかけた。


「えっ、皇后様の言われるように、お部屋に戻られたのでは」

騎士が驚いて答えた。


「判っているな。剣聖の言葉に嘘をついた場合は下手したら処刑もあり得るのだが」

俺が脅すと、流石に騎士は目を見開いた。


「な、エルヴィン、何を言っているのです。そのものは私の騎士です」

「それ以前に帝国の全ての騎士の指揮権は剣聖の俺にあります」

俺は母を睨みつけたのだ。


「もう一度問う、リナはどこだ」

俺はそのブルブル震える騎士に問いただしたのだ。

「いえ、その」

「お前はどうだ?」

俺は横の話したそうにしている騎士に聞いた。


「アデリナ様の祖父母の所に送られました」

「な、なんだと」

俺はその騎士を睨みつけたのだ。


「あなた何を言うのです」

「母上、どういうことですか?」

慌てた母に俺が問うと


「仕方がないでしょう。あの子は亡国の王女なのです。第一皇子のあなたの婚約者などに出来るわけはないでしょう」

「なるほど、そうですか? そこで私に断りもなく、剣聖の婚約者を勝手にディール領に送ったのですね」

俺はそう言うと、慌てて部屋を出ようとした。


「お待ちなさい。エルヴィン! あなたは帝国の第一皇子なのです」

「第一皇子である前に私は剣聖です。これ以上余計なことをされたら、私は帝国の第一皇子を降りますから」

「エルヴィン、あなたは何を言うのですか!」

母が慌てて言うが、もう俺は知らなかった。


「別に妹のクリスがいるのです。帝位はクリスに継がせれは良いでしょう」

俺はそう言うと、慌てて部屋の外に出たのだ。

母がなにか叫んでいたが、俺はもう聞いていなかった。

婚約者の俺に断りもなく外に送り出すなど母といえども許さざることだった。



そのまま馬小屋に駆け寄るとシロを馬小屋から引き出したのだ。


「シロ、緊急事態だ。リナの所に連れて行ってくれ」

俺はそう言うとシロに飛び乗ったのだ。


ヒヒーーーーン

シロは嘶くと、背中から透明の羽を出したのだ。


そう、シロはただの白馬ではなくて、天馬だったのだ。


そして、シロは羽ばたくとあっという間に俺を空の上に連れて行ってくれた。

そして、リナを追って飛び出したのだ。

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