第三話:グレイト・ティーチャー・??????

「言葉の前に心あり。言葉の後に行動あり」

――島田浩子


「ダメです」

 ヒビ割れやそこからの隙間風で満たされている職員室に僕たちは来ていた。もともとの目的は、宇宙に行く活動の許可を取るためである。


 だがいつの間にか授業の時間を使って、宇宙に行くための準備の時間を捻出したいということを、箭内が言い出したのだ。

 先生が、そんな箭内にきっぱりと言ったのだ。


 彼女は鬼塚先生。部活全体を統括するかなり偉い先生だ。

 背が高く、すらっとしていて結構な美人だ。この学校には数年前に赴任したらしく、父兄の間では左遷じゃないかと話題になった。

 だが先生は腐ることなくきちんと接してくれている。


 そして、この学校唯一の女性の先生である。


「なんでダメなんですか!? 私たちの夢が詰まってるんですよ!」


 箭内は口からつばを飛ばしながら、声を荒げた。こっちに飛んで来てるので勘弁してほしい。

 僕は残念でもないし当然だと思った。


「そりゃあそうでしょう。宇宙に行くために授業の時間を使わせてください。なんて受け入れるわけにはいきません」


 そもそも、ここに来た理由は宇宙に行くための活動の許可を取るためで、授業の時間を使いたいって話をしに来たわけじゃないと思うが....


「でも、学外の時間だけで作れるわけないじゃないですか!」

「何か勘違いしてるようだけど、学生の本分は勉強よ?」

「そりゃあそうですけど....」


 完全に論破される箭内。ガクッと何処かわざとらしく肩を落とす。漫画で言うブツブツという吹き出しがピッタリと似合う。


「まあたしかに....」


 僕は賭けのことを思い出す。

 あんな「『欲しいもの』が欲しい」なんてもん、どこで手に入れるんだよ。


「あんたもなんか言いなさいよ」


 とヒソヒソと僕に話しかける。


「先生」

「なに?」


 先生がこちらを見る。

 たっぷりためて、ハードルを青天井に上げた後こう言った。


「多分、宇宙には行けませんけど、悪あがきをさせてもらえませんか?」


 バシっと肩を叩かれた。


「あんたはどっちの味方なのよ!」

「だって、多分僕が一番無理だと思ってるから」

「最ッ低!」


 僕たちの会話を見かねて、先生が遮った。


「とにかく、放課後とかにするなら文句は言わないから、そこは好きにやんなさい。授業の時間を使うのは絶対にダメ!」


 僕たちは顔を見合わせた。


「はーい」

「わかりました」


 先生はそれを聞いてこう言った。


「まあ、宇宙に行きたいならやってみなさい。きっと無駄にはならないわ」


 それを聞いた箭内はニヤリと笑った。



「どうだった?」


 教室には、どことなくピリッと緊張した空気が漂っている。栗原が僕たちに声をかける。


「ダメだった」


 僕が答える。

 今は昼休み。3時間目と4時間目の間だ。


「そりゃそうだわな」


 箭内は肩を落としているかと思いきや、元気一杯だった。


「いいえ。宇宙に行くことについては、文句ないそうよ!」

「そりゃあよかったな!」


 多分先生としては「絶対に無理だけど頑張ってみなさい」というニュアンスを込めた、やってみなさいだった気がするなあ。


 一つ、疑問に思っていることを聞いてみた。


「なんで授業時間を使わせてほしいなんて言ったんだ?」


 彼女は悪い笑みを浮かべる。


「そりゃそうよ! 宇宙に行きたいですなんて言っても、多分二つ返事で了解なんて得られないじゃない。だったら、ハードルの高いお願いを先に出しといて、そのあともう片方を認めさせた方がいい。これが私なりの交渉テクニックなの!」


 なるほど、と僕は思った。


「どっちも認められなかったら、どうするつもりだったんだ?」

「その時はその時!」


 ....相変わらず豪胆な奴だ。


「で、どうやって宇宙に行くんです? そのあたりのアイデアとかってあります?」


 箭内が即答する。


「ないわよ」

「「は?」」


 僕と栗原がハモった。


「ノープランってこと?」


 栗原が聞いた。

 僕は大体察していた。多分こいつはノープランだろうなと。


「じゃ、じゃあどうやって宇宙に行くんですか?」


 奥内が上目遣いにおずおずと口を開く。


「だから、それをみんなで考えるんじゃない」

「そりゃそうですけど....」


 奥内は少し考えて、こう言った。


「じゃあ私は航空法とかの法律について調べますね!」


 え? まじでやんの? 彼女の声はどこかウキウキと、スキップを踏んでいるようだった。

 え? まじで?


「お、いいじゃない! 男共二人はどうするの?」


 僕と栗原は顔を見合わせた。

 いや、そんなこと言ったって、僕にだって自分の時間というものが....


「いや、俺は....」

「じゃあ俺らは具体的に、どうやって宇宙に行くか考えるわ!」


 栗原が一方的に宣言する。


「オッケー。よろしく頼むわ!」

「....」

 マジで具体的な話が進んでいっている。

 その時、始業のチャイムが鳴り、先生が入ってきた。


 本当にこんなことを続けて宇宙に行けるのか疑問に思っていた。

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