魔王になる為に

なむむ

序章

第1話 最後の街

起きなさい、私の勇者。

起きなさい、私の勇者。


時計から聞こえる、女性の声。

同じ台詞を繰り返し流れている声を、消すために、布団から手を伸ばし、ボタンを押す。


「う~ん…」


眠い目を擦り、布団から脱出し、男は、着替える。


男は本日、十八の誕生日を迎える。


この日、男は決心していた。


十八になったこの日、男は旅に出る事を。


男の名は、ゴンドラ。

自称勇者である。


ゴンドラは、家の扉を勢いよく開け、まずは武器を調達するために武器屋へと足を運んだ。


「おっちゃん。武器くれよ」

「おう、ゴンドラ。おめぇがそれを言うって事はいよいよ旅に出るわけか」

「まあな。勇者ゴンドラの旅が始まるぜ。魔王は俺がぶっ倒してやるさ」


この世界に魔王が来て、三年。

魔王によってこの世界は支配されようとしていた。


「って事で、武器買わせてもらう。この三年で結構貯め込んだから、一番良い奴買うよ」

「いいねえ。ほれ、一番高いのはこれだ」


ゴンドラに出された、この店一番の武器。


「破壊の剣。値段は五十五万ゴールドだ」

「………はい?」

「どうした?貯め込んだんだろ?ほれ、買えよ」

「いや、ちょっと、高くない?ここは最初の街だぜ。鉄の剣とかじゃないの」

「つまり、金が無くて買えねえって事か?」

「五十五万なんて大金持ってる訳ないだろ」

「じゃあ、帰りな。お前に売ってやる武器はねえ。金がねえなら、外の魔物でもぶっ倒して、金でも稼いで来いよ」


門前払いをくらったゴンドラは、ブツブツと文句をいいながら、街の外にいる魔物を倒し、お金を稼ぐ事にした。


「ったく。高過ぎんだろ。なんだよ五十五万って…俺、二万しかもってないっつーの」


あの店はぼったくりだ。そう思いながら歩いているゴンドラの目の前に、一体の魔物が現れた。


レッドドラゴン。


「はっ?レッド…ドラゴン…?」


目の前には明らかにゴンドラよりも強いであろう魔物がギロリとゴンドラを睨む。


レッドドラゴンの鋭い爪は容赦なく、ゴンドラの身体を引き裂いた。


自称勇者、ゴンドラは死亡した。


「おおゴンドラよ、死んでしまうとは情けない」

「ううん…」


この世界で死亡し、死体を神父の元へ持って行けば神父が蘇らしてくれる。

しかし、それは魂がまだこの世に留まっている状態のみの話である。

死にたてホヤホヤのゴンドラの魂はまだこの世にあるため、生き返る事が出来る。

街を出てすぐに死んだゴンドラは、偶然通りかかった神父によって教会まで運ばれ生き返る事が出来た。


目を覚ましたゴンドラは、棺桶から、身体を起こし、目の前に立っている、神父を見た。


「俺、死んだ?」

「はい。ゴンドラは死にました。だから私があなたの死体を回収し、復活させました。なので、お代は、一万になりますね」


すでにゴンドラの財布からお金を抜き取った神父は笑顔でお札をヒラヒラとさせている。


「死体を回収って、あそこにはいるはずの無いレッドドラゴンいたでしょ」

「ああ、いましたね」

「いましたねって…よく無事だったね」

「あの手の魔物はよく会いますから。返り討ちにしてやりましたよ」

「あんなの三年前はいなかったよな。どうなってるの?」

「あなたは三年間なにをしてたんですか?」

「え…家で筋トレとか…」

「なるほど…つまり三年前に魔王が来た事以外なにも知らないと」


神父は自分の腰に手を回し、ゆっくりと歩きながら教会を出て行く。

ゴンドラもその後を追っていく。


「魔王がこの世界に現れたのが三年前。いいですか、ゴンドラ。あそこに見える城を見て下さい」


神父は、遠くを指差した。

ゴンドラは神父が指を差した方を見ると、禍々しいオーラを放っている、城が見えている。


「あんな城あったか?」

「三年前は無かったです。魔王が現れ、出来ました。あそこには魔王が住んでいます」

「へえ。随分近くにいるんだな」

「いいですか。あなたはこの街で育ち、ここを自身の冒険の出発地点として、最初の街としているようですが、それは違います」

「なにが…?」

「ここは、魔王に最も近い街。冒険者が魔王討伐の為に訪れる最後の街です」

「最後の街…」

「そう。だから、必然的に売っている武具も高価な物になります。安い武具など売っても誰も買いません。さらに、魔王が近くにいる事で、今までいなかった魔物まで出現するようになりました。凶暴な魔物の出現により、この街も今まで通りとは行かなくなりました。住民は各自修行し、レベルを上げ、この街に魔物が来ても退けるくらいに強くなりました。一方ゴンドラ。あなたはどうですか?レベルは?お金は?仲間は?どれか一つでもこの街の人を満足させる物をお持ちですか?」


神父の問いに何も言い返せないゴンドラは逃げるように、走り出し、再び、武器屋の前にやってきていた。


「頼む!!俺に剣を教えてくれ!!」


ゴンドラは武器屋の親父に、頭を地面にこすりつけた状態、土下座の形で自身を鍛えてくれとお願いする。


「ゴンドラよ。そりゃあ何の真似だ」

「見りゃわかんだろ。お願いしてんだよ。俺を強くしてくれ」

「ふん。情けない。帰れ、お前のような腰抜けには失望した。外にいるレッドドラゴンにも勝てず。逃げ帰ってくるやつにはな」

「ドラゴンなら倒した」


神父が……


「あのドラゴンを…」

「頼む!!」

「一つ聞く。お前は何の為に強くなりたい?」

「お前を超える為!!」

「……いや、そう言うのいいから。お前は剣を三本持つ程の剣士じゃないし。レッドドラゴンも神父が倒したの見てたから」

「…ぐ」

「残念だがお前を鍛える暇は無い。勇者名乗んなら、自分でなんとかしろ」

「ええー。頼むよー」

「俺も忙しいからな。でも俺も鬼じゃ無い。お前にアドバイスくらいしてやるよ」

「アドバイス…」

「ここから、東に四キロ先にある。【敗北者の谷】ってのがある。あそこに行くのがおすすめだ。行くまでに強敵がいると思うけど、逃げるなりしてやり過ごせ。谷に行けば、お前でもなんとかなる魔物がいるだろうからそこで修行でもするんだな」


武器屋の親父のアドバイス通り、ゴンドラは敗北者の谷へと向かう事にする。

自称勇者ゴンドラ。

彼の旅は負ける事から始まった。

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