第6話 人間界に行きたいんです
サモンはスライムを倒した後、エルフと別れようとしたが、お腹を減らしたエルフをそのままに野放しにするのも気が引けたのか、村まで連れて行く事にした。
「すみません、二、三日なにも食べて無くて…」
「別にいいけど、それよりお前なにしにここのエリア、第一層に来てんだ?エルフなら、三層くらいにいるはずだけど」
魔界でのエルフの地位はそこそこ高い。魔法も使えて知識も豊富。
弱小の多い第一層にいる事自体が珍しいとサモンは思っていた。
「ボクは、その、一応表の世界、まあ、人間界に行ってみたくてですね。それでその…」
「魔王を目指していたと」
「はい…」
「それで、第一層に来た理由は、弱いお前は、ここでレベル上げでもしようと?」
「違います」
エルフはブンブンと首を横に振った。
「まずは、仲間が欲しくて…」
「仲間ねぇ…」
「はい、ボクは別に魔王になりたいわけではないんです。ただ、人間界に行ってみたい。それだけなんです」
「へえ」
「ですが、ボクは、戦闘など出来ずにいます。だから、誰かの仲間に入れて貰おうとここまでやってきたんですが…」
そこから先は、言わなくてもなんとなくサモンはわかった。
エルフは戦えない。
だから、誰かの仲間に入り、その仲間と共に魔王を目指したいが、戦えないエルフなど誰もパーティに入れたくない。
そう言われ続けたエルフはこのエリアなら、誰か仲間に入れてくれるかも知れない。
そう思いこの弱小の多い第一層にやってきたわけだ。
「でも、ここでもやはり、ダメでした…エルフとして、最初はちやほやされるのですが、戦えないと分かった瞬間、追い出されるしまつです」
「まあ、そうだろうな。てか、別にさ魔王を目指さなくても、魔王になるであろう奴に、服従すれば、人間界で召喚して貰えるんじゃねえの」
「服従って…忠誠を誓うって言った方が良いですよ」
エルフは続けて話す。
「確かにそう考える人はいます。でもそれはある意味ギャンブルにもなるんです。忠誠を誓った相手が途中で死亡したり、魔王になれなかった場合は人間界に行く事は出来ません。それに、人間界に召喚されたとしても自由に移動する事は出来ません。限られたエリアにいる事しか出来ずに終わります。もちろんそのエリアで遭遇した旅人に殺されてしまえば、魔界に戻ってしまうわけですし…」
「なるほどね。お前みたいに自由に人間界を歩き回りたいとか考えてる奴にとっては、服従を選ぶんじゃなくて、魔王の仲間として行くしかないって事か」
「忠誠…まあいいや。簡単に言えばそういう事になります。魔王の仲間として行けば、人間界に行けば自由に行動出来ます」
それは魔王次第ではと、疑問に思うサモンだが、それ以上は何も言わない事にした。
村に着き、長に事の説明をした後、サモンはエルフを自宅に招き入れ、干し肉をエルフに差し出した。
「悪いな、こんな物しかなくて、俺は料理も出来ないから、こう言った物しか出せない」
「いえいえ、これだけでもありがたいです。うわ~美味しそう。頂きまーす!!」
口を大きく開け、干し肉を頬張るエルフを見ながら、サモンは白のローブを着たエルフが被っているフードを外さない事が気になった。
「なあ、そのフード外さないのか?」
「えっ?ああそういえば、外すの忘れてました。よいしょっと」
エルフはフードを外すと、ショートカットで銀色に輝く髪にエルフの特徴と言えば真っ先に思いつく尖り耳が露わになり、男性とも女性ともとれる中性的な顔がはっきりと見えた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。ボクは、エレノア。見た目通りエルフ種族の物です」
「俺はサモン。種族はさっきも言ったと思うけど、召喚一族だ」
「サモンさんですね。よろしくお願いします」
手に取っていた干し肉をいったん皿に置き、ぺこりとお辞儀をした後、エレノアは再び干し肉にかぶり付いた。
よほどお腹が減っていたのだろう。サモンは干し肉を美味しそうに食べるエレノアを見てそう思った。
「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
干し肉を食べ終わり笑顔でお礼をするエレノアだが、まだ足りないのか、ぐううとお腹を鳴らす音が部屋中に響いた。
「あっ…」
「割とでかい干し肉をあげたつもりだったけどな…やれやれ。まだ、あるけど食うか?」
「えっ!?いいんですか」
目を輝かせ、サモンを見つめるエレノアに、やれやれと呆れながらもサモンはエレノアに干し肉をもう一つ渡すとエレノアは笑顔でかぶり付いた。
「それにしても、召喚一族は、人型ですよね。人型が第一層にいるなんて珍しいですね」
「珍しいのか?俺はあまり他の種族と関わらないからよく分からないんだけど」
「はい。第一層だとほとんどは、人型では無く、魔物の形をした状態です。さっきのスライムだったり、ゴブリンだったり」
サモンはふと思い返してみると、戦いはせずとも、すれ違っていく魔物達は確かに人の形をしている物はいない事を思い出した。
「生まれ持った魔力が高い種族が人型になります。もしかしてサモンさんはとてもお強いのでは?」
「俺が強いかどうかはわからん。召喚一族はあまり戦闘をしないからな」
エレノアはサモンを興味津々で眺めているが、サモンはそんなエレノアが何を考えているのかなんとなく分かってしまう。
彼もしくは彼女は、きっとサモンとパーティを組もうとしているのだろうと。
「サモンさん。ボクと…」
「悪いけど、俺はこの村でのんびり暮らす」
「ええ…まだ何も言ってないじゃないですか」
「ほぼ言ってたようなもんだろ」
「うーん…」
「そもそもお前なんで、人間界に行きたいんだ?」
「よくぞ聞いてくれました」
エレノアは立ち上がり、話し始めた。
「人間界は景色は素晴らしいんです。まずは、魔界には無い、青い空」
魔界の空は紅い。
夜は無く。一日中紅い空が続いている。
「どこまでも続く海。大きな山に、見た事も無い小さな昆虫。綺麗な花。空気が美味しい。働く人々。僕はそれを見てみたいんです」
昆虫や、働く人にはまるで興味は無いが、風景画を描くのが好きなサモンは少しだけ興味を持った。
「青空か…ちょっと見てみたいかも」
「でしょ?見てみたいですよね!!」
「まあな。でも魔王になってまで行きたいとは…てか、お前なんでそんな事知ってんだ?」
人間界に行った事のないエレノアはなぜ知っているのだろうか?こいつもしかして、適当な事言ってんじゃねえのとサモンは思った。
「実はボクの同胞が人間界に行った事があるんです。その人が教えてくれました。その人はもう亡くなってしまいましたが、人間界には僕の同胞がいる事も教えてくれて、ボクはその同胞にも会ってみたいなって…人間界にあるカメラという機械で、撮った写真もあるんです」
エレノアは『これです』といってローブの中から一枚の古びた写真をサモンに見せてきた。
白黒で分かりづらいが、写っている風景は、広大な海だとサモンは分かった。
「へえ、良い写真だな…これが人間界か」
サモンは自分の心になにか引っかかる物を感じたが、そっとしまい込みエレノアに写真を返すと、エレノアは椅子に座り、サモンを見た。
エレノアの目はキラキラと輝いている。
こいつは本当に人間界に行きたいんだな…
「さっきも言ったけど良い写真だ。俺も人間界には興味は出てきた。そこにいって風景画でもゆっくり描きたいともな」
「じゃあ、是非!!」
「だけどな。魔王は目指せない。俺はこの村にいないと。…悪いな」
「そうですか…」
肩を落とし残念そうな表情をするエレノアを見てサモンは心苦しくなった。
「それに、俺と組んでも魔王になれる保証はない。俺は戦闘は出来るが、致命的な弱点がある。お前と組んでもお前を死なせる事もあるかもしれないし」
「弱点ですか?」
「ああ。召喚一族全員に当てはまる弱点なんだ。正直過去に魔王を目指して旅に出た奴はいた。でもそいつは弱点を補えず、旅の途中で殺された」
召喚一族の弱点。
それを補える何かが無いと、一族は弱いと最後に付け加えた。
エルフは賢い種族。
もちろんそれはエレノアも該当する。エレノアはサモンをこれ以上誘う事は厳しいと判断し、これ以上何も言わなかった。
「サモンさん、お肉ありがとうございました。とっても美味しかったです。僕はこれで失礼しますね」
「ああ、悪いな。お前の誘いに乗ってやれなくて」
「いえいえ。ボクは新たに仲間を探して旅に出ます。戦えないエルフを必要としてくれる人がいれば…」
サモンは干し肉を何個か、エレノアに渡し、お辞儀をした後、エレノア村から去って行った。
「戦えないエルフか…あいつ無事に仲間が出来るといいな」
サモンは自宅に戻り、一枚の人物画を眺めていた。
かつて、この村から出て、魔王を目指した男の絵だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます