第4話 場所は伏す

「ごめんくださーい。いらっしゃいませんかー?」

「住所も名前も合ってますし、最悪のケースもありえますね」


 閑静な住宅街の中、広めの屋敷とはいえ荒れ放題の庭と周辺一帯を包む静寂。依頼の電話は届いたものの、人の気配は感じられなかった。


「呪物の詳細は話さず、依頼者も不在。イタズラなら良いですが、最悪を想定して応援要請と、警察と連携を取って調査しましょうか」



 警察と組んで玄関を開けると、埃っぽくカビ臭い空気が漂っていた。


「時計回りに一階を確認して、その後二階も同じ様に確認します」

「了解」


 和室問題無し、洋室問題無し、ダイニングキッチン問題無し、寝室問題無し、風呂トイレ問題無し、二階問題無しと、一通り確認作業が終わり、最悪のケースが回避されて安堵の空気が漂った。

 警察官が杞憂で良かったですねと発言した時、無線機から声が聴こえてきた。


「寝室に来てください」


 警察官の顔は真っ青に染まり、施設職員に引き継ぎをして足早に去って行った。

 寝室に行ってみるも、変わった事は無い。手分けして調査するしか無いようだ。


「観測機器に反応ありません」

「手掛かりになりそうなのは日記と、人形くらいしか無さそうだ」


 現状では人形に異常は見られないため、日記をビデオカメラ越しに確認する。

 当たり障りの無い内容が続いていたが、『体調が悪い日が続く』『妻が24時間人形を手放さなくなった』と来て、『おかしなものが見える』『ずっと見られてる』『これは呪いだ』で日記は終わっている。


「現在体調に異変を感じていたら手を上げてくれ」


 自分を含め、全員の手が上がった。まずい事態だ。

 一旦人形を置いて屋外へ退避し、人形の数だけ簡易的なファラデーケージを用意する。外部観測班と突入班に分かれ、人形を洋室と和室の二ヶ所に分けてそれぞれ観察を開始。


「A班だが視界の端に動く影が見える」

「外部からは観測できません」

「こちらB班、視線と気配を感じ始めた」

「人形の一体が腕を上げたのが観測できました。対象個体を確保してください」

「B班了解」


 そう言って、B班の職員は立ち上がると、検討違いの方向へフラフラと歩き始めた。その方向に有るのは仏壇だ。


「ウインチの巻き上げを始めろ!」


 ウインチが職員の腰に繋がるワイヤーを巻き上げ始める。しかし、弛んだワイヤーを巻き上げている間に、B班職員は仏壇に辿り着き、蹴飛ばす。

 いつからなのか、火の着いた線香が立てられており、畳に非常識な速度で着火する。


「人形じゃない、屋敷そのものが呪物だったようだ」


 中に居た二人の職員はウインチにより屋敷外に引きずり出されたが、和室からの火は瞬く間に燃え広がり、屋敷を完全に包んだ。


「消防に連絡は行ったが、来る頃には全焼だろうな」


 住人の霊が屋敷に復讐をしたのか、屋敷が自らに火を着けたのか、真相は灰の中である。

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