第18話 敵襲……?



「俺ならここはこうするな」


グダグダウダウダと説教が終わったと思ったらクープンは地図上に情報を書き始めた。


「ここの情報とここの情報から考えて犯人はこっちに逃走したと考えられる」


と地図上に新たな線を引いていく。


「わー、すごーい」


棒読みで褒めておく。


「そうだろ?俺は団長になってから歴が長いからな。こういうちょっとした事件の解決も手馴れたものなんだよ」


ドヤ顔で語っている。


「ちなみに団長歴は何年くらいなんです?」


「25歳で就任してかれこれ5年目である」


逆に言うと5年も現場を任されているわけである。


それがすごいことなのか、悪いことなのかは今の俺にはまだ判断に苦しむが。


俺が「早く帰れ」ビームを目から出しているがクープンはそんなこと気にしていない様子である。


そのあともベラベラと喋り始めた。


(あと何分続くんだろうなこれ)


かれこれ10分くらいペラペラ一人で喋っている。


そろそろ嫌味のひとつでも言おうかと悩んだ時だった。


コツっ。

コツっ。


なにかの音が聞こえ始めた。

どうやら窓の方向からのようだ。


「ん?」


俺が見ているとクープンが口を開いた。


「おそらく虫かなにかだろう。夜遅くに明かりがついているので、光に向かってきてるんだろう。」


その間もコツっ。コツっと音が鳴っていた。


(ほんとに虫だろうか?これ)


一週間。

ここにいたが、こんなふうに何度も何度もコツコツ音がなることはなかった。


(そういえばさっきからルーナの入ってるはずの風呂から物音がいっさいないよな。それと気配があまりにもなさすぎる)


もしかして、ルーナが外に脱出して窓を開けて欲しくて、なにか投げてる、とかだろうか?


なんとなくそんな気がしてきた。


俺はわざとらしくシャツのエリの部分を掴むとパタパタと動かした。暑がっているふりだ。


「窓開けていいですか?熱いんですよ」


「構わんが」


「では、失礼して」


俺は窓の横に立って窓を開けた。


そのときだった。


ブワッシャッ!


外から中に水が入ってきた。


そして水はクープンの体にかかった。


「あっつぅっ!」


どうやら熱湯だったらしくその場で悶え始めた。


「だ、大丈夫ですか?」


窓を閉めて俺はクープンに駆け寄った。


「熱湯のかかった服は脱いじゃってください。いつまでも着てると染み込んでるんで、余計暑いですよ」


俺はクープンの服を脱がせることにした。


しかし、こんな夜遅くにおっさんの服を脱がせるなんてほんとに悲しい人生だよ。


そうして、服を脱がせていると……


(なんだ、これ……切り傷?)


背中には無数の切り傷があるのが見えた。


その中のひとつは巨大なミミズばれみたいになっていた。


「この傷に染み込んじゃってるみたいですね」


俺は冷水で濡らしたタオルをクープンに渡した。


俺は詳しくは無いけど、火傷の対処法としては悪くない処置だと思う。


「ところで君の団長室はなんで窓から熱湯が入るんだ?」

「さぁ?近所のガキのイタズラでは?前の団長はさぞ美しくエロかったので、俺みたいなおっさんが来たことを快く思っていないエロガキでもいるのでしょう」


俺にも理由がよく分からないのでそう答えておいた。


「散々な目にあった。くそっ。今日はもう帰らせてもらう」


(やっと帰るのか。ありがてー)


クープンは悪態をつくと外に出ていった。


そのあと、しばらくすると


「にゃっ。」


ガラッと窓を開けてルーナが入ってきた。


服はちゃんと来ているようだったが、あちこち黒ずんでいた。


「なにしてたの?」

「それより、聞きたいことがあるにゃ。今のやつ、背中にミミズばれの傷がなかったにゃ?」


俺は観葉植物のカメラのことを思い出していた。


カメラの撮影が続いていたので止めた。


「なんでこんなところにカメラが?」

「なんというか、虫の報せかな?」


「もし、にゃーの裸が見たいにゃらいつでも見せてあげるにゃよ?」


ギクッ。


「そ、そんなわけないだろ。馬鹿なことは言うな」


話題を変えるようにカメラの再生ボタンを押した。


おっさんの服をひん剥くところから再生を始めた。

そして背中が見えたところで再生を止めた。


「これのこと?」


ニヤリ。


口許を歪めていたルーナ。

並々ならぬ関係性を感じますなぁ。


「こんなところで会えるとは、あのクソやろー」


「なんかあったの?あの男と」


「クープンは悪人にゃ」


「話聞かせてくれるか?」


「にゃ」



ルーナに話を聞いたがクープンは表では普通の騎士だが、裏ではクソ野郎らしい。


「ご主人。ニャーの仲間の獣人は奴に捕まって売られていったにゃ。今じゃどこで何をやっているのかとか分からないにゃ。だから仇を取りたいにゃ」

「ふむ。しかしだなぁ」


あいつも俺も団長というそこそこ立場のある人間である。


表立ってなにかできるような間柄では無い。

例えば極端な話俺が真っ正面から出向いて奴を殴れば俺が悪人にされるわけである。


俺の考えもよそにルーナは話を続けた。


「クープンがここに来てニャーはなんとなく察したにゃ。死体が出た理由について」


「まさかクープンが死体を用意したとでも言いたいのか?」


「きっとそうにゃ。奴ら自分達の区域で出た死体をここに捨ててるんだと思うにゃ」


「俺に嫌がらせしてなんかあるのかな?」


「やつの頭の中はこうなってると思うにゃ」


ルーナは紙に現在の状況を書き出した。




まず、クープンは俺を快く思っていない。(自分は何十年もかけてやっと団長になれたのに、ものの数日で団長になった俺が憎い)


そこでクープンは作戦を立てた。

俺を蹴落とす作戦である。


俺の担当地区で死体を捨て続ける。

増え続ける死体に近隣住民は怯える。


そこで隣地区のクープンが連続死体発生事件を解決。


そして、死体が増える原因を排除できかった俺は無能という判断を下されてフブキのような上位の立場の人間によって団長の資格を剥奪される。




「こんなところだと思うにゃ。むしろこうとしか考えられないにゃ」


「なにか根拠はあるのか?ルーナ」


「にゃーが【ユカイン】の仲間になっていたのはクープンに人質を取られていたからにゃ。アレシアの時もクープンはアレシアを蹴落とそうとしてたんだにゃ」


なるほど。

ここに来て全部繋がったな。


奴がこのタイミングで詰所に来て俺に色々話をしてきた理由もわかった。


捜査の撹乱だろう。


「奴の出世欲に君は巻き込まれた、と。【ユカイン】があそこにいたのもアレシアを蹴落とすためだったと?」


「にゃ」


うるうる。

ルーナは目から涙を流した。


いつも陽気で元気なルーナが流した涙だ。


「お願いにゃ。仲間の仇を取って欲しいにゃ。ご主人」


「分かった。ヤツは殺そう」


「ほんとにゃ?」


「俺に考えがある」


アングラで奴を消滅させよう。

あそこなら殺しだって許される。


当面の予定を考えたところで、俺はルーナを見た。


「ところでそのホコリだらけの体はどうしたの?」


「風呂から出るのに、ホコリだらけの窓を通ってきたんだにゃ」

「なるほどね。とりあえずシャワー浴びてきなよ」

「んにゃ」

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