第8話
第8話
「僕はラムネさんのように振る舞うことができない。たった半日ラムネさんとして過ごしただけで、これほどまで君を傷つけてしまうと分かった。だから言う。僕は星船エンジニアのジュニジェイン。君のパートナーのラムネさんじゃない」
「あなた、ラムネじゃないの? ……ラムネの親戚ってこと?」
ワタアメの問いに、ジュニジェインは首を振る。
「いや、違う。本来の僕はラムネさんの親族どころか種族すら違う。それなのに気づいたらこの姿になってラムネさんの家にいたんだ」
「姿が変わった? そんな話、聞いたことがないわ」
「僕は元の姿に戻りたい。協力して欲しい」
「あなたがラムネの姿になったとして、本物のラムネはどこにいるの?」
「分からないけど、方法はある」
「なによ?」
「僕が魔法でワタアメを探したように、魔法でラムネさんを探すんだ」
ジュニジェインとワタアメは周辺の貝を拾い集める。やがて両手いっぱいの量になると、ワタアメはこう唱えた。
「精霊に願うわ。朝から姿を見せない私のパートナーがどこにいるか教えて。お礼として両手いっぱいの貝をあげる」
ふっと貝が消え、ワタアメから光の糸が伸びる。光の糸はジュニジェインに向かうかどうか迷う素振りを見せた後、2人の頭上に向けて一直線に伸びた。
ワタアメは困惑する。
「上……? なにも見えないわよ?」
「……いや、おそらく魔法は正しく発動している」
「なにか分かったの?」
「僕の予想が正しければ、ラムネさんがいるのは宇宙だ」
※※※※※
「俺らのご先祖様は新天地を目指して地球を旅立った。今もその新天地には到着していない。どういう意味か分かるか。俺らは地球から離れている最中だということだ」
「えっ。ジブラルタルに向かうことはないんですか?」
「ないな」
「そんな! それでは帰れないじゃないで――」
「兄ちゃん! プロテインバーのチョコ味ひとつちょうだい!」
「――は、はい! 200イェンになります!」
ラムネはビニール袋にいそしそと商品を詰める。お金を受け取ると、精いっぱいの笑顔で一般通過男性船員に商品を手渡した。
「お買い上げありがとうございます!」
「おっ! ありがとよ! なんか知らないけど、落ち込むなよ! 何事もなるようになるさ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
試験勉強が終わった後、商業区の一角で、ラムネとバルバロは奉仕活動を行っていた。活動内容は食料品の販売だ。販売員の制服に身を包み、営業スマイルで次から次へとやってくるお客様に対応している。
バルバロは倉庫から棚に商品を陳列しながら、ラムネに話しかける。
「星船の行き先は船長が決めている。船長を説得しない限り地球に向かうことはありえないし、仮に地球に向かうことができても俺らの世代でたどりつくことはないだろう」
「……厄介って、そういうことだったんですね」
ラムネは顔をうつむかせる。
バルバロはラムネの背中をばんと叩いた。
「ま、逆に言えば、だ。お前はそれだけの距離を越えて星船にたどり着いていることになる。こっちにきたのと同じ道をたどれば何とかなるさ」
「同じ道、ですか?」
「気がついたらジュニジェインになっていたって話だけどよ。なにか思い出せるものはないのか? 死に目に遭ったとかカミサマに会ったとかチートをもらったとかよぉ」
「わたし、ときどきバルバロさんの言うことが分からないです。うーん、何でしょうね。あーでも、ジュニジェインさんになる前に夢を見た気がしますねぇ」
「ほう。夢か」
ラムネは、頬に手を当てて、遠くを見るようにこう言った。
「なにか、とても美しいものを見た気がします」
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