Episode5:ステラダイナー

 ナイトアワーのダイナーは、静寂で満ちている。

 それでも、店主は今日も店の準備を欠かさない。

 どんな時でも、腹を空かせた客を迎えられるようにする。

 それこそが、店主のこだわりだ。

 そして今日、初めての夜の客が訪れた。

 ドアベルの小気味よい音と共に来店したのは、顔馴染みの学者さんだった。初めて見る顔の少年を連れ立って、ふたりはカウンターに並んで座った。



-いつものはあるかい?

-もちろん。…と言いたいところだが、生憎品薄でね。特にベルリカを切らしている。

-まぁ、仕方ないね。じゃあ、店主の秘伝シチューを頼むよ。3人分だ。

-3人?

-今の彼には、2人分必要なんだ。

-なるほど。かしこまった。

-もう少し待っててね。ここの料理はどれも絶品だよ。せっかくだから、僕のおススメを食べてほしかったんだけどね。

-あの。それって、何なのでしょうか?

-そんなにかしこまる事ないよ。リゾットさ。ベルリカは食べたことあるかい?

-いえ、初めて聞きますね。

-名前にもある通り、ベルのような音色を奏でる穂が実るんだ。あのドアに付いてるようなね…。



-…だけど、栽培するには結構手間でね。スターシティでもなかなか流通してないらしいんだ。

-そうみたいですね。そんなにおいしいんですか?

-お待ちどうさま。正直微妙さ。育てにくい上に、飛びぬけて旨い訳でもないんだ。

-前にも言ったろ。育て方の問題さ。本当に良いものは音色が段違いさ。聞ければ、すぐに分かるさ。

-育てたこと、あるんですか?

-…うん。僕というより、僕の家族がね。さぁ、冷めないうちに食べよう。

-はい。いただきます。



-ごちそうさまでした。

-完食とは嬉しいね。味はどうだったかな?

-あ、はい。美味しかったです。

-ありがとう。会計を頼むよ。

-もう行くのかい?食後のお茶ぐらいはサービスするよ。

-そのサービスならもう受け取っててね。それに、少し急がなきゃいけないんだ。次来る時までに、ベルリカの方は頼んだよ。

-かしこまった。…と言いたいところだが、君が言ういい音色というのを先に聞きたいな。それなら仕入れの時に間違いがない。

-いい提案だけど、どうすればいいんだい?

-これを使ってくれ。

オーア鉱石ラジオ?

-古いやつだが、録音するだけなら充分使えるはずさ。これでひとつ、いい音色を頼むよ。

-かしこまったよ。

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