第2話 敗北者の谷
自称勇者ゴンドラは、
武器屋の親父に教えられた、
敗北者の谷に行く為に一度自宅へ帰り、準備をしてから向かう事にした。
自宅にある、手入れをしていた、ナイフ(斬鉄剣)を腰に装着し、なんか勇者っぽいから残しておいた、赤い色をしたマントを装備して、街の外に出た。
「東に四キロにある谷か…」
武器屋の親父にタダで貰った、地図を片手に持ちながら敗北者の谷を目指す。
強敵だらけの道を、なんとかくぐり抜け、ゴンドラは目的の場所にたどり着く事が出来た。
敗北者の谷。
濃い霧が立ち込め、数メートル先が見えない中、ゆっくりと歩いてく。
「ここなら、俺でもなんとかなるかも知れないか」
濃い霧の中、若干の不安を感じながら進んで行くと突然ガサッと、物音が鳴り、巨大なこん棒を片手に持った、ゴブリンが現れた。
「人間…コロス」
ゴンドラを見るなり、飛びついた来たゴブリンは、こん棒を振りかぶってくる。
ゴンドラは、横っ飛びをした後、直ぐさま腰に納めていた、ナイフを取り出し、構える。
「あっぶねぇな」
ゴンドラはゴブリンが抉った地面を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。
もし、先程の攻撃を受けていたら無事ではすまない。もしかすると死んでいたかも知れない。
そう思うと、身体が震えてくるが、すぐに気持ちを切り替える。
「喰らったらやべぇけど。ここに来るまでに出会った化け物に比べたら可愛いもんだぜ」
ダッと駆け抜け、一気にゴブリンに近づき、ナイフで斬り付ける
ゴンドラは勢いよく斬り付けたが、ゴブリンの身体を軽く傷を付けるくらいで、ダメージは無い。
ゴブリンは、ナイフで斬られた所から出てる血を指でなぞり、舌でペロリと舐めた。
「クソ、ダメージ無しかよ…ゴブリンの癖に」
ゴンドラのイメージしている弱いゴブリンとは違い、目の前にいるゴブリンは今のゴンドラにとっては、強敵になっている。
ゴンドラの額から汗が流れるがそれを拭う暇も与えずゴブリンは、こん棒を振り上げゴンドラに殴りかかってくる。
ゴンドラは、ナイフで攻撃を受け止めると、ゴブリンの攻撃に耐えきれないナイフは、折れてしまう。
「ああー!!俺の斬鉄剣が!!」
折れたナイフを悲しそう見つめるゴンドラだが、肝心の武器を失い、これ以上戦う事は出来ない。
武器の無いゴンドラに容赦なくゴブリンは襲いかかる。
こん棒を縦に横にと振るゴブリンの激しい攻撃をゴンドラはギリギリで避けていく。
当たれば致命傷になるであろう攻撃を避けつつ、何か手は無いかと考える。
「ごああああ!!」
ゴブリンの一撃をついに貰ってしまったゴンドラは、吹っ飛び、壁に激突した。
「クソ…いてぇ」
殴られた腹を擦り、なんとか立ち上がり、ゴブリンを見ながらゴンドラは、自身が受けたダメージがそれほど高くない事に気が付いた。
「さっきの地面を抉るくらいの衝撃を受けてたら致命傷だと思うけどな…なにか、仕掛けでもあんのか?」
ゴブリンを見ると、先程までの元気な様子は見受けられない。
どこか、疲労困憊の様子を感じられた。
なにか、変だ…
ゴンドラは、走り出し、落ちている、ナイフの柄の部分を掴み、ゴブリンに投げる。
ゴブリンは、飛んできた柄を、こん棒で弾くが、そのわずかに出来た隙に、ゴンドラは、渾身の一撃を喰らわし、ゴブリンは腹を抑え、のたうち回り、やがてそのまま絶命した。
「勝った…のか…?」
絶命したゴブリンはしばらくすると、その姿が消滅し、最初からそこにはいなかったかのような感じになる。
ゴブリンがいないと分かると、ゴンドラは勝利を確信し、ガッツポーズを決めた。
「はは、どうだ見たかゴブリンめ。勇者ゴンドラ様の実力を」
ゴブリンを倒したゴンドラは、自身の力が膨れ上がっている事に気が付いた。
どうやら経験値を貰いレベルが上がったらしい。
「へへ、なんか知らんが技思いついちゃったよ。魔王も倒せるくらい強くなったか?」
ゴブリンを倒しただけで舞い上がり、テンションを上げるゴンドラだが、突如、上の方から拍手をする音が聞こえてくる。
ゴンドラは、ビクッと鳴りながらも音の方に身体を向けると、一人の女性らしき人が、崖上で座りながらこっちを見ていた。
「おめでとう。坊や」
女性は、崖上から、飛び降りてきて、にっこりと笑顔のまま、ゴンドラに近づいてくる。
「誰だお前」
「誰だって、まあ、今の君に名乗る物じゃないかな」
ゴンドラは目の前にいる女性から感じるオーラを感じ取り、額から汗を流す。
恐らく、先程まで戦ったゴブリンとは違い、圧倒的な強さを持ち、ここに来るまでに出会った魔物より遙かに強いだろうと。
「坊やの実力であのゴブリンに勝てたのは運がよかったかな。最初の一撃を貰ってたら間違いなく死んでたよ」
「俺の天才的な判断のおかげかな」
「ははは。そうなら面白いね。あのゴブリンは魔力の使い方が下手くそ。まあ、この世界の魔物にしてはあの技が出来るなら上等って感じはしたけどね」
あの技?女性の言っている事をいまいち理解出来ないゴンドラは、首をかしげながらも、警戒を緩めない。
「魔力だと?魔法の力か?」
「うーん。ちょっと違うかもね。魔力は私達、魔の物が使う力だし。君達人間に場合、魔力は、魔法の力の事を言ってるよね。使える人は限られてるっぽいけど。私達の魔力は生命エネルギーみたいな物よ。使い切れば疲れてその場から動けなるくらいだし」
「お前、魔物なんだな」
目の前の女性は魔物。
見た目こそ、綺麗な感じだが、よく見ると頭から角が生えていた。
「そうだよ。人間がこんな魔物の巣窟になんか来ないでしょ。私はここを根城にしてるんだよね。周りの魔物は雑魚だし、誰も私には敵意を向けてこない」
「同じ魔物でも敵意を向けたりするんだな」
「友達じゃないし。そもそもここの魔物は私には敵意を向ける事すらしないけど。なぜなら私は魔王の直属の幹部だし。私を殺したら魔王に殺されるしね」
魔王直属の幹部。
そう聞いてゴンドラは一歩引き下がった。
「魔王直属の幹部かよ…」
「そ。まあ、別に私はあいつの部下って訳じゃ無いんだけどね。ただ一緒に来いって言われたから、来ただけ。あーあ、今頃私の妹は何してるかな。シスコンだし、毎日私がいなくて寂しさのあまり泣いてるかも」
「一緒に来いって言われたから来ただけって」
「そうだよ。こっちに来たら後は自由。他に一緒に来た連中もどこかで好き勝手やってるでしょ」
「何しにお前等はこの世界に来たんだよ?」
「さあ?それはあいつに直接聞きなよ。坊や勇者なんでしょ?弱そうだけど」
「誰が弱いだって?」
「ん?君」
ゴンドラは目の前の女性に弱いと言われカチンと来たのか、戦闘態勢に入った、
恐らく勝機は無いだろうが、女性に舐められるわけにはいかなかった。
「さっそく思いついた技をお前にかましてやるぜ」
「あらら。まあ、向かってくるなら相手にしてあげるよ。こっち来てまだ誰とも戦ってないし、退屈だったのよね」
「ステルスキラー!!」
ゴンドラは、レベルが上がり覚えた技名を叫び、ゴンドラはその場から消えた。
ステルスキラーとは、ゴンドラの技であり。相手に一撃与えるまで、その姿を消す事の出来る暗殺用の技である。
「へえ。面白い技だね。どこにいるんだろ」
このまま、折れたナイフの先端をを拾って一気に刺して倒せば、かなりの経験値が入り、俺は一気に強くなれるかも。
ゴンドラはナイフの先端を拾うとナイフもゴンドラの一部なり姿が消える。
ゴンドラはゆっくり近づき、女性の後ろに立ち、ナイフを刺しに行く。
「えい」
ゴン。
鈍い音が鳴ると、ゴンドラは額を抑えながら地面をのたうち回っている。
「いったー!!なんで俺の場所がわかんだよ」
「面白い技だけどさ。君の気配は全然消えてないよ。坊や本当に勇者なの?勇者らしくない技なんだけど…」
「うるせえな。魔王を倒せば勇者だろうが」
「それもそうだね。頑張りな。そんな坊やに私からもチャンスを与えよう」
「チャンス?」
「そ。今から私が坊やに攻撃をします。坊やはそれに耐えたら、坊やの勝ち。そのまま私を殺しな。耐えられなかったらそうだね。坊やは、自分のレベルに似合った場所に吹っ飛ぶ、かな」
「お、面白え。やってやろうじゃん」
「いいねぇ君。中々好きだよ。いつか強くなったらもう一度戦ってあげるよ。その時は私の名前教えてあげる」
「もう、勝つ気でいるんだな」
「もちろん。ゴブリン如きに苦戦する坊やには負けないよ」
女性は『それじゃ』と言い。腰を落とし、拳に力を込めた。
「魔力解放」
女性が言葉を放った瞬間、ゴンドラの目の前には巨大な拳が見えていた。
ーーーーーー。
「おお。死んでしまうとは情けない。今一度復活したまえ」
ゴンドラは目を覚まし、起き上がると、見知らぬ街の教会にいた。
どうやらゴンドラは負けたらしい。
何が起きたのかも分かっていない。
ただ、目の前にいる神父が笑顔で五千ゴールドをヒラヒラとさせている事だけがわかった。
ゴンドラの所持金は残り五千となった。
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