第2話 断罪されて衛兵に捕まりました
「……」
私は張り倒されてしまった。
な、何でこいつに張られなければいけないの……
当然ながら王女だったから両親にも頬を張られたことなんて無かったし、前世でも無かった。
私は頬を押さえて、睨みつけたのだ。
「何、その目は、お前は、平民の分際で、公爵令嬢にそんな目つきで見るの?」
きっとして、クラーラが再度張ってきたのだ。
パシーンと言う音ともに私は張り倒された。
そして、そのまま地面に激突、地面に突っ伏したのだ。
もう最悪だった。
頬は痛いし、体は泥だらけになった。
私はノロノロと起き上がった。
「まあ、泥だらけね。本当に良い気味だわ」
そう言うと、クラーラは笑ってくれたのだ。
それに釣られて皆どっと笑ってくれた。
私は誰か一人くらいは助けてくれるかと思った。
でも、誰も助けてくれなかった。
そうだ。私はもう、王女でもなんでもないのだ。平民のアデリナなのだ。
お父様とお母様がエンゲル王国に殺されてしまって、国をエンゲル王国に奪われてしまった、落ちぶれた平民なのだ。
エンゲルに攻められた時、私は泣いてアヒムに助けてほしいと頼んだのに、自業自得だとアヒムにも突き飛ばされた。アヒムが私を助けてくれることなんてありえなかった。それも今まさに断罪されている途中だ。
周りを見ても皆、私を見て笑っていた。そもそも平民女を王太子や公爵令嬢から庇ってくれる貴族なんているわけはないのだ。
そう私が諦めた時だ。ベルタ・キルヒナー伯爵令嬢が立ち上がって私の前に来てくれたのだ。
私はベルタと親しかった。
私の事を少しは庇ってくれるのだろう。
私は期待したのだ。
「まあ、アデリナ、いい気味ね」
私を見下して話し出す、ベルタを私は唖然と見上げたのだ。
そんな……ベルタまで!
「アデリナ様。私のことをそこまで考えていたけるなんて、この御恩は一生涯忘れませんわ」
確か、ベルタの実家が作った織物が売れなくなったとかで、私はその多くを王国で買い取ってあげたことがあるのだ。
その時は感謝してくれたのに、力が無くなると、あっという間に恩も無くなるらしい。
私は貴族社会の無情さを骨身にしみて理解した。
「私はこの女に言われてクラーラ様に辛く当たったことがあります。本当に申し訳ありませんでした。その当時、アデリナはハウゼン王国の威を借りる狐で、逆らったら、我が家の絹織物を売れなくすると脅してきたのです」
「まあ、そんな酷いことを下のこの女は」
クラーラが私を軽蔑して見下ろしてくれたが、
「なんですって、あなたの困っている時に買い取ってあげたのは私じゃない」
私は流石に我慢できなくて叫んでいた。
「ほとんど価値のない値段でね」
「なんですって! そもそもその値段はあなたが私に言った値段だったじゃない!」
「その時あなたの視線が怖かったから、そう言うしか無かったのよ」
ベルタは私に向かって言ってくれたのだ。
「そんな、あなたがその値段で良いと言ってくれたから、その値段にしたのに!」
「ふん、あなたが怖くてそれ以上の金額なんて言えるわけなかったのよ」
「えっ、でも、本国の商人に聞いたらその値段が正当な価格だと言われたわ」
私が言うと、
「何言っているのよ。よく言うわね。あなたの買い取った値段は我が国の適正価格の十分の一の値段よ。それであなたとその商人はボロ儲けしたんでしょ」
あの商人が嘘を言ったというのか? いや、あの商人アシムは信頼できる商人だ。嘘なんて着くわけはない。
「なんていうことだ。本当にアデリナは酷いやつだな。友人の窮地に付け込んで儲けるなどとんでもない女だな」
「本当ですわ」
アヒムの声にクラーラが頷いたのだ。
皆それに頷いていた。
「クラーラ様。申し訳ありません。私はその女アデリナに脅されて、クラーラ様のノートを隠したことがあります」
次の令嬢はクリスタ嬢で家は商会を運営していて、家が不渡手形を掴まされて潰れそうだと泣きこんできたので、その商人のアシムを紹介してあげたのだ。
「なんて脅かされたの?」
「言うことを聞かないとあなたの家を没落させると。私の家はハウゼン王国と大きな商いがございまして、それを切られると家が没落するところでございました」
「何言っているのよ。潰れそうだと言うから商人を紹介してあげたでしょ」
「何言っているのよ。その商人がとんだ悪でして、我が商会は大損害を被ったのです」
「嘘よ。そんな事ないわ」
「ええい、だまりなさい」
私は今度はクラーラに蹴飛ばされたのだ。
私は地面に転がっていた。
それを見て皆どっと笑ってくれたのだ。
飛んだ茶番だった。
私は今まで色々便宜を図ってあげた貴族令嬢達が次々に現れて、私に脅されてクラーラを虐めたとやったこともないことを延々と白状され続けたのだ。
私はもう反論する気力もなかった。
反論したって、またクラーラに蹴飛ばされるのが落ちなのだ。
私がもう物を言う気力も無くなった時だ。
「なるほど、アデリナは私の見えない所でとんでもない事をしでかしていたのだな」
アヒムが私を睨んできた。
「このようなものを今まで私の婚約者にしていたのが間違いだった。アデリナを国外追放の刑に処す」
「えっ」
私は思わずアヒムを見た。
私はもう、ハウゼン王国の王女ではない。王宮から追放されても仕方がなかっただろう。でも、いきなり追放するのか?
「ええい、衛兵。何をしている。直ちにこの女を捕まえて国境から放り出せ!」
私はアヒムの命を受けた衛兵にパーティー会場から引っ立てられたのだった。
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