第17話 事件
大会への出場登録をして団長室まで登ってきた。
日が暮れ始めるくらいの時間だった。
「遅いな。あいつ」
ヴァイスがまだ戻ってきていなかった。
ここ一週間くらいはあいつの行動を観察していたんだが。
普段は問題行動なんて起こさない真面目君なのに。
「ついに俺を裏切ったか?あのやろー」
「あいつ、裏切りそうな顔してるもんにゃー」
「でも、うんこしてるだけかもしれんぞ」
「たしかにうんこが長そうな顔してるにゃ~」
今日もウーバーヴァイスしようと思っていたのに
「連絡もつながらんな、あいつ」
「焼き鳥食べたいにゃ」
そんな会話をしていたときだった。
「すみません、遅れてしまいました」
ヴァイスがやっと帰ってきた。
「遅い。弁当買ってこい」
「にゃーは焼き鳥弁当にゃ、ふしゃー」
「あ、はい。いいですけど、ちょっと遅れるかもです」
「構わん行ってこい」
「にゃー!」
金の入った革袋を渡すとヴァイスは部屋を出ていた。
それからいつもの倍の時間かけて帰ってきた。
「お待たせしました」
「ご苦労。チップは笑顔でくれてやろう」
「まったくーしかたないにゃね―」
歯を見せて笑ってやると、なぜか嬉しそうな顔をするヴァイス。
「俺、今日も団長の役に立ててうれしいです」
「お前はパシリにされると喜ぶニュータイプか?」
「パシリなどではありません。これはれっきとした団長のサポートですよ」
(それをパシリと言うんだが)
まぁ、いいや。
「んで、真面目なお前が今日に限ってなんでこんなに遅いんだ?」
「表でちょっとした騒ぎがありまして」
「それは大変だな。お前が行って解決してこい」
「もう解決したんですよ。こちら報告書です」
すっ。
机の上に報告書を出してきた。
報告書に目を通す。
「殺人事件?」
「はい、死体が出まして」
たしかに死体が出たって書いてる。
なにやら身元不明の男性の死体が通路に放置されていたらしい。
「で、痕跡なし、犯人は不明と」
「はい。町では【死の風】の再来と騒がれています」
「失礼にゃ。にゃーはここにおるっ!にゃんでもにゃーのせいにするにゃ!」
ヴァイスは頷いてた。
「元【死の風】が骨抜きにされてここにいる以上。彼女の犯行はありえませんね」
「そもそもにゃーは死んでとうぜんの悪人しかこの街で殺してないにゃ」
ま、犯人が誰であれ騎士団として調査する必要はあるわけだ。
「もう一回調べてこい。部下は何人連れて行っても構わん。それから街の警備もしっかりな」
「団長は?」
「当たり前のことを聞くな。殺人事件なんて怖いから風呂に入って寝る」
「そうですか、いい夢を」
ヴァイスは部屋を出ていこうとした。
(指輪、渡しとくか。エリスが何個か持ってきてくれたしな)
「待て」
不思議そうな顔で振り返ったヴァイスに向かって指輪を投げた。
「これは?」
「【(エリス)団長からのお守り】だ。持ってるだけで防御力が上がるらしい。だから鎧は脱いで私服でいきな。身軽な方がいいからな」
「あ、ありがとうございます!一生大事にします!!!!」
「俺はお前が事件を解決してくれるって期待してるからなヴァイス」
「お任せを!」
元気に返事をしてヴァイスは出て行った。
「さ、ルーナ。先に風呂に入ってこい」
「にゃー」
ばたん。
風呂に消えていったルーナ。
「さてと」
俺は自分の机の引き出しから超小型カメラを取り出した。
この一週間、ルーナと生活して分かったことがある。
あの子風呂から出るときは、すっぽんぽんで出てくる。
いつも注意しているのだがすっぽんぽんで出て生きてベッドで服を着る。
つまりベッドまでの間、裸だ。
まぁ俺は大人なのでいつも視線を反らしてるんだが。
すみません、本心では見たいんです。
ってわけで、俺はカメラを部屋の四隅にしかけた。
アレシアの趣味だったらしく、この部屋には観葉植物が置いてあるので隠すにはうってつけだ。
「よしっ」
設置が終わった時だった。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
「んだよ、こんな夜に。ヴァイスが忘れ物でもしたかよ?」
イライラしながら俺は玄関まで向かった。
のぞき穴から見ると、扉の前に立っていた騎士の男が見えた。
30前後くらいの男か。
ねんのため剣を持ちながら顔を出した。
「どちらさま?」
「お前がユースケだな?俺は隣の地区の守衛騎士団の団長を務めている、クープンという男だ」
「何用ですか?」
「この街で事件が起きたというので応援に来たのだ。まだ団長就任から一週間で調査なども不慣れだろう?」
「そりゃ、どうも」
「とりあえず中に入れてもらえないかな?」
「どうぞ」
「失礼」
クープンは中に入ってきた。
たしか、来客を迎えるときは団長室が基本だったはずだな。
団長室まで入る。
(脱衣場と、風呂場の電気が消えてるな?シャワー音も聞こえない。ルーナが気付いて気を利かせたのかな?)
気配りができるルーナに感謝しながら、来客用のパイプ椅子を出した。
団長机を挟みながら向き合った。
「では、調査の基本を教えようか?ユースケくん?ここら一帯の地図を出してくれ」
机の上に地図を広げた。
ちなみにだが必要な情報なんかはヴァイスが全部書き込んでいる。
ヴァイスが殺害現場や犯人の逃走方向の予測などを書き込んでくれていた。
「うーん、だめかなぁ、これは。美しくないね。地図が泣いてるよ」
第一声がこれだった。
最初の一言が否定のやつって大体ろくな奴じゃないんだよな。
(あー、こいつ。うざいやつだ)
俺は早くも、こいつが一秒でも早く帰るように祈ることにした。
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