第2話

第2話


 コンサート終了後、ワタアメはジュニジェインに声を掛けた。


「ラムネ、大丈夫? 調子が悪かったの? 朝から変だったものね」


「上手く歌えなくてすまない。大勢の人に迷惑をかけてしまった」


「コンサートの関係者には私から謝っておくわ。ラムネは気にしなくていいから、今日はゆっくり休んで調子を取り戻してね」


 そう言って泳ぎ去るワタアメを、ジュニジェインは手を振って見送る。


「さてと。観光するか」


 ジュニジェインは情報収集を開始する。ひとりで見て回るのは非効率と考え、通行人の人魚を呼び止める。


「やぁ。ちょっといいかな?」


「ボクっすか? 何の用で……ラ、ラムネさん!?」


「おや、この顔を知っているのかい?」


「ラムネさんの顔を知らない人魚はそういないっす! ファンっす! 握手して欲しいっす!」


 ジュニジェインは一般通過女性人魚と握手を交わす。


「君の名前は?」


「マカロンって言うっす!」


「マカロンさん。良かったらここら辺のことを教えてくれないかな。はじめて来たばかりで右も左も分からないんだ」


「はじめて?? コンサート会場では何度もお見かけして……いや、そうか。お忙しいっすもんね。あまり出歩かない性格とは聞いたことがあるっす。案内してもいいっすけど……マネージャーさんのことはいいんすか?」


 苦笑いで確認してくるマカロンに、ジュニジェインは首を傾げる。


「なにか問題でも?」


「え、仲良しじゃないんすか?」


「そうなのかな。よく分からない」


「え……」


 マカロンは絶句する。


「それはそうと、僕は本当に困っているんだ。どうかお願いだ。色々と物事を教えてほしい」


「ううーん」


 マカロンは腕を組んでうなる。


「お礼として僕にできることは何でもしよう」


「な、なんでも!? なんでもって、なんでもって意味っすか!? ……いや、いやいや、うかつにそんなことを言ったら駄目っすよ! 分かったっす! 街を案内するっす! 言っておくけど『なんでも』って言葉に釣られたわけじゃないっすからね! お礼はいらないっす! デートできるだけ儲けものっす!」


「ありがとう。感謝するよ」


「でも、後でマネージャーさんに必ず埋め合わせするっすよ! ボクは2人のことを応援してるっすからね!」


「ん? あぁ、分かった」


 こうして、ジュニジェインはマカロンと共に人魚の街を巡ることになった。


※※※※※


 ラムネは議会に掛けられていた。

 星船のホールには勲章を付けた船員たちがずらりと集結している。彼らは皆、厳しい表情で部屋の中央に立つ人物を見つめていた。


「ひぇっ」


 ホールの中央に立つラムネは小さく声をもらす。視線に耐えきれなくなったラムネは、隣に立つバルバロの背に隠れる。バルバロはラムネの襟をつまんで元の位置に戻す。

 やがて、ラムネとバルバロから見て正面の位置に、白い帽子を被った老人が現れる。老船員は周りを見回すと、重々しく口を開いた。


「全員揃ったな? では、本件に取り掛かるとしよう。今回の議題は、エンジントラブルで星船全体を混乱に陥れた小僧どもをどう処理するかというものだ。あらましを説明しよう」


 老船員はメガネを掛けると、手元の資料を眺める。


「17日、エンジンのメンテナンスを任されたジュニジェイン一等機関士は、バルバロ一等機関士と共にエンジンルームに向かった。ジュニジェインとバルバロはそこで別れることになる。ひとりになったジュニジェインは、なぜか直ぐに作業に取り掛かろうとせず、エンジン周辺を旋回する謎の行動を見せ、その後にメンテナンス機器でエンジンを損傷させた」


 バルバロは不思議な生き物を見る目でラムネを見る。


「エンジンの異常を感知して警報が鳴ると、バルバロがエンジンルームに入室。遅れて他の機関士たちが集まり、エンジンを修復させた。この騒動により、居住区と商業区では事故や盗難の被害が発生。機関区では作業の中断で工期延長。首脳区ではわたしの休日がつぶれた」


 老船員は資料から顔を上げると、ラムネを見た。


「弁明はあるかね? ジュニジェイン一等機関士よ」

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