第21話 語られた真実を受けて俺たちは

「で、どうするんです?」

沈黙の空気を崩すかのように早川さんが話を切り出す。

「先輩が教えてくれた内容は正直現実味のないことばかりですね…。ただ、そのノートやらを見てみなければ真偽を確かめようがない。」

「なんや?奏多は先輩を信用出来へんっちゅうわけか?」

「そういうことではない。僕は確信の無いものに命を預ける覚悟を持つべきなのかをみんなに聞いているんだ。」

胡桃夜くんの話も一八くんの話も理解できる。だけど…今は争う場じゃない。

「まぁまぁ、キミたち落ち着きなさいな。今はみんなでどうするかを考えるのが先でしょ?」

泡沫が間に入り、話題路線を戻した。

今話し合うことはまず、先輩の言うことが正しい場合、俺たちが今後狙われる可能性が高いわけだから身を守る方法を考える必要がある。また、邪神の存在についても気になる。

「なるべく今日はみんなで固まって帰ろうか。明日部室に行ってみんなでノートとか情報を集めよう。」

俺の意見にみんな賛成し、固まって帰ることになった。

それにしても…『裏切り者がいる』ことについて。果たしてそれは本当なのだろうか。もしそうなのだとしたら、邪神と契約したのだろうから警戒が必要だろう。

だけど、『星群』の情報を知られて邪神陣営に伝わったらそれこそ詰みなのでは無いか?

不安が募る中、俺たちは夜の街を歩き出した。

帰りの道中は何事もなくみんなの家にたどり着き、順に見送りする。

そして、泡沫の家に着いた時何やら後ろから禍々しい気配を感じて、ゾッとした。

泡沫は首を傾げて、俺を心配そうに見てきたためすぐさま俺は大丈夫だと伝える。

(今のは一体……。)

恐怖感を隠しつつ、泡沫の帰りを見送った。それから、震える足を引きずるようにして自分の家へと足を運んだ。正直あの話や先程の殺気を受けて恐怖と不安でいっぱいだが、いざとなれば空手で鍛えた護衛術でなんとかできるだろうと言い聞かせることで平穏をなんとか保つ。

果たして俺は本当に無事に帰れるのだろうか。

「へぶぁっ!?」

そんなことを考えながら歩いていると何か硬いものにぶつかった。おそらく壁のようなものだろう。段々と痛みが全身を駆け巡り、顔へと神経が集中する。俺は慌てて顔を抑えた。ぶつかった先を見ると、家の目の前の扉だった。どうやら考え事をしている間に家に着いていたようだ。やはり考え事しながら歩くのは良くないなと思いながらもドアノブを捻ろうと手にかけた。

(っ!?)

その瞬間、背筋から殺気の視線が刺さった。そして、それを確認する間もなく俺の体の自由が効かず、動くことができなくなる。金縛りとは違って顔は動かせるのだけが分かったのが幸いであるが、体はビクともしない。

冷や汗が流れ出す。それに合わせるかのように後ろから何者かの気配が近づいてくる。

『パチンッ』

指を鳴らす音共に俺の体は宙を舞った。

意味不明である。そして疑問が脳内を駆け巡る。なぜ、俺は宙を浮き続けているんだ?何故動けなかった?さっきの気配の正体は…この女?誰なんだこいつは。

「お前は…誰だ?」

なんとか振り絞って出た声がこれだ。それ程に今の状況は謎なのである。

彼女はそれを聞き急に笑い出した。

「なるほどな…。貴様が『追操女アルテミス』の言っていた男か。」

「追操女?」

いったいなんの話だをしているんだ。

「ふむ…その質問に答えてやろう。」

「っ!?」

心を読まれた!?

「心を読むなど簡単なことだ。それに追操女とお前の関係はとても深いぞ。まぁもっともお前のような鈍感野郎だと分からないんだろうがな。」

その追操女と俺は深い関係…。覚えがないっていうことはおそらく俺の過去に何かがあるというのか?

「フンっ。その通り、過去がヒントだな。さて、貴様を殺したいのだが、彼女が怒るからな。やつに任せて余は他のやつを殺るとしよう。」

「待て、お前の目的は何なんだ?そして…お前は何者なんだ!」

やっとまともな言葉出た。なんて凄まじい殺気なんだ…。震えて声を出すので手一杯だぞ。

「ふははははははっ。いいだろう。余は、『宵闇シリウス』。邪神に見染められし者なり。今宵を持って、余らと貴様ら『星群』との星戦を始める。精々余らを楽しませてくれよ。」

『パチンッ』

宵闇はそう言うと再び指を鳴らした。先ほどとは違い、周りの空気感が一気に変わる。

彼女の周りに禍々しく黒い霧が囲み、収束する。

「貴様ら『星群』の未来はない。いずれまた出会えるだろう。」

「お、おい。待て」

俺が言い終わる間もなく彼女は漆黒の闇に覆われ姿を消した。

それと同時に浮いていた俺の体が自由落下に従って地面に向かって急降下する。

「マジかよおい。ぐっ……。」

抗うことも出来ず、俺はそのまま落ちてゆく。もう無理だと言わんばかりに目を瞑る。

しかし…何も起きなかった。

ゆっくりと目を開けると俺は玄関の中に立ち尽くしていた。

おかしい…。俺はさっき宵闇と名乗った謎の女に拘束され、会話をした筈だ…。

夢、なのか?いやそんなはずは無い。この体が今もなお、思い出すかのように震えが治らない。

「これは…明日みんなに伝えないと。」

そう呟き、俺は自室に向かった。

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場面は変わり、目当ての人物と対面しその者と別れた彼女はある建物の屋上に腰を下ろしていた。

「彼が例の…。ククク…。あっはははははは。面白い。実に面白いな。」

彼女は目の前のキラキラした街の景色を眺めながら嗤いだす。

「まだまだ奴は成長途中。追操女が言うほどの人物。彼女と対面した時の奴の反応を是非みてみたいな。」

彼女は立ち上がり、手に持った本をめくる。

「『オリオン』ね…。今のままの貴様ではただの懺悔録オリオンでしか無いぞ。

だが、それはそれで余らにとっては利益でしか無いがな…。」

彼女は本を畳む。そして、屋上の床に右手を置き目を瞑る。

星晶流転せいしょうるてん。厄災ならぬ貫禄かんろく黙示もくしの下。月下に踊るは乖離かいり。封鎖されし理に断絶を。

籠絡錠覧ヘルメス』」

彼女が唱え終えると禍々しい黒い光と共に建物を覆った。そして、ピンク色の鎖が建物を縛りつける。

形はあるものの、透明なため普段は見えないのだろう。しかし、分かるものにはそれに気づいているのだろう。

「っ!?この感じはまさか…。嫌な予感がするよ。佐城君。」

光が収まった時、闇に覆われた彼女は空を見上げる。一面の星が雲に覆われており、月は隠れゆく。

それはまるで彼女の力を示すかのように。

「ふっははははははは。どうだ、『星群』よ。貴様らの最初の使命はこの封印されし部室を開放させることだな。わざわざ分かりやすくしているのだ。貴様らの力を見極めようでは無いか」

『パチンッ』

そう言うと彼女は再び指を鳴らす。その音と共に彼女の姿が一瞬にして消える。

その場に残るは彼女の香りと嗤い声のみだった。

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