第14話 親友の裏切りでエンゲル軍に捕まりました

翌朝、ツェツィは船を用意してくれた。


「へええ! 大きい船ね」

私は船を見て驚いた。もっと小さい船かと思っていたのだ。

2本マストの帆船で想像したよりも大きな船だった。


「え、そうかな? このあたりではこれくらいの大きさは普通よ。まあ大きさは大したことはないけれど、うちの自慢の快速船よ。スピードは出るの。速さだったらこのあたりの船には負けないわ」

後ろからついて来たツェツィが自慢げに話してくれた。


船にはツェツィもその父のクレンツェ伯爵も一緒に乗り込んでくれたのだ。

彼らもブレーメンまで来てくれるみたいだ。

更に護衛の騎士が20名くらい乗り込んできた。


私達が全員乗り込むと、陸とつないでいたロープが外されて、錨が引き上げられた。


「帆を張れ!」

「帆を張れ!」

船員たちがキビキビと動いて帆を張っていく。

私はそれを感心してみていた。


帆が目一杯張られて、ゆっくりと船が岸から離れる。


「あっ、動き出した!」

私は初めての船に感激していた。メンロスへの移動はいつも馬車だったので、船での移動は私は初めてだった。


「ルヴィ、水平線が見えるよ!」

私ははしゃいで、ルヴィに報告していた。

初めての船に私は興奮していた。

私の両親は船にはあんまり良い思い出がなかったみたいで、船には乗せてくれなかったのだ。昔乗った船が悪天候に遭って難破しそうになり大変な目にあったらしい。


今日は天気も晴れているし、悪天候になることは無いだろう。


ブレーメンには昼前には着くようだ。



「ルヴィ、カモメが飛んでいるよ」

「そうだな」

「ルヴィ、あの岬はなあに?」

「ルモイ岬だ」

「ルヴィ、あの大きなお魚はなあに」

「あれはクジラだな」

「へええええ! あれがクジラなんだ」

私は見るもの聞くものすべてが物珍しかった。

前世でも船なんて乗った記憶がなかった。あっても池のボート位だ。

だから、喜んだ私はルヴィを連れ回して船の上を動き回ったのだ。



帆船は帆をたなびかせて順調に走っていた。

途中まで、きちんと進んでいたのだ。


そして、気づいたら急激に崖が迫って来たのだ。


「あれ、ルヴィ、こんなに岩場に近付いたら危ないんじゃないの?」

「そうだよな。船員が言うにはブレーメンまでは危険なところは何も無いという話だったんだが」

私の問にルヴィが不審そうに答えてくれた。


「あるいは、もう、ブレーメンに着くの?」

「いやそんな早い訳はないと思うが」

私の問いにルヴィが頭を振ってくれた。

「どこかの漁村にでも寄るんじゃないのか?」

私達が不審に思っていた時だ。


そこへクレンツェ伯爵達が近付いてきた。

「伯爵、岸に近付きすぎではないのか?」

ルヴィが聞いてくれた。


「いやあ、少し寄り道させてください」

クレンツェ伯爵はそう言うと私達を見た。

「ランゲオーグにね」

伯爵は笑ってくれた。


「ランゲオーグに何か用があるのか? 出来たら直接ブレーメンに行って頂けるとありがたいのだが」

ルヴィがやんわりと文句を言うと、

「いや、申し訳ありませんな。行き先自体がランゲオーグに変更になりまして」

伯爵自体が手に紙を持っていた。


「どういう事だ!」

眦を決してルヴィが聞くと

「どうもこうもありませんよ。アデリナ様には莫大な懸賞金がかかっておりますからな」

伯爵は笑ってくれた。


「伯爵、裏切ったのか!」

ルヴィがきっとして剣に手をかけると、私達を取り囲んでいた周りの騎士たちも剣の柄に手をかけた。


「裏切ったとはまたまたおかしいですな。私は元々ロンメルツ王国の臣なのです。王の命には忠実なのですよ」

「王がエンゲルに王女殿下を引き渡せと命じたのか」

「さよう。元々ロンメルツ王国はエンゲル王国の忠実な下僕ですからな。王妃様をエンゲルから迎えておりますし」

下ひた笑みを伯爵は浮かべていってくれた。


「お父様。また、お手紙よ」

ツェツィが紙を持ってきた。

通信魔法の手紙だ。

仕組みはよくわからないが、魔道具によって遠距離は無理だが、短距離なら手紙を送れるのだ。


「ツェツィあなた、友達の私を売ってくれたの!」

私が悲鳴に近い声をあげると

「友達? 何をふざけたことを言っているのよ。私は元々あなたなんか友達だとは思ってもいないわ」

ツェツィの言葉は私には衝撃だった。


「えっ、だってあなた私には親切にしてくれたじゃない」

「何を言っているのよ。私は嫌だったのに、あなたと親しくなれってお父様が言うから仕方無しによ。お陰で色んな情報が手に入ったわ。それについては感謝しているのよ。でも、わがまま放題のお姫様の相手するのは本当に大変だったわ」

ツェツィは嫌そうに答えてくれたのだ。


「そんな……」

私はツェツィは最後に残った友達だったのに……

私はショックのあまり言葉を発する気力もなくしてしまった。


「最後にその体を我が領地にまで運んでくれるとまでは想像もしていなかったけれど。お陰で懸賞金もたっぷりもらえるわ。本当に有難う」

ツェツィは笑って言ってくれた。

やっぱりどんなにあがいても私はゲームのエンディング通り、エンゲルに引き渡される運命にあるんだろうか?

呆然とした私達は港に待機していたエンゲルの騎士たちに捕まって牢屋に入れられてしまったのだ。





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