Episode5:ステラダイナー
ナイトアワーのダイナーは、静寂で満ちている。
それでも、店主は今日も店の準備を欠かさない。
どんな時でも、腹を空かせた客を迎えられるようにする。
それこそが、店主のこだわりだ。
そして今日、初めての夜の客が訪れた。
ドアベルの小気味よい音と共に来店したのは、顔馴染みの学者さんだった。初めて見る顔の少年を連れ立って、ふたりはカウンターに並んで座った。
★
-いつものはあるかい?
-もちろん。…と言いたいところだが、生憎品薄でね。特にベルリカを切らしている。
-まぁ、仕方ないね。じゃあ、店主の秘伝シチューを頼むよ。3人分だ。
-3人?
-今の彼には、2人分必要なんだ。
-なるほど。かしこまった。
-もう少し待っててね。ここの料理はどれも絶品だよ。せっかくだから、僕のおススメを食べてほしかったんだけどね。
-あの。それって、何なのでしょうか?
-そんなにかしこまる事ないよ。リゾットさ。ベルリカは食べたことあるかい?
-いえ、初めて聞きますね。
-名前にもある通り、ベルのような音色を奏でる穂が実るんだ。あのドアに付いてるようなね…。
★
-…だけど、栽培するには結構手間でね。スターシティでもなかなか流通してないらしいんだ。
-そうみたいですね。そんなにおいしいんですか?
-お待ちどうさま。正直微妙さ。育てにくい上に、飛びぬけて旨い訳でもないんだ。
-前にも言ったろ。育て方の問題さ。本当に良いものは音色が段違いさ。聞ければ、すぐに分かるさ。
-育てたこと、あるんですか?
-…うん。僕というより、僕の家族がね。さぁ、冷めないうちに食べよう。
-はい。いただきます。
★
-ごちそうさまでした。
-完食とは嬉しいね。味はどうだったかな?
-あ、はい。美味しかったです。
-ありがとう。会計を頼むよ。
-もう行くのかい?食後のお茶ぐらいはサービスするよ。
-そのサービスならもう受け取っててね。それに、少し急がなきゃいけないんだ。次来る時までに、ベルリカの方は頼んだよ。
-かしこまった。…と言いたいところだが、君が言ういい音色というのを先に聞きたいな。それなら仕入れの時に間違いがない。
-いい提案だけど、どうすればいいんだい?
-これを使ってくれ。
-
-古いやつだが、録音するだけなら充分使えるはずさ。これでひとつ、いい音色を頼むよ。
-かしこまったよ。
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