参上! 朝霧小学校、少年探偵団!

無月弟(無月蒼)

第1話 朝霧小学校の小林少年

 5月のある日。小学校の休み時間の教室で。

 ボクは次の授業が始まるまでの間席につきながら、読書にいそしんでいた。

 読んでいるのは、図書室から借りた本。『少年探偵団』って言う有名な推理小説だ。


 もう何回も読んでストーリーは覚えているけど、それでも何度だって読み返したくなる名作。

 だけどワクワクしながらページをめくっていると、ボクの読書タイムをはばむ声が聞こえてきた。


「おーい小林ー! ちょっといいかー!」


 キーンと耳に響く大ボリューム。

 そんな大声を出さなくても、ちゃんと聞こえているのに。


 小林というのは、ボクの名前。

 丁度今読んでいる小説に同名のキャラクターが出てくるけど……こんな風に大声でボクを呼ぶやつなんて、一人しかいない。

 振り返ると……ああ、やっぱり佐久間だ。


 ボクよりも頭一つ……ううん、一つ半くらい高い、ツンツンした髪をした男の子。佐久間恭介。

 明るくて運動もできるクラスの人気者で、ボクとは正反対のタイプの男子なんだけど。

 彼はボクの席までやって来る。


「お前、さっきの授業中ハデに、転んでたよな。大丈夫だったか?」


 げ、見てたのか。

 ついさっき、体育の授業でサッカーをしていたのだけど、その途中ボクはボールをけり損ねて、見事にスッ転んでしまっていたのだ。

 そのためズボンでかくれている両ひざには、保健室ではってもらったガーゼが貼ってあるんだけど……。

 話していると、クスクス笑う声が耳に入ってきた。


「小林の転びっぷり、ダサすぎて笑えたよな」

「ああ、あんな盛大にキックを外すのなんて、初めて見たぜ」


 かくす気が全く無い、イジワルな笑い声。

 たぶんわざと聞こえるように言ってるんだろうなあ。

 ダサいって、そんなことボクだって分かってるのに。

 けどそんな声を、かき消すように佐久間が。


「気にするな。失敗なんて、誰だってあるんだしよ。ごちゃごちゃ悪口言うやつの方がよっぽどダセーしな」


 とたんに笑っていた男子は、バツの悪そうな顔をして目を反らす。

 それどころか関係ない女子まで「さすが佐久間くん」って目をかがやかせてるから、イケメンはスゴいよ。

 けどボクも、佐久間のこんなところはキライじゃない。

 助けられたというのもあるけど、そもそも悪口言うようなやつに真っ向から反論するなんて、ボクにはできないし、尊敬するよ。

 ただ、そんな佐久間にも困った所があるんだよねえ……。


「それはそうとだ。小林、お前に頼みたいことがある。朝霧小学校の小林少年と呼ばれてる、お前の力が必要なんだ」


 またか。

 助けてもらってちょっとウルッとした、ボクの感動を返せ!


「またなの? いつもおかしな事件を見つけてくるなんて、いったいどうなってるの? だいたい、ボクは小林少年なんかじゃ……」

「とかなんとか言って、毎回しっかり事件を解決してるじゃないか名探偵! 頼むよ。困ってる人がいるんだから」


 まったく、調子いいんだから。

 佐久間の言っている小林少年って言うのは、さっきまでボクが読んでいた推理小説、『少年探偵団』に出てくる、探偵の助手をやっている男の子の名前。

 だけど、ボクは全然名探偵なんかじゃないから!


 たまたま名字が一緒ってだけ。

 なのに佐久間ってばしょっちゅうどこからか事件や謎を仕入れてきては、ボクに謎を解いてくれって言ってくるんだ。

 学級文庫盗難事件や、飼育小屋のウサギ誘拐事件など、今までいくつ事件を解決してきたことか。


「それで、今度はいったい何があったの?」

「お、引き受けてくれるか?」

「ヤダって言っても、どうせ首を縦に振るまで頼んでくるんでしょ。とりあえず、話は聞くだけ聞くよ」

「ありがとう、さすが小林。お前は良いやつだー!」

「こら、いちいち手を握るなー! だいたい、役に立つとは限らないからね」


 ボクは名探偵でもなんでもないんだから。

 今までだってたまたま運よく解決してきたけど、期待されても困るんだよ。

 だというのに、佐久間は嬉しそうにうなずいてる。


 まあ、引き受けたからにはやってはみるけどね。

 さて、今度はいったい、どんな事件が待ってることやら。


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