第3話 冒険者が集う街

見知らぬ街で目覚めたゴンドラは、まずは

この街の事を調べる為に、酒場に向かっていた。


ここはあの魔物が言っていた『君のレベルに似合う場所』なのだろうか?

だとしたら、自分の故郷近くの街かなと?

自分の実力を過大評価しているゴンドラは目的の酒場に着いていた。


酒場に入ると、バニーガールの格好をした女性店員が、お酒を持ちながら忙しそうにお客へと運んでいる。

店内は、昼間だというのに酒を飲みながら

ワイワイと騒がしく、一人でいるゴンドラは若干その場で浮いていた。

とりあえず、空いているカウンターの席に座り、辺りを見ると、冒険者であろう人達で

溢れている。

自分の武器を磨く者、魔物を討伐した話を自慢する者、次の目的地の話をしている者等、様々なパーティで溢れている。

それを羨ましそうに眺めていたゴンドラは仲間が欲しいと思いつつも、カウンターの内側にいるマスターに話し掛けた。


「なあ、ここはどこなんだ?」

「見りゃ、わかんだろ。酒場だよ。酒を飲むところ」

「いや、そうじゃなくて。この街はどう言う所なんだって聞いてんの」


マスターはコップを拭いている手を止め、ゴンドラを睨む。


「この街は冒険者が集まる街、ギルドニアだ。名前の通り、冒険者がよく来る街で、この街にあるギルドで登録しておくと、他の街に行った時にも色々と仕事が出来るし、仲間も出来る」

「ギルドか、登録しておこっかな。どこ行けばいい?」

「ここを出て、街の中心に向かうといいさ。大きな噴水と銅像があるからすぐにわかるさ。そこ行けばもっと教えてくれるだろうよ」

「サンキュー」

「所で注文は?」


ゴンドラは料理を頼み、明らかにレトルト食品ぽいカレーライスを食べて酒場を出た。


ゴンドラは、レンガで建てられた、街並みを歩きながら街の中心を目指す。


「大きな噴水に、銅像、銅像っと」


酒場を出てしばらく歩いた後、大きな噴水が見えてくる。

噴水は、三段になっていて、噴水ベースには瓶を持った女性の像があり、そこから水が出ていた。

噴水の周りには、たくさんの人がいて、

恋人、老夫婦など、お金を投げ入れ、祈っている。


それよりもゴンドラは綺麗な噴水より、その反対側にある、銅像に目が言った。

銅像は、剣を持った男を中心に、武闘家、魔法使い、戦士、僧侶の五人パーティの像だった。


「流石ギルドの街なだけあって、こういった銅像が建てられてるんだな。理想のパーティを組、この像見たいに冒険に出ろってか。でもこの像、随分と新しい気がするな」

「そりゃあその像は、最近出来たばかりだからね」


顎に手を当てて考えていると後ろから、老婆が話し掛けてきた。


「最近出来たばかりの像って、この街の象徴の像じゃないの?」

「違う違う。いや、ある意味そうかねぇ。いずれその像が街の象徴になるかも知れないね」

「どういうこと?」

「その像はね、勇者様ご一行なんだだよ」

「勇者様ご一行…?」

「二年前にねぇ、この街は魔物に襲われてね、そりゃあもう、ギルドの人達が頑張ってくれてはいたんだけどね、どうしても一体、倒せない魔物がいてね。その魔物が次々と、ギルドの人達を殺していって、誰も敵わない、ギルドの人は自分の命惜しさに逃げる者までいたさ。私は思ったね、ああ、この街はこの魔物によって滅亡するのだと…しかし、そこで現れたのが、そこにいる銅像の方達。【勇者ホープ】様だよ。ホープ様は目の前にいる巨大な魔物を一撃で倒し、無事この街を守って下さったんじゃ……」


老婆から話を聞き、得た情報。


この世界にはすでに勇者が存在している……

勇者を名乗る男ホープ。正確には名乗っているわけでは無いが、この街の住民はホープを勇者として称えている。本来勇者とは、自ら名乗るのでは無い。勇敢な者が数々の偉業をなし、気が付けば【勇者】と呼ばれている物だ。


何も成していない癖に勇者を名乗るゴンドラは、故郷の街で相当痛い奴だった。


「まあ、この街で勇者だったからって、魔王に勝てなければタダの剣士一行様だ。最終的に俺が魔王を倒せばいいわけだ」


気を取り直して、噴水の近くにあった、大きな屋敷。看板には

【ギルド協会】と描かれていたその屋敷に

ゴンドラは入る事にした。


ガチャ。


扉を開けると、カウンターに大勢の人が並んでいる。

みんな、ギルド登録をしに来た人だろう。戦士に、武闘家。魔法使いに聞いた事の無い職業の人までいる。


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」


愛想良くゴンドラに話し掛けてきたのは、この協会の人だ。

スーツ姿の美人の女性にゴンドラは、少し緊張してしまう。


「えっと、ここって…」

「あっ。ギルド童貞の方ですね。ではさっそく説明いたしますね」


言い方に若干の悪意を感じたが黙って聞く事にした。


「ここは、ギルド協会。ここで登録を行えば、世界中どこへ行っても、ギルドの人間として、優先して仕事を貰う事が出来ます。登録してない人も、もちろん仕事を貰う事は出来ますが、登録もしていない人は死んでもギルド保険には入っていない為、死体回収の神父様は派遣されません。あっ、ちなみにギルド登録すれば、ギルド保険にも加入出来ますし、死体回収の神父様も派遣されるし、蘇生後の値段も三割引されます。便利ですよね」


笑顔で淡々と説明を行うギルド娘。


「では、次に、ギルドタイプを紹介いたします。ギルドでは、三種類のタイプがございます。

一つ目が、自由に旅が出来、自分の好きなタイミングで、仕事を受けられる、フリーランスタイプ。今の時代一番人気のタイプです。ただ、収入は安定しませんね。

二つ目は、一つの街に留まり、その街で決まった時間に出社し、自分の適性にあった仕事を決まった時間まで行い退勤する。上司、部下などがいる、正社員(社畜)タイプ。こちらは、冒険者だった人が結婚し家庭を持ち、冒険など出来なくなった人に人気の安定型のタイプです。収入も安定します。

そして三つ目。どこでも適当に派遣され、そこで仕事をし、期間が過ぎればまた、違う所の飛ばされる派遣社員タイプ。こちらは、働けている場合は収入も安定はしますが、使えないと派遣先のギルドに判断されるとあっさり切られます。お客様はどのタイプをご希望ですか?」


なにこのギルドって…


ゴンドラは心の中そう思ったが、その三つから、選ぶしか無い。

ゴンドラは、考える事はせずに、自分の今の気持ちをそのまま伝えた。


「どれもめんどくさいシステムだけど、そうだな、フリーランスタイプがいいかな」

「わかりました。それでは、あちらにある、一番と書かれた看板の列にお並びなり、お待ちください」


ゴンドラは一番の看板に目をやると、一番人気なだけあって、結構な列が出来ている事がわかった。

人気の無い、三番の列は、派遣社員タイプだろうと判断する。


「あ、お待ちください」


一番列に並ぼうとするゴンドラに、先ほどの娘が再び話し掛けてきた。


「お客様、ご自身のレベル、職業は理解されていますでしょうか?」

「レベルに、職業…?」


そういえばと、ゴンドラは自身の現在のレベル、そして職業を知らない。ゴンドラ自身は勇者と名乗るだろうが。


「一番列に並ぶ前にご自身の適正を調べる事が出来ますので、そちらを先に行く事をおすすめします。自分は戦士だと思っていたら、実は魔法使いの素質があった。またはその両方を持ち、魔法剣士になったなどもありますので、ぜひ」

「わかった。行ってみる」


ゴンドラこの適正診査を喜んで受ける事にした。

主人公によくある、診査をしたら周りが驚き、他の誰も持っていない、能力を持っているやら、勇者だ、真の勇者だと。そんな事が起きるはずだと。


「レベル10。適正職業、アサシンね」


適正診査結果はこうだった。

現実は厳しかった。


「勇者って…どうやってなるんだろ」


ゴンドラは、泣きそうになりながらも、一番列に並んだ。


「はい、これがギルドカードね。これを各街で見せれば、仕事は貰えるよ。ただ、今の君は、知名度は無いし、その街にいる、正社員タイプや、派遣社員タイプには厄介者扱いされるね。フリーランスタイプは自由だが、その分仕事を貰うのは大変さ。地道に活動して、知名度を上げ、その街のギルドの人間とコミュニケーション取るなどして、頑張ってね」


ギルドカードには、名前、職業、レベル、魔物討伐回数、等書かれている、どれか一つでも、更新されれば、自動で書き込まれる仕様となっている。小さなタブレットみたいな物だ。

ギルド協会を出ようと、扉に手を掛けた途端、最初の娘が再び話し掛けてきた。


「あの、あなた、お仲間はいないようですね」

「いないよ。寂しい奴だろ」

「一応、こちらで仲間を見つける事も出来ますけど…」

「仲間か…」


ゴンドラは、素直に仲間が欲しかった。


「こちらの電光掲示板にご自身を登録すれば、あなたを仲間に加えたい人が現れ、連絡が行くかも知れません。連絡はギルドカードに行きますので、イエスかノーで答えてください。イエスなら、直ぐさまワープし、相手と会い、交渉が始まり、上手くいけば仲間になります。もちろん自分から、コンタクトを取る事も出来ますよ」

「ほおー。どれどれぇ」


ゴンドラは掲示板を食い入るようにのぞき込んだ。そこにはたくさんの人の名前が書いてある。

レベル、職業、その他と。

ゴンドラが仲間にしたいのは、魔法使い。

魔法使いを仲間にすれば、敗北者の谷にいた魔物の女性が言っていた、人間と、魔物の力の事を少しは知る事が出来るかも知れない。

だから、魔法使いが欲しかった。

魔法使いはこの世界では、神父様と同じくらい貴重な存在だ。


「条件検索でさ、魔王討伐とかってある?」

「魔王ですか…少々お待ちください」


カタカタとキーボードを操作し、検索するが、該当者ゼロ。

魔王を倒すと思っている人は誰もいないようだ。

勇者ホープの存在が大きいらしく、魔王討伐はホープに任せようと思っている。

それだけ、勇者ホープの知名度は大きかった。


「魔王倒して、真の勇者になりたい奴はいないんだな」

「そうですね。みな自分の命の方が大切です。勇者ホープ様が現れた今、自ら、魔王に挑もうなんて人はあなたくらいです。どうしますか?他の検索方法をおすすめしますが」

「そうだな……」


ゴンドラは、考える。半端な魔法使いでは無く、強い魔法使いに会う為にはどうすればいいのか。


「だ、大魔法使い…天才…とか」

「はぁ、天才の大魔法使いですか…この世界に大魔法使いなど言う職業はありませんけど、賢者とかでいいですか?」

「いや、大魔法使いで頼む。そういった無い職業を名乗るほどのバカがいたら会ってみたい」

「……わかりました」


カタカタとキーボードを操作する。


検索結果。該当者一名。


名前 ミユル

性別 女

職業 魔法使い(登録時)

レベル 不明

魔物討伐数 二体


ゴンドラは、レベル不明のこの女の欄の最後に書いてある一言に興味を持った。


【私は、魔法使いの更に上に行く者です。魔法使いでも、大魔法使いでもありません。私は魔女を名乗る者です】


魔女。ゴンドラはこの文字にこの女はただ者じゃ無いと判断した。


「会ってみたい。なあ、この人にコンタクトしたいんだけど」

「わかりました。では、あなたのギルドカードでミユルさんのIDを入力し、コンタクトを押してみてください」


ゴンドラは、言われたとおりに、ミユルのIDを入力し、コンタクトをしてみた。


コール画面が出るだけで、一向に画面が変わる気がしない。


「出ないな…」

「気が付いてないかカードを紛失、もしくは、すでに亡くなっている。になりますかね」

「ギルドの保険で神父派遣される時、どうやってこいつの居場所を知る事が出来る」

「ギルドカードには、GPS機能が搭載されていますので、それを調べれば…」

「調べて貰える?俺が行って来るよ」

「わ、わかりました」


キーボードを操作し、ミユルの居場所を調べる。


「居場所。わかりました…ここからかなり遠い位置います。海を渡り、山を二つ越えた先にある。魔の祠にいます。ミユルさんは一年程前からそこを動いていません…これは、すでに…」


亡くなっている可能性が高い。しかも一年も前なら、死体を見つけても、魂は浄化されている為、生き返る事は不可能だろうと。

娘はそう言うが、ゴンドラは、向かう事にした。

例え死んでいたとしても、死体がそのままは可哀想だと思ったからだ。


ゴンドラは、街を出て、海を越える事にした。

魔女ミユルに会う為に。

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