第16話 少しは団長としての仕事を
「ユースケさん、そういえば今日は少しお話があってきたんですよ」
エリスが口を開いた。
「珍しいね。どんな話?」
一回だけ咳払いしてこう続けた。
「装備の提供だよ」
そういえば、ヴァイスのやつから聞いた覚えがあるな。
俺たち軍団の団長同誌では横のつながりがあるっていう話。
なんでも軍団同士で協力し合ってお互いに強くなろうとしているらしい。
魔法軍団は装備の提供。
そして、騎士団からは騎士が必要になれば派遣する。そんな繋がりだ。
「新しい魔法装備が完成したから是非ともユースケさんに使ってみてほしくて!」
「なるほどな。で、どんな装備?」
エリスは机の上に指輪を出してきた。
「これはね。今開発中の防御力アップ道具だよ」
「へぇ、そんなアイテムを作ったんだな。すごいね」
「うん。やっぱ騎士団の人たちってさ、鎧重いよね?だから、鎧を装備しなくてもよくなるようなアイテムを作りたいってずっと思っててさ。まだ試作品なんだけどね」
「なるほど。それでサンプルデータが欲しい、と」
俺はいつも鎧を装備していない。
だから俺に白羽の矢が立ったって感じなんだろうか?
しかし。それなら俺じゃなくなくて普段から鎧を装備している他の騎士の方が指輪のあるなしで違いがはっきりと分かりやすそうなものだが。
そのことを指摘してみると
「いえ、まだ試作品なのでうまく機能しなかった場合大けがを負ってします可能性が」
そこで「はっ」とした顔で補足してくる。
「えーっと。ほら、ユースケさんじゃないとよけい大けがしそうな気がして」
「ま、危険なことをやるのも俺の仕事か」
「その、なんかごめんね?」
「いや、気にしないでくれよ。何事にもテストってのは必要だろうし」
俺は指輪を受け取った。
そこで気になっていたことを聞いた。
「そういえばだけど、防御アイテムってことは攻撃されないといけないと思うけど、どこで試すの?」
「うーん。それも問題ですよね」
部下とやってみてもいいかもしれないけど、接待されそうな気がしてならない。
俺は一応騎士団の団長だし、最近は部下も媚を売って来てるんだよな。
部下の昇進も昇格もすべて俺の機嫌しだいだ。だから気持ちはわかるんだが。
接待されてしまっては効果を最大限テストできいだろう。
(ヴァイスも同様の理由でだめだな)
となると、候補として残るのは。
「他の騎士団か」
「でもそれだと、模擬戦にしかならないよね?騎士同士の戦闘は原則禁止されてるしね。でも、できればガチンコバトルのデータが欲しい」
そのときルーナが口を挟んでくる。
「にゃーにゃー、ご主人、ここはにゃーの出番だにゃ」
「なにか心当たりが?」
「もちろんにゃ。いい方法があるにゃ。にしし」
そう言われて俺は思い出していた。
(ひょっとして、下水道で商人が言ってたあれのことか?)
そうと決まればさっそく行ってみようか。
「エリス。悪いが今日のお茶会は終わりだ。俺は今からルーナと向かうところがある」
◇
下水道まで降りてきた。
例の商人のところまで向かっていった。
「やっ。また会ったね」
向こうも俺のことを覚えてくれていたらしい。
「にしし、今日は何を買ってくれるのかな?」
「今日は買い物に来たわけじゃない」
目を丸くして俺のことを見ていた。
「驚いたな。じゃ、何をしに?」
「アンダーグラウンドチャンピオンシップだっけ?あれについて少し話を聞きに来た」
「まさか出てくれるのか?」
「とりあえず話を聞かせてくれ」
「まっかせて!」
商人から一通りの話を聞いて俺は頭の中で情報をまとめた。
【アンダーグラウンドチャンピオンシップ】
一般的なルールは無用でなんでもありのコロシアム。
ルールは簡単。
選手同士で1vs1で向かい合って「よーいどん」でスタート。
あとはどちらかが負けを認めるか死ぬまでバトルは終わらない。
ただし、相手が負けを認めてるのに【オーバーアタック】した場合はペナルティ。
攻撃方法は、致命傷おっけー。
後遺症が残りそうな攻撃おっけー。
武器の使用もちろんおっけー。
(思ってたよりやばい場所なんだな、ここ)
気軽に来たんだけど思ったよりやばそうだ。
俺は真剣な顔で悩んでいた。
グイっと俺の服の裾を引っ張ってきたルーナ。
「にゃーにゃー。そんな気負わなくてもいいにゃよ」
その時商人が口を開いた。
「前から猫のにおいがすると思ってたけど、ひょっとしてルーナ?」
「にゃーん」
このふたりは知り合いらしい。
「うわー、なつかしい」
商人がルーナの頭をなでていた。
「くすぐったいにゃ」
「ごめん、ごめん」
商人は俺を見てきた。
「そう言えば名乗ってなかったね。あたしはルシア。前はルーナと組んでチャンピオン制覇してたんだ」
「ルーナが?」
まさかこんな物騒な大会に出ているとは思いもしなかったな。
しかも制覇してたってことは。
「まさか、この大会で優勝してたの?」
「んにゃー。何連続制覇してたっけ?」
「たしか60連覇。すごかったよね、ルーナ。圧倒的だったし」
そこでルシアが俺を見た。
「そんな化け物を飼い慣らしてるあなたってほんとに何者か気になるな~」
キラキラした目で俺を見ていた。
「ルーナはやっぱ対戦相手殺してたの?」
「やっぱりって失礼にゃ。基本は殺してにゃいよ。みんな体ずたずたにすれば降参したし。それに基本的に殺しは暗黙の了解でご法度にゃ」
ルーナはこう続けた。
「だから、そんなに気負うことないにゃよ。少なくともアロンゾの方がここにいる奴はよりは強いにゃ。だからご主人なら負けることはないにゃー」
その言葉で心が軽くなった。
「その大会出てみよっか」
「名前は?偽名でもいいよ」
俺は少しだけ考えて名乗った。
「ルーニャ2号」
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