第10話 忘れたくない希望 side莉花
あれから何事もなく淡々と時が過ぎていった。気づけば先輩方が卒業する日になってしまった…。結局あの後、男子は全員警察に連れられ、私と先輩方3人だけが残った。
先輩方は3年生で2年生は男子たちなので必然的に私が次の部長になる。先輩方は受験ということもあり殆ど部室にいることができないため、私だけを残してしまうことに罪悪感を感じたのか何度も謝ってくる。仕方のないことなのに。
部活の謹慎処分として来年の春、入学式まで停止を余儀なく言い渡された。ほぼ絶望を覚えると同時に私は強くあろうと、そして責任感をと胸に言い聞かせた。
気づけば私は、先輩方の目の前でハサミを取り出した。何事かと先輩方は顔を青ざめ、わなわなと震えだす。
私は手に持ったハサミを自分の頭の後ろへと回し…そのまま髪を切る。あんなに長くきれいだった髪はみるみる短く、乱雑になりショートと呼ばれる長さになったところでやめる。
「私は、決めました。この天文学部を最高の部活にします。先輩たちがいつ遊びに来ても懐かしいと思えるような!」
先輩たちはあっけにとられていたが、すぐに笑顔になり私のそばに寄った。この時間はかけがえのない時間で絶対に忘れないだろう。
そして私は、男子を絶対に信用しない。
私が…ボクが、この居場所を守るんだ。
それからあっという間に時間がたち、入学式の日になった。懐かしい気分もありつつ、部活動紹介の準備を進めたのだが…。思ったよりも、女性の人気が高い。それに釣られるかのように性欲の塊しか脳のない男たちが見学とかにくる。おかしい。私はどこで間違えたのだろうか。
いろいろと説明して勧誘するが見た感じどうやら、私目当てであり、部活はどうでもいいらしい。それが分かると私の心はどんどん冷めていく。どうせこいつらを入れたところで、去年と同じことが起こる可能性が。
私はため息をつきなが片付けをし始める。今年はだめだと思った。諦めかけたその時廊下から声が聞こえた。
そして
「すいませーん。ここが天文学部ですか?」
「おい、泡沫。ノックしてから入りなさいな」
部室のドアが開く音がして私は声の主を見た。そこには男女二人が立っていた。一人は茶髪のボブぐらいの整った髪の女の子。そして男子の方は一見パッとしないけど整った目とあの横顔は…あの背中は…ボクが…私が憧れた優しくて逞しい背中だ。
間違えるはずもない。彼は私を助けてくれた人と同じだ。
自然と視界がぼやけてくるし、熱い何かを感じる。だけど、覚えてるとは限らない。だから…この気持ちは、涙は私だけのもの。今ここに2人は見学かなんかに来たわけだから、勧誘しなければ。
ボクだけが部長で部員なのだからしっかひし
ないと。
目元を手で拭き、仕切り直す。
「やぁ、キミたちは見学に来たのかな?」
「はい!私は莉花先輩に会いに…いや天文部に興味があって」
ん?今ボク目的でって言わなかった?
「おい、なんで先輩目的になるんだよ。そこはちゃんと天文部に興味があるって素直に言えよ。」
「どっちも興味あるのよ!!いいじゃない!」
なんか…面白そうな子達。でもせめて彼はボク目的って言ってもいいじゃないか…。悲しい。
「まぁまぁとにかく見学というか体験してもらおうかな。今日は流星群が見える日なんだ。おとめ座流星群がね」
「「!?み、みたいです!」」
「じゃあこれから準備をしながら学校の屋上へ向かおうか。」
懐かしいな。ボクが勧誘された時もこんな感じだった。偶然なのか、今日は先輩達2人に出会った日と同じ日でおとめ座流星群がまた見れるのだ。今度はボクがあの景色を魅せる番。
時間はあっという間に経ち、屋上でボクらは立っている。空はもう暗く、星が瞬く。
そして、数分後に流星群が訪れた。
沢山の流星が夜空を駆け抜けていく。
「「綺麗だ」」
2人は流星群に釘付けで、目を輝かせる。私はその表情をみて満足した。
やっぱり星はいつ見ても綺麗だ。この世界を照らす希望。
『星が降る夜に願いを』
私はそっと目を閉じ、心に語りかけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます