第12話 白馬の騎士視点3 ハウゼンの裏切り者を成敗しました

俺はあまりにも怒り過ぎて、制御が出来なかったのだ。


男達をレデイの前でぶった切ってしまった。


それを見てリナが倒れてしまったのだ。


完全に失敗した。全員燃やせば良かったのだ。一瞬で蒸発させればリナが気絶することもなかったかもしれない。


俺は倒れる寸前のリナを抱き止めていた。


慌てて抱えると白馬に乗ってローレンツの国境の都市ドンコイに裏道から入った。



ローレンツの都市は城壁もなく、入国もほとんどフリーパスだった。


交易の国を自称しているだけはある。


その分他国のスパイも入り放題だったが。


リナは熱も出しているみたいだった。

無理もなかった。ずっと緊張していたのだろう。


俺だけなら野宿も問題なかったが、熱も出しているリナでは難しいだろう。


ここからブレーメンまでは俺が必至に飛ばしても一日はかかる。


緊急事態だ。俺はリナを連れ込み宿に運んだのだ。


こんなことが周りにバレたらリナの今後に響くと思うが、緊急事態だ。それにリナ自体が襲われそうになっていたのだ。何か言われれば俺が責任を取ればよい。というか、俺はもうリナを手放すつもりは毛頭なかったが……


こういう宿の方が追手にはまだバレにくいだろう。


女を抱えて現れた俺を親父は白い目で見て来たが、前金で10日分の宿泊代を渡すと何も言わずに部屋の鍵をくれた。


シロの世話もしてくれるという。


俺は宿の周りに結界を張った。変な輩が入ってくれば判る仕組みだ。


取り合えず、リナをベッドに入れる。出来たら着替えさせたかったが、流石に俺が着替えさせるわけにもいかない。


リナの寝顔を久々に見たが、とてもきれいになっていた。昔の子供の頃もおしゃまで可愛かったが……


でも、苦労したみたいで、目の下に隈を作っていた。


何が大切に扱っているだ! 何が息子の婚約者としてきちんと面倒を見ているだ!


リナは後ろ手に縛られて衛士たちに襲われそうになっていたのだ。


リナがいなければ俺はそのままメンロスの王宮に殴り込みをかけるところだった。


リナを祖母の所に送り届けた後に、そうしてやろうかと思わないでもなかったが、今は何としてもリナを祖母の所に届ける事だ。


俺は取り合えず、リナの横で寝る事にしたのだ。




「お母さま!」

俺は夜中にリナのうなされる声で起こされた。


「助けて、誰かお母さまを」

夢の中でリナは母が殺される夢でも見ているんだろう。

とてもうなされていた。


「リナ、大丈夫だ。俺がいる」

そう言ってリナの手を取ると、

「ルヴィ」

目をうっすらと開けて、俺を見てきた。


「大丈夫だ。これから俺がずっとそばにいてやるから」

俺はそう宣言していたのだ。


それを聞くとリナは安心した様に寝てくれた。


俺は誰が何と言おうとリナをもう絶対に放さないと心に決めていた。

たとえどんな困難があろうと絶対に。


いざとなれば別に家を捨てればいい話だった。剣聖としてどこでも生きていけるだろう。


リナの気持ちもあると思うが、俺はリナの子供の頃の希望の通り、剣聖になって白馬のシロに乗ってリナを助け出したのだから。リナが何と言おうと俺は自分の気持ちを変えるつもりはなかった。



翌朝、リナが起きてから、リナの事情は聴いた。


俺が思っていたよりもリナは酷い目にあっていたらしい。

行く当てのなくなったリナを婚約破棄して、エンゲルに引き渡そうとした王太子を俺は絶対に許さないと再度心に決めた。そして、俺たちに嘘を言った国王も。リナをないがしろにした公爵令嬢もだ。

リナに救ってもらっていながら裏切った奴らも絶対に許さないと決めたのだ。



「でも、本当にハウゼン王国の件は悪い事をした」

俺はリナに頭を下げたのだ。


「有難う、ルヴィ。あなたにそう言ってもらえるだけで十分よ」

「何を言っているんだ、リナ。俺が困っている時に、君のご両親は俺を庇ってくれた。君の国に何のメリットもないのに。エンゲルからの俺を引き渡せという要望を蹴ってくれたんだ。俺はメンロスのような裏切り者になりたくない。だから、本当にすまん。ハウゼンの滅亡を救えなかった。申し訳ない」

俺はリナに頭を下げたのだ。


「何言っているのよ。帝国の騎士のあなたじゃ救いようがないじゃない」

リナはそう言ってくれたが、俺は剣聖だ。やろうと思えばいくらでもやりようはあったのだ。

前もって判っていれば、エンゲルの大軍を足止めくらいは十分にできたはずだ。

少なくとも王と王妃を逃がすこともできたはずなのだ。


あのさえない養子ともどもエンゲルに殺されることなどなかった。


リナは取り合えず、安全なところで生活したいと言って来た。

それを聞いて俺はリナの祖母の所に連れて行けばいいと思っていたのだ。

王女だったリナが平民として生活したいなど言いだすとは思ってもいなかったのだ。


その夜、俺の結界に引っかかった奴がいた。


俺はすぐに飛び起きるや幻覚魔術をかけて俺が寝ているように見せかけてとりあえず、押し入れに隠れた。


敵は部屋の鍵を壊して入ってくると、幻覚魔術の俺にナイフで刺して来たのだ。


馬鹿な敵はそれが幻覚だとも気付かなかったみたいだ。


そいつらを一刀両断で処分すると、リナを連れて飛び降りたのだ。


リナは悲鳴を上げていたが。


昔から高い所は好きだが、そこから飛び降りたりするのは苦手だったのを思い出した。


シロに乗ってもきゃあきゃあ言っていたが、それに構っている余裕はなかった。


リナは俺にぎゅっと抱きついて来てくれて、俺は嬉しかった。リナはそれどころでは無かったと思うが。


敵を退治して少し行ったところでリナを下した。


リナはもうフラフラだった。


そして、リナが泣き出したのだ。


やり過ぎたか? と後悔もした。



抱きしめた俺の胸の中でリナは号泣したのだ。


どうやら今までの事で泣いているらしい。


両親が殺されたと知ってから今までほとんど泣いていなかったそうなのだ。


俺と出会ってほっとしたというのもあるのかもしれない。


俺はリナが泣き止まで、そのままでいようとしたのだ。



しかし、無粋な奴らが俺たちの前に現れたのだ。


何と奴はハウゼンの裏切り者だった。


その上、リナを弄んだ末にエンゲル国王に下げ渡すなどとふざけた事を言ってくれた。


こいつの死が決定した瞬間だった。


俺はこいつもエンゲル王も許さないと心に決したのだ。


怒りで完全に切れた俺は、裏切り者を二振りで成敗した。


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