第4話 歓喜

魔女を名乗るミユルに会う為、ギルドの街

ギルドニアを出て、三ヶ月が経った。

未だにミユルがいるとされる、魔の祠にはたどり着いてはいない、ゴンドラであった。

海を渡り、新たな大陸に降り立ったゴンドラであるが、船旅により、全てのお金を使い切り、スッカラカンになったゴンドラは、道中にあった街で仕事をこなし、なんとか旅をしている。

仕事をこなしていたおかげもあり、レベルは上がり、スタートした時より大分マシにはなっていた。


「しかしまぁ、あのでかい山を二つも超えなきゃいけないのか…ミユルって奴は、ずっとあそこにいるのかな?それとも死んでるのか…出来れば会いたい。会って仲間になって貰いたい。未来の勇者には、ぶっ飛んだ魔法使いが必要なんだ。生きててくれよ」


ゴンドラは、最初の山に入る。

登山道を歩いて行く、傾斜のきつい道を歩いて行くと、次第に霧が濃くなって来た。

山の天気は変わりやすい。登る前は雲一つ無い晴天だったが、どうやら今は雲の中に入っているみたいだ。

そう思っていたゴンドラだが、異常に体力が減っている事に気が付いたのは、登山を始めて二時間後の事だった。


「山登りってこんなにきつかったか?」


登っても登っても、一向に霧が晴れる気配が無い。


ガサ。


前方には、人はいなかったはずだ。それ以前にこの山を登る物は、ここ数日いなかったと近くの街の住人から情報を得ていた。

となると考えられるのは、魔物。

ゴンドラは、仕事で得た報酬で新しく買った、ナイフを腰から引き抜いた。


「誰かいやがるな。隠れんなよ出てこいや」

「物音がなってから、気が付くなんてな。お前弱いだろ」


全身毛だらけで、鋭い牙に、鋭い爪が印象深い、オオカミ男が目の前に立っている。


「最初から気が付いてたけど?」

「なに?じゃあ、この霧も俺だという事も気が付いていたのか?」

「えっ、そうなの…自然現象じゃなかったんだ」


もちろん、ゴンドラはオオカミ男の存在にも気が付いてはいない。


「ええい、人間め、食い殺してやるわ!!」


オオカミ男は、大きな口を開け、ゴンドラに飛びかかっていく。


「ガア!!」


バクンと、大きな口を閉じるが、

ゴンドラは、ギリギリでかわし、

ナイフをオオカミ男の喉元に串刺しにし、ナイフの刺さったオオカミは、喉を押さえ、のたうち回る。


「噛み付かれたら、そのまま腕食い千切られるだろうけどよ、残念だったな、動きが手に取るようにわかるぜ!!お前より、あの谷にいた、ゴブリンの方が、まだ強いかもな!!」


「ガアア!!クソが、人間があああ」


喉に刺さったナイフを引き抜き、地面に投げ捨てると、オオカミは、前傾姿勢になり、円を描くように、ゆっくりと歩き始める。

ゆっくりと歩き、徐々にゴンドラとの間合いを詰めていく。


強めの風が吹き、落ち葉が、舞うと同時に、オオカミ男は、駆け出した。

四足歩行で、その足に光を纏い、一気に近づいてくる。


「あの光…あの時の魔物女と、同じ光だ…って事は」


ーーやばいな。


ゴンドラは、投げ捨てられた、ナイフを拾う為、駆け出す。

オオカミはそれを追う形だ。

しかし、ゴンドラより、オオカミ男の方が速く、徐々にその差を埋めていく。


「追いつき、お前の足を食い千切る。そんで、倒れたお前をそのまま喰い殺してやる」

「くそ、なんなんだよあの光…バフ効果かなにかか?兎に角、追いつかれたら、殺される」


ゴンドラは必死に走るが、オオカミ男はの牙は、もうすぐ側にあった。


「いいねぇ、逃げる人間を喰い殺せるこの瞬間が俺は大好きだ。最高だぜ」


オオカミ男は口を開け、ゴンドラの足に思い切り、噛み付いた。


はずだった…


オオカミ男の口はただ、ガキンと歯と歯がぶつかる音だけが鳴り、ゴンドラの足を噛み付く事は出来なかった。


オオカミ男は、周囲を見渡すが、ゴンドラの姿はどこにも見当たらない。ゴンドラは姿を消したのだ。


「どこだ、どこに行きやがった、出てきやがれ!!」


オオカミ男の声だけが響く。


ステルスキラー。


ゴンドラは、オオカミ男に噛み付かれる瞬間、自身の唯一の特技、を発動した。

ステルスキラー中のゴンドラは、姿を消す事が出来、相手に一撃を入れない限り、その姿を現す事の無い暗殺用の技である。


オオカミ男が吠えている、その横で、ナイフを持ったゴンドラは立っている。


「あの女は、気配で俺の位置がハッキリとわかるって言ってたけど、こいつは全然気が付いてないな…」


オオカミ男はゴンドラの存在には全く気が付いていない。つまりこの瞬間、ゴンドラの勝利は確定した。


「くそ、どこだ、どこだ…はやくしなければ……ぐっ」


突如オオカミ男は、その場に、座り込む。

輝いていた足の光も徐々に小さくなり、そして消えていく。


「はあ、はあ…クソが、力が入らん…」


ゴブリンにも似たような現象があった事をゴンドラは、思いだし、オオカミ男が今は弱っていると判断したゴンドラは、ナイフをオオカミ男の心臓に突き刺した。


ーー。


オオカミ男に勝利し、二つの山を越え、目的地である、魔の祠にたどり着いたゴンドラは、ここに、魔女を名乗るミユルと言う女性がいる事を願い、古くなった扉に手を掛ける。

ギシシと軋む音を鳴らせながら、ゆっくりと扉を開ける。

中は、たくさんのロウソクが並んでおり、ゆらゆらとロウソクの火が辺りを照らしている。

ゴンドラは奥へ進んでいく。

しばらく進んでいくと、大きな魔方陣の描かれた壁があり、そこがこの祠の最終地点らしく、これ以上道は無かった。


「魔女…いないか?」


ゴンドラはミユルの姿を一目見たかったが。どうやらすでにいないらしい。さらに辺りを探索すると、ミユルのギルドカードが地面に落ちている事に気が付いた。


「落としたのかな…?一応拾っておくか」


ミユルのギルドカードを拾い、さて、帰ろうかと振り返ると、開かれていない宝箱を発見する。

ゴンドラは、その宝箱を開けると、目映い光を放った後、奇妙な形をした、錆びたナイフが入っていた。


「錆びてるし、グニャグニャしてる、使えんのか?」


ゴンドラはナイフを手に持つと、ナイフは光だし、グニャグニャしていたナイフが真っ直ぐに伸び、錆びていたナイフが輝きを取り戻す。


「な、なんだ…これ…つーか、どんどん体力が無くなっていく」


掴んでいるのも辛くなるくらいに疲労が溜まったゴンドラは、ナイフから手を離すと、ナイフは元の錆びてグニャグニャの形に戻った。


ゴンドラは、この不思議なナイフが入っていた宝箱の中に、ナイフが収まりそうな鞘を発見し、ナイフを仕舞い、腰に装着した。

実践で使えるかわからないナイフだが、ゴンドラは持って行く事に決め、誰もいない魔の祠を出た。


来た道を戻り、山の近くにあった街に到着すると、街中の人々が歓喜の雄叫びを上げている。

街はすぐに宴の準備をする為に、飯に酒にと準備を始めた。

これから祭りでも始めるのかと、ゴンドラは近くにいた若い男性に話し掛けた。


「なあ、こんなに賑わってどうしたんだ?」

「ん?なんだ、知らないのか!!勇者だよ、勇者!!勇者ホープが遂に魔王を倒したんだとよ!!」

「はっ?魔王を倒した…?」

「そうだよ!!さ、こうしちゃいらんねえ!!世界中で勇者様を祝うパーティが始まるぞ!!」


街に着いたゴンドラの耳に入った朗報。

勇者ホープ一行の魔王討伐の知らせ。これにより、世界がまた、平和になるという事だった。

魔王討伐をして、勇者になろうとした男の夢が終わる出来事だった…


ゴンドラは、敗北者の谷で出会った女の事を思い出した。

あの女は魔王直属の部下である。

あの女も勇者によって倒されてしまったのだろうかと。


この日、世界は再び平和になった。

人々は喜び、一日中、騒いでいた。


ゴンドラの旅は終わった…

訳では無い…

ゴンドラの冒険はここからが本番だった…

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