青い春だけに咲く桜。
パ・ラー・アブラハティ
また逢える。
教室に射し込む太陽の光。窓から流れ込んでくる風にカーテンが靡く。優しい春の花の匂いが鼻をかすめ、肌を撫でる。
私は目を細めながら太陽を見る。春の雪が外を舞って、太陽の光と共に踊っている。ウトウトと眠気を誘う心地のよい気温。外で賑わっているクラスメイトたちの声。終わりが来たと分かる静けさの中、私は一人教室に居た。三時間前までは自分の席だった場所に座り、終わってしまった余韻を噛み締めていた。始まりがあれば終わりがあるなんてことは、入学時から分かっていた。
けれど、それはどこか現実味がなくて他人事のように思っていた。来る現実を来ない空想と捉えていても時計の針は刻々と進み、終わりの時間はもうそこへと歩み寄ってきていた。そうして、気付いたら終わりが大手を振って私にハグをした。
この教室を見渡せば、想い出が沢山詰まっていた。体育祭のポスターで使った標語ポスター。みんな笑顔で鹿が横切っている修学旅行のクラス集合写真。誰も守らなかったクラス目標。貼っているくせに日毎に変わる時間割。誰が置いた分からない謎の美術作品。卒業式までのカウントカレンダー。
パッと見ればぐちゃぐちゃで統一性がないものだけど全てにストーリーがあって、目を閉じれば昨日のように想い出せる。学校が面倒くさくて行きたくないと思った日も当然あった。だけど、やっぱり行くと楽しくて行きたくないなんて気持ちは簡単に消えてしまって。だから、今もこの瞬間が止まってほしくて。もう散りゆく私の青い春だけに咲く桜。春夏秋冬は変わらず巡るが、青い春にだけ咲く桜がまたやってくることは無い。
皆が外で騒いでいるのに、無駄に感傷に浸って。目には涙がじんわりと浮かんで。もう卒業式で散々泣いたと言うのに、まだ体には水分が残っている。心を落ち着かせようと息を深く吸って吐く。
もし、願いが叶うなら私はきっとこの瞬間を永遠に続けさせてと願うだろう。人は過去に縋り、未来を望み、今を止めてと願う。私は過去も未来もいらないから、今だけを止めてほしかった。そうすれば、きっと楽しい日々が続いていくはずだから。過去への後悔も未来への憂いもなく、日々をただ謳歌できる。でも、それじゃ人は成長できない。だから、私はこうして一人で感傷に浸っている。
「あ、渚!!早くおいでよ!みんなで写真撮るんだよ!」
外の風景を見ていると、一人の女子生徒が窓から見えた私に叫ぶ。
あぁ、そっか。これが未来なんだ。私がいま呼ばれてここを踏み出す、その瞬間が未来なんだ。今は一人だけど、未来にはみんながいる。私は女子生徒に「今行くよ!」と叫び返し、春の雪を背中に受け青い春とおさらばする。
青い春だけに咲く桜。 パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482
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