初恋

 理科室でしか見ない試験管。様々な植物、分厚い本、それらが広がっている机。散らかっているようにしか思えないけど、貴方には意味のある配置なんでしょうね。


 邪魔にならない、かろうじて空いているところへカップを置いた。「少しは休んでくださいね」


 わたしの声に、貴方は振り向く。


「飲む」


 香りをみてから、次にひとくち飲む。貴方はいつもそうする。


「お茶、好きなんですね」

「あんたの淹れるお茶は、好きだ」


 ここ数日は、調べ物をしているようだったから、紅茶を淹れた。気分転換を訊ねるほど、貴方が考えに煮詰まる姿を見ない。

 でも、一緒に過ごしてきたから、何かしたいの。


「初恋は、ありました?」

「初恋? 何だそれは?」


 恥ずかしがる様子も、懐かしむ様子も無い。知識として知りたそうなその表情に、聞いたこっちが恥ずかしくなってくる。


「人生で初めて、人を好きになること……?」

「そんな事、考えもしない」

「そうなんですね〜」


 広がらない話題だった。わかってて聞いたけどさ。


「生きてきて初めて、他者と過ごすのが良いものと感じてる。これが初恋なのか?」

「ど、どうなんでしょうね〜……? 家族や友達、尊敬できる人にだって好きは当てはまりますからね」


 あ〜、びっくりした。ずいぶんと、ふわっとしてた。でも、貴方にとって一緒に過ごしてて楽しい相手がわたしだったら……。


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