第十七話

 やはり俺には覚悟が、人を殺すこと、自分が生き残るための覚悟が足りてなかったのかもしれない。


 口では強がれども、所詮口だけだ。


 やはり覚悟が……覚悟がそこには必要なのだ。


「そういやさ」


 唐突に立が口を開く。


「おれら当たり前にこの時計を奪ってきたけど、この時計ってどういう構造になっているんだ?」


 そういえばその通りだ。冷静に考えて時計を取られたら心臓が止まるなんて、にわかには信じがたい。例えそれが事実だとしても。


「そういう理なんでしょ。もしくは集団催眠。昔、こんな実験があったらしいわ」


 そうして鈴香は説明を始めた。


 それはとある所で行われた実験だった。被験者に目隠しをし、血を流させ、その血がポタポタ落ちる音を被験者に聞かせる。


 ちょうど致死量に達したときに報告すると被験者は死亡した、という実験だ。


 もちろんこの時に血は流れてない。血が流れてると嘘を吐き、水をポタポタ垂らしたのだ。


「結果人の思い込みというのは、その人自身を殺すこともあるのよ。だから、実際に時計を外しただけじゃ本当は死なないのかもしれない」


「そんなに言うなら今ここで外してみればいいのではないか?」


 小夜が冷たく言う。


「嫌よ、死にたくないもの」


 確かに、死ぬ可能性がある以上、迂闊には外せない。


「でももしそれが正しいなら、最初の見せしめで殺された人はどうなるんだ?」


 翔太がもっともらしい、疑問をぶつける。


 その通りだ。無精髭の人はどうなるのか。


「わかんない」


 結局この先、会話が続くことはなかった。


 もしかすると、無精髭の人は生きているのかもしれない。それが正しいなら、俺達はこの時計が外れても死なないのかもしれない。


 でもあくまでそれは仮定でしかない。今この状況で事実を証明する方法などないのだ。


「ならばここで時計を解体すればいいのでは?」


 突如小夜がとんでもない提案をしてきた。もし、それができるなら新たな何かがわかるかもしれない。


「そんなことできるのか?」


「一応器具はある。何があってもいいように倉庫から持ち出してきている。にしても、解体の道具まで置いとくとは……まるで解体してくださいと言っているようなものなのだよ」


「解体する時計はあるのか?」


「もちろんだ。何人もの時計を奪ってきたからな。一応、懐中時計と腕時計、両方ともやる予定だ」


 そういって小夜は解体道具をポケットからだした。


 邪魔をするのも申し訳ないので、俺達は話し合いを進めた。その結果二手に行動することとなった。

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