第4話
第4話
「ラムネ……その子は誰?」
ワタアメは薄笑いでジュニジェインに問いかける。
ワタアメの表情を見たマカロンはカタカタと震えだした。
「む。ワタアメさんか」
「『ワタアメさん』? さん付け?」
「こちらはマカロンさん。街の案内をしてくれた親切な方だよ」
「あわわ、あわわわわわーっ!」
マカロンは高速で移動すると、ワタアメの前にひれ伏した。
「マカロンさん、はじめまして。何をしているのかしら?」
「謝罪をっ! せねばとっ! 思ったっす!」
「何についての謝罪かしら。私は別に怒っていないわ。そう、ただ、うちのラムネとどういう関係なのか知りたいわね」
ワタアメのこの言葉を受け、マカロンは過呼吸を起こす。
「はぁっ! はぁ! はぁ……! ボクとラムネさんはっ! 決して! 仲が良いというようなことはなくて! 本当に! さきほど会ったばかりの仲でして!」
「会ったばかりにしては随分と親しそうだったけれど」
「くっ! うぐぅっ! はぁ! どうか! どうか信じてほしいっす! ボクは2人の仲をおびやかす気は絶対に! ぜーったいに! ないっす!」
「ふぅん。そう。信じるわ」
ワタアメの言葉に、マカロンは顔を明るくさせる。
「で、では……!」
「でもね」
ワタアメはマカロンの耳元に口を寄せると、こうつぶやいた。
「私のラムネに手を出したら、八つ裂きにしてナマコの餌にするからね」
マカロンはごくりと生唾を飲む。
ワタアメは顔を上げると、晴れやかな笑顔でジュニジェインに話しかけた。
「ラムネ。謝罪行脚は無事に終わったわ。一緒に食堂に行きましょう」
「ワタアメさん。その件に関しては本当にすまなかった」
「んもー! ワタアメさんじゃなくてワタアメ! そうやって失敗を気にして距離を取られると傷つくわ! やめてちょうだい!」
「なら、ワタアメ」
「そうそう! それでいいのよ!」
「せっかくだから、マカロンさんとも一緒に食事しないか?」
「……はぁー?」
マカロンは白目をむいた。
※※※※※
星船の居住区の三等級ルームに、荷物を持ったラムネとバルバロが入室した。
バルバロは荷物を下ろすと、中から生活必需品を取り出していく。
「あーあ。またここからやり直しか」
「その、バルバロさん、すみませんでした。わたしのせいで家を追い出される羽目になって」
ラムネとバルバロは三等機関士に降格した影響で、元いた一等級の居住空間を追い出されることになった。一等級と比べるとこの三等級ルームは極端に狭い上にベッドが固く、なにより埃っぽい。倉庫を無理やり住めるよう改造したかのようであった。
「はっ。お前とペアになったときからこれぐらいのトラブルは覚悟していたぜ。落ち込む暇があったら再試験の準備をするんだな」
「再試験って【いっとうきかんし】の試験ですか?」
「あぁ。一等機関士に返り咲けば、元の居心地のいい部屋に帰ることができる。といっても、三等機関士は一等機関士の試験を受けられねぇから、まず目指すは二等機関士の試験だな。まぁ、俺たちなら余裕だろ」
「で、ですかね……」
「おいおい、俺はこれでもお前のことを買っているんだ。試験勉強、また色々と教えてくれよ」
「お、教える? わたしがですか!?」
「前は教えてくれたじゃねぇか」
「む、無理! 無理です! こっちが教えてほしいくらいです!」
「なにを言っているんだか。まぁいいや。先にメシにしようぜ」
バルバロはラムネに縦長のパッケージを投げ渡す。
「な、なんですか? これ」
「なにって、プロテインバーだよ。バニラ味の」
「ぷろていんばー? ばにら?」
バルバロはラムネの言動を無視して食事に取り掛かる。自分用のパッケージを剥がして中身の白い直方体を取り出すと、ぼりぼりと噛み砕いた。
ラムネはバルバロの様子を真似してパッケージを剥がす。中身の白い直方体を物珍しそうに眺めた後、そっと一口かじりついた。
「あ、甘い。でも、すっごく乾いてる」
「保存食だからな」
「変な食感」
ラムネは次第に食欲を刺激され、もりもりと食べ進める。
「食い終わったら試験勉強な」
ラムネはゆっくり食べることにした。
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