第5話
第5話
ジブラルタルの食堂で、3人の人魚が食事をとっている。ひとりはキラキラした目で魔法に関する質問を投げている。もうひとりは質問に回答している。最後のひとりは頬を膨らませて退屈そうにしている。
「なるほど。つまり、水の流れを変えたり光を放ったりするチカラを魔法と呼んでいるんだね。それで、魔法が使えるのはジブラルタル周辺に限られると」
「そっす。魔法の使用条件はジブラルタル周辺であることと必要な触媒を揃えることと人の意志が介在していることの3つっすね。達人は考えるだけで魔力を働かせることができるっすが、そうではない人は言葉を使うのが一般的っす」
「触媒というのはどういうものを使うんだい?」
「海藻や魚肉や貝や甲殻類っすね。要は食べ物っす」
「へぇ。つまり、食べ物をかがけて『光れ』と言えば食べ物が光ると」
「そんな乱暴な言い方は駄目っすよ。あと具体的じゃないと」
「ふむ?」
「そっすねぇ。あんまり細々したことで魔力を呼び出すのは良くないんすけど、説明するより実演してみるっすね」
マカロンは料理を右の手のひらにのせ、こう唱えた。
「魔力にお願いするっす。ボクの右手を光らせてほしいっす。お返しとして手のひらの料理をあげるっす」
マカロンの手のひらから料理が消える。次の瞬間、その手は青白く発光した。
「ほう。キレイだね」
「魔力さん。もういいっすよ。ありがとうっす」
マカロンの手の光が消える。
「こちらの言葉が通じるのか。魔法とはかなり融通が効きそうだね」
「あんまり魔力を困らせちゃ駄目っすよ」
「魔力って呼び方はどうかと思うわね」
2人の様子を眺めていたワタアメは、むすっとした顔で会話に混ざる。
「魔力は物を食べて人と会話している。つまり生きているのよ。それなのに無機質なエネルギーのような呼び方はどうかと思うわ」
「ワタアメさん。ラムネさんは初心者っす。最初から魔力を妖精とか精霊とか盟友とか呼んでしまうと頭がこんがらがるっすよ」
「ラムネは初心者じゃないわ」
「いや、僕は初心者だよ」
ジュニジェインの言葉にワタアメは驚く。
「え? 初心者じゃないでしょ。私はあの詠唱を忘れていないわよ」
「詠唱?」
「わ、忘れちゃったの? あの歌い上げるような詠唱を? あのときのことを?」
「……すまない」
ワタアメは唇を噛み、テーブルを強く叩くと、食堂からひとりで出ていった。
ジュニジェインはあっけに取られる。
「今すぐ追いかけるっす」
マカロンはジュニジェインをにらみつける。
「わ、分かった」
追いかけようとして、ジュニジェインはテーブルの上の料理を見て逡巡する。
「今すぐ!」
マカロンは大声を上げる。ジュニジェインは料理を鷲掴みして食堂を出た。
※※※※※
時はラムネとバルバロが二等機関士の試験勉強を始めて30分ほど経過した。
「……マジで何も覚えてねぇじゃねぇか」
バルバロはラムネの無知さに戦慄する。
「すみません……」
「どうしちまったんだよ。まるで俺より頭が悪いみたいじゃねぇか。お前から頭脳を取ったら何が残るんだよ」
「うぅ、知らない概念が多すぎます……」
「言っちゃ悪いが、今のお前って三等機関士より機関士見習いがふさわしいと思うぜ」
「わたしもそう思います……というより、見習いにはなれるんですね」
「こりゃマジでやばいな。まぁ、フォローするけどよぉ。頼むから早めに思い出してくれよ」
そう言って試験勉強に戻るバルバロを、ラムネはじっと見つめる。
ラムネはふと気になったことを聞いてみることにした。
「あの……」
「ん?」
「ジュニジェインさんとバルバロさんって、そういう関係なんですか?」
「そういう関係って、どういう関係だ?」
「恋人というか……」
「ぶふぉっ!」
予想外の言葉に、バルバロは吹き出す。
ラムネはバルバロの反応にきょとんとする。
「え? だって、ルームメイトだし、すごく優しいし、泳げないわたしを【えんじんるーむ】に運んでくれたし、偉い人に囲まれたときは気遣ってくれたし」
「待て待て待て待て! 変なことを言うなよ! 俺とお前はそういうのじゃないだろう!? お前が頭脳系で俺がパワー系を担当! マンガにあるような持ちつ持たれつの関係性が俺らの絆だろうが!」
「では、アグリグラさんですか?」
「はぁ!?」
「ジュニジェインさんとアグリグラさんは、そういう……」
「ないないない! え!? 無いよな!? 勘弁してくれよ! 一瞬だけ疑っちまったじゃねぇか!」
「はぁ、そうですか」
ラムネは眉をひそめて首を傾げる。
「なにがそんなに納得いかないんだよ」
「だって、大勢の人と親しくなるって普通ではないじゃないですか」
「……は? なにを言っているんだ?」
呆けるバルバロに、ラムネは語りかける。
「人は個人と深く関わることこそ大切で、大勢と関わるのは不純じゃないですか?」
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