第14話 アイスが溶けないように

「はぁ…。」

「なにため息ついてんのよ。」

俺たちは近くにあるスーパーへと向かって歩き出したんだが、全然近くにない。

もう既に30分も歩いてるぞ?

「そういえばさ、こないだ先輩の家に行った後佐城と先輩だけ残って何をしてたの?」

「ん?あぁ、まぁちょっと相談事を聞いただけだよ。」

「ふーん。それにしてはなんでよそよそしかったんだか。」

こいつ…。なかなか鋭いな。

「んー多分昨日の弱った姿を見られて恥ずかしくなったんじゃないか?」

「だとしたらなんでアンタまでよそよそしてたのよ。」

あーまぁ確かにそうなるよな…。

「まぁ色々あったんだよ。」

「な、その色々ってのを聞きたいんだけど!」

「………」

こういうのは無視が一番だ。

「ね、聞いてる?説明をしなさ…」

「お、スーパーに着いたぞ!!」

「はぁ…いつもそうやってまた…」

俺は泡沫の言葉を遮るようにして誤魔化した。なんか泡沫が言ったような気がしたけど気のせいだろう。

俺たちはスーパーに入った。外が暑かったせいか、スーパーの中は涼しくて心地が良かった。

「さて、頼まれたものを全部集めよう。」

「そうね。」

とりあえずBBQに必要なものを揃えろってことか。野菜もお肉も必要だな。

「おぉー!!」

ん?泡沫のやつ何を見てるんだ?

「ねえ、佐城!これ…買ってもいい?」

泡沫が指を指したのはアイスのパピコだ。期間限定のイチゴ味か。

「いいけど自腹で買えよ。」

「えぇー。本当ケチだなー。」

言いたきゃ言えばいいさ。俺は無視して飲み物のコーナーへ行く。

スポドリ系は必要だし、炭酸も飲みたそうだもんな。後は…。

「………。」

他に買い足そうとして周りを見渡すとまだアイスのところに泡沫はいた。

よく見ると彼女の顔は少し寂しそうだった。意味がわからない。だけど…。

「いつまでそこに居るんだ。行くぞ。」

「え、あ、うん。」

俺が声をかけるとハッと我に返ったかのような表情で慌てて歩き出す。

「………。」

俺は…本当にダメだな。

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頼まれた物は全て買えた。ここからまた30分の道のり。ただでさえ手荷物が多いのに…てか泡沫も手伝って欲しいんだが。

『私は力弱いから…お願いっ☆』

って言って逃げたようなもんだし…。

「はぁ…。」

「何ため息ついてんのよ!それでも男?」

「うわー男女差別だー。」

もう喧嘩越しになる気力もねえわ…。

「そんなつもりじゃな…いやごめんなさい。」

え…。あの泡沫がやけに素直だ。

「本当に私たちはすぐ喧嘩するよね…。」

「そうだな…」

泡沫を横目で見るが、さっきと同じような寂しい目をしてる。なんで…。

「覚えてる?私とアンタとの出会った頃のこと。」

「あぁ。勿論だ。」

あの時の俺たちはいつも仲が良かった。

色んなところに遊び回って、笑い合って。

「少しさ、休憩がてら昔話でもしようよ。」

泡沫は目の前の公園のベンチを指差した。

「了解。」

そう答えて俺たちは公園に入り、ベンチへ向かった。泡沫が先に行き、座る。荷物の多い俺は遅れて後ろをつく形で追いかけた。

「ん。」

彼女は俺を見ながら自分の隣が空いていると言わんばかりに叩く。

俺は素直に従い、腰を下ろす。

「ほら、暑いだろうからこれ食べろ。」

「これって…。」

そう、さっき泡沫が欲しがっていたパピコだ。

「え、どうして…」

「おい、人がせっかく買ってあげたのに感謝の言葉は一つもなしかよ。」

「っ。ほんっとアンタは一言余計なのよ。そんなんじゃ彼女なんて一生出来ないわ。」

お前の方が一言余計だろうが…。

「ん。」

「ん?」

彼女は俺に片方のパピコを差し出してきた。

「その…ありがとう。買ってくれたお礼にあげる。」

「お、おう。ありがとう。」

「ん。」

なんか久しぶりにこいつのありがとうを聞いた気がする。

「なんか懐かしいね。」

「何が?」

「こうやって私たちが2人っきりで話したり、笑い合うのが。」

あぁ…確かに。中学以来だもんな。

「だからかな…。私さ。今はこの時間を長く感じていたい。」

…。泡沫…いや。楓那…お前。

「さて、思い出話の続きをしようよ。」

「そう言えばそうだったね。」

俺たちは昔のようにお互いが笑い合いながら談笑した。

きっと、俺たちはお互いがお互いを求めていたのかもしれない。喧嘩する仲ではなく、昔のような仲良しな関係を。

先輩には感謝しないと。先輩のお節介がなければ俺たちはずっと喧嘩したまま壁を作り続ける関係だったんだろう。

「佐城…ぁ…。は、颯翔!」

「な、なんだ急に。」

「私…。」

その時、とても強い風が俺たちを吹き抜けた。風が強すぎて彼女が何を言ったのか聞き取れなかった。

「なんか言ったか?風が強すぎて聞こえなかった。」

「ぁ…。んーん。なんでもないよ。」

そう言って彼女は上を向いた。つられて俺も上を向く。

空はまだ暗くなっていないが夕日が見えてきている。

「佐城、そろそろ行かないと怒られちゃう!」

「そうだな!早く行こう。」

「じゃあ、走って先に着いた方が勝ち。」

いきなり意味か分からないことを言い出した。

「それ何の意味があるんだよ。」

「ん?BBQをどっちが焼く担当になるかの勝負だよ!もちろん負けた方が焼くんだよー」

は?…ちょいまてまてまて。

「俺お前と違って荷物のいっぱい持ってるんだ…」

「よーい!どん!」

「おい待てゴラァ!!!」

彼女の後を追いかけるかのようにして少しだけ走る。

荷物が重くてキツイけど、自然と笑みが溢れる。

きっとそれは泡沫も同じだろう。なんて言ったって俺たちは誰にも負けない、特別な関係だ。

そう、俺たちは幼馴染という固い絆で結ばれているからこそ互いを求めるのだ。

普通の幼馴染はこんなことないというかもしれないが、俺たちにとって幼馴染という関係はこのあり方なんだ。

俺があいつに渡したアイスは溶けていなかったけど、2人で食べたアイスは心を溶かした。

とても甘いイチゴのような赤い夕日に照らされながらみんなのところへ帰る。


そして俺たち2人は口を揃えてみんなに言った。



「ただいま。」

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