第19話 ヴァイスの帰還


ルーナがシャワーを浴びている時、扉が開かれた。


「はぁ、はぁ、団長!」


入ってきたのはヴァイスだった。


全身ズタボロになっていた。


「どうした?その体」


「襲われたのです」


「連れていった部下はどうなった?やっぱり死んだか?」


漫画とかだと一人だけ帰ってくるパターンだと死んでると思うんだよな。


そう思いながらじゃっかん後悔しながら聞いたんだけど。


「ご安心を。俺が全員を無傷で逃がしました。舐めないでください。これでもこの騎士団のナンバー2なんですよ?」


(やるやん)


いい方向に予想を裏切ってくれた。


「はぁ、はぁ……ぐっ……」


ヴァイスは怪我が酷く思うようにうごけないらしい。

そのせいか、壁にもたれるようにして倒れ込んだ。


「大丈夫か?」

「なんとか」

「どんなやつに襲われた?」

「騎士風の見た目のやつでした。鬼のような仮面を着けた奴でした」


(それがクープンなのだろうか?)


おそらくだが、奴だって顔をさらした状態で事件なんて起こしたくはないだろう。

顔を隠すために使ったのがその鬼の仮面だと思う。


「それにしても鎧を着てなかったおかげで逃げやすかったです」


スっ。

薬指を見せてきたヴァイス。


「この指輪のおかげで助かったんだと思います。ありがとうございました。団長。うぐっ……俺は、俺はあなたに酷いことを言ったというのに、ここまでしてくれるなんてぇ……うぐっ……ぐすっ」


(う〜ん、なんなんだろうなこのシチュエーション)


俺は思っていた。


なんで目の前にいるのが女の子じゃないんだろうって。


「あのさぁ、ひとつ言っていい?」

「はい。なんなりと」


「俺の前でその指輪の話は金輪際するな」


そう言うと手を引っ込めていた。

無駄に素直だよなぁ。


「で、ヴァイス。他に報告は無いのか?」


「あります。襲ってきた奴を斬りつけてやりました」


グイッと右腕のシャツをまくったヴァイス。


「この右腕の手首から肘くらいにかけての部分をザックリ斬ってやりました。なので、あの傷は相当目立つと思います」


「十分だ。お前はよくやってくれたよ。ホコリに思うよ」


「まだです。俺はまだあなたの役に……うぐっ……」


「その辺にしておけ。体を壊すぞ」


ヴァイスに毛布を投げてやった。


驚いたような目で俺を見ていた。


「ご苦労だったな。次のパシリに備えてゆっくり休んでいるがいい。俺はまだまだお前をこき使うつもりだからな」


「はいっ!」


「逃がした騎士はどこへ行った?」

「とにかく逃げてから朝までに詰所に戻るように言っておきました」


「分かった。そこで休んでいろ」


そうして会話が終わった時、見計らったようなタイミングでルーナがシャワー室から出てきた。


すっぽんぽんではなく、服を着ていた。


気合いが入っいてるような感じが雰囲気で伝わってくる。


「気合い入ってるね」

「にゃ。もちろんにゃ」


シュッシュっ。

シャドーボクシングまで始めてしまっている。


「ルーナ、頼みたいことがある。君にしか頼めないことだ」

「なんだにゃ?」

「クープンの家は分かるか?」


「分かるにゃ」

「忍び込んでもらいたいんだよ」


カメラを渡す。


「奴が俺を蹴落とそうとしているような決定的な場面をこれで録画してきて欲しい」

「にゃ」

「君ならできるだろ?あと、できれば右腕に傷があるかどうかも確認して欲しい」

「お任せを!」


猫のような俊敏な動きでルーナは部屋を出ていった。


俺も団長室を出た。


詰所に戻るとそこには大量の騎士達が待機していた。


皆口々に「襲われた」とか「逃げてきた」とか報告してくる。


全員の顔には疲労の色が浮かんでいた。

無理もないだろうな。

夕方くらいから謎の殺人事件の調査をしていて、それからクープンとの戦闘だ。


「ヴァイスから聞いた。ご苦労だったな」


とりあえずの指示を出すことにした。


「疲れていると思う。とりあえず休んでくれ。明日の朝になったら起こす」


俺の指示で騎士たちは詰所内で休み始めた。



朝になるとさっそく指示を出し始めた。


机に地図を広げて指を指していく。


「こことここと、ここだな。これらの箇所を5人一組くらいで見張りにいってくれ」


俺が指さしたのはクープンの担当区域と俺の担当区域の境目にあるちょっとした関所だ。


人数を多めに配置しているのは有事の際に備えてのこと。


「「「はい」」」


俺が指さした場所さえ塞いでいれば、クープン側の不審人物の侵入は防げるようになっているはずだ。


侵入を防げるということはこれ以上死体が増えないことに繋がるはずだ。


これで俺を蹴落とそうとする奴の計画はここで終わりだ。


あとは


(あとは奴をアングラへとどうやって誘導するか、だな)


正直言って姿を明かしてアングラへと誘導するのはバレた時のリスクがデカいし、やりたくない。


となると……やはり正体を隠して匿名でアングラへと招待したいが、かなり大きなネタがないと匿名の招待では来ない可能性がある、となると。


(【ユカイン】ネタでなんとか誘導する、くらいか?)


あの組織は違法な組織だった。

そこと繋がりがあることをバラされたくなければ、アングラへ来い、って方向で攻めようか。



今日はクープン側も特に動かないだろうと思って団長室で様子を見ていた。


ルーナが帰ってきたのは夕方くらいだった。


「ご主人様ごめんなさいにゃ」


第一声がこれだったので軽くショックを受けた。


「失敗したか?」


「違うにゃ」


ルーナは扉の外に目をやった。


そして両手で抱き抱えるように女の子を見せてきた。


「人質に取られた仲間が生きてたんだにゃ。連れてきちゃったにゃ」


(ヴァイスと言いルーナと言い俺の味方はなんだかんだかなり優秀なようだ)


そして俺の考えが正しければ……。


ルーナはクープンを呼び寄せるのに使える最大の武器を連れてきてくれたと思う。


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