第22話 後片付けと秘密

「ハァハァ…。」

「クソ、ここ行き止まりじゃねーか。戻るぞ。」

暗闇に覆われ、細く見通しの悪い裏路地に走り抜ける影が2つ。遅かれ早かれ見つかるだろうが僅かな可能性に賭けて逃げ続ける。

「こっちに道があるぞ。」

「よし、計画変更だ。」

試行錯誤しながら足を動かす。だがそれを拒むかのように行き止まりが多く現れる。

やっとの思いで抜け道を見つけた彼らだが、その先には1つの影があった。

「おい、そこをどきやがれ。」

男はその影に怒鳴りつけながら突っ込む。

しかし、その影は微動だにしない。

「クソが。」

もう1人も影を睨みつけながら走り出す。

「まぁ、落ち着け。」

影がそう言い放ち彼らを静止させる。

「本当ならば直ぐに逃げ出したいんだろうが、少々ストレス溜まってるんじゃないか?」

「は?」「何言ってんだ?」

影の言葉に疑問を持つ2人。

「少しばかりやり合おうじゃないか?それに…」

影はそう言いながら顔が隠れるぐらい深く被ったフードを脱ぎ始める。

「お、お前は…。」

1人の男が顔を引き攣る。

「この顔に見覚えがあるだろ?まぁ片方だけだろうが。」

影に覆われたそれが月の光を受け姿を現し出す。

「何故…こんなところにいる。」

「さぁな。」

謎の男は存在を知るであろう男に殴りかかる。男も対抗するかのように殴り返す。しかし何一つ相手に届きやしなかった。

「ちっ、手伝え。」

「命令すんなボケ。」

嫌々言いつつももう1人が応戦する。

2対1なのに関わらず余裕の表れを出すかのように軽くあしらう。

「はぁ、はぁ…。」

「いい加減くたばりやがれ…」

2人は疲れが来ているのかスピードが遅くなる。

「もう終わりか。つまらん。」

「「舐めるな!!」」

2人が大ぶりで拳と蹴りを入れてくる。

それを同時に受け止め、2人まとめて吹き飛ばす。

「うぐっ…」

「ぐはぁ!?」

どうやら今の勢いで気絶したようだ。

謎の男は彼らを見下ろし笑みを浮かべる。

「雑魚なのに無理に抗おうとした結果ボコボコにされ、ムショ行き。無様だな。」

そう言い放ち彼はどこかへ連絡する。やり取りをしている時、後ろの男の1人が起き上がる。残っている力を振り絞るかのように拳を握り、殴ろうと奇襲する。

「まぁ待てよ。」

別の男の声が響く。そして、上からその主が落ちてくる。

「奇襲は良くないぜ。はぁっ。」

その男は殴りかかろうとした者に回し蹴りで吹き飛ばす。

「ぬぅっ。」

その1蹴りで相手は気絶した。恐ろしい程の勢いだ。

「油断大敵だぞ。」

「悪いな。」

2人の男…いや青年が話し出す。彼らを主張するかのように月は2人を照らす。

まるで2人だけの世界を映し出すかのようにスポットライトが当たっているのだ。

「にしてもまさかてめえが同じ学校にいるとは思わなかったぞ。」

「俺もだ。流石にヤンチャなことし続けるのは恥ずかしいと親を通して教えられたからな。」

「同じ理由だ俺も。だが…真面目キャラを演じるのは流石に…。ククク」

「あ?んなこといったらお前も何エセ関西弁でおチャラけてんだ。本物に出会ったら殺されんぞ?」

お互い胸ぐらを掴み合いながら言い合う。

「うるせえーな。ギャアギャアと。てめえは全く変わらねーな昔から。」

「お前もだろうが。そういうクールぶってる物言いが嫌いなんだよ。」

「あぁ?俺もその短気なバカしてるところが気に入らねー。」

「やんのか?」

「おうともよ。」

「やーめろ。お前らいい加減にしろや。その歳になっていつまで喧嘩しとるんだアホども。」

2人の間に入り止める男が現れた。良く見覚えのある男。

「ポリ公来んのおせーぞ。」

「こっちだって親父に直談判するの大変なんだよ。」

「んなもんただの言い訳だ。」

後ろの方で警察が後処理をしている間3人の男が言い合いをする。

「とにかく、お前ら今と同じこと今後した時

俺が相手じゃなかったら1発退学だからな?」

「チッ分かった。」

「しゃーねな。」

(凄いぞ息子さん。)

(1人であの怪物2人を止めてんだ。)

(あの2人は有名なヤンキー共だもんな。)

後ろの方で警察達がボソボソと言い出す。

「聞こえてんぞ。」

「「「ひっ!?」」」

怯えた警察官達は急いで作業に戻った。

不機嫌になりながらも男は話を戻し始める。

「後は頼んだ。俺はもう帰る。」

「俺も忙しいからな。ここでおサラバする。」

「ヤンキー2人がおサラバって笑笑」

「言ってねーわ」

「悪ぃかよ」

「はいはい。」

2人の去る背中を見つめながら警察側の男がいやもう姿を知っているだろう。警察署の上層部に務める親父を持つ息子の柳田 朝日。彼ら2人を2人の犯罪者に出会わせたのは彼の策略。

あえて因縁となる顔見知りが赴くことで留まらせることができる。そう予想した結果ドンピシャで起こったわけだ。

そして今眺めるように語り出す。

「本当に凄いことだ。あの『琥珀の翠眼』と『紅き瞳の吸血鬼』が並んで歩く光景が見られるとは…。」

感慨深いと思いつつも朝日は自身の残された仕事に取り掛かる。

夜はまだ明けぬ。

この秘密のやり取り、姿を主人公達が知るのはまだ先の話である。しかしそう遠くないうちに知ることになるだろう。

だがこの2人の秘密を話さない理由は何処に。

いや彼らの自由にしてあげるのもまた人生の岐路であろう。

琥珀すずき翠眼ひとや』と『くるみや吸血鬼 かなた』は笑う。

その翠の眼と紅い瞳が暗い路地で星のように輝きを魅せる。

彼らは明日からまた別の姿へと変貌する。

今の姿を静かに目に焼き付けるとしよう。

警察の者たち各々がそう考えるのだった。

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