僕と俺
月星 ゆう
読み切り
ある日、僕は気付いてしまった。
そこにある黒い物体が形を変え、動いていることに。
「君は誰だ?」
僕の問い掛けにソイツは答える。
(俺はお前だよ)
僕?
コイツは何を言っているんだ?
そう思うのは当然だ。
僕は僕なんだから。
「どうしてそんな嘘を吐くんだい?」
(嘘なんかじゃない。俺はお前で、お前は俺だ)
そんな嘘を平然と吐く。
僕は何も言わず、頭のおかしいコイツを無視することにした。
でも、話しかけたその日から何度も何度も話しかけてくるようになった。
(弁当は持ったか?)
(あの子の事、好きなんだろ?)
(お前、勉強できねぇんだな)
うるさいと感じつつも、僕は何も言わず無視し続けた。
(なんで無視するんだよ)
とうとう無視されることに痺れを切らしたのか
そう聞いてくるようになる。
それでも無視し続けると、諦めたのか
何も話してこなくなった。
僕は、ほっとした。
うるさい奴が静かになっていつも通りの世界に戻ったんだから。
そんなある日、僕はイジメを受けるようになった。
何がキッカケかなんてわからない。
友達からは無視されて、
靴を隠されたり、椅子に画びょうが置いてあったり、
教科書が破り去られていたり……
先生に言っても、親に言っても何も変わらなかった。
そして、僕はとうとう部屋から出られなくなる。
何日も何週間も何か月も憂鬱な気持ちに悩まされた。
静かな部屋で今日も一人、いつも一人
そしてふと思い出す。
僕に付き纏う、黒い物体のことを。
「ねぇ?まだそこにいる?」
力ない僕の問い掛けに、力ない返事が返って来る。
(……いないよ)
何でコイツまで元気がないんだろう、と考えないわけではなかった。
でも今は、久しぶりに話すことが嬉しかった。
「いるじゃないか。相変わらず君は噓吐きだな」
嘘吐きでもいいから、僕は誰かを求めていた。
1人じゃないと思いたかった。
(……本当にいないんだよ)
力のない声がだんだんと小さくなる。
「……?」
僕はコイツの言っていることが分からなかった。
次第に身体が軽くなっていく。
誰かと話して気持ちが軽くなったのかもしれない。
僕はそのまま深い眠りに落ちていった。
意識を失う前にアイツの声が聞こえた。
(お前がいなくなったら俺も……)
僕と俺 月星 ゆう @hoshino-yuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます