失われた時間

 日頃、必要になる物を買いに市場へ来てみたら、お祭りがあった。貴方に聞いても、豊作を願う祭りか何かではないのかと見慣れた言い方。


「また来年もある」


 来年、その言葉に以前の生活を思い出す。


「そういや、あんたが生まれた世界に、祭りはあるのか?」


 わたしが生まれた世界? あぁ、この世界にくる以前のことを聞いてるのね。


「ありますよ。たくさん」

「そんなにか」

「一度体験してみます?」

「何をする気だ」


 眼を細めて警戒された。


「お菓子を作って渡すだけです」

「ずいぶんと静かな祭りがあるんだな」


 年頃の子はソワソワと落ち着かないんだって。場所が変わればすることが変わる。その違いは楽しいかも。


「あんたには失われた時間がある。それを補えるかは分からないが……」


 自信があるからなのか、いつも淡々としてる貴方が俯いた。


「貴方が言うとおり、失われた時間かもしれません。そうやって気にしてくれてたんだと知って嬉しいし、楽しい毎日ですよ?」


 顔が上がる。少しゆるむ頬、照れにも近い笑みをする。


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