第15話 ヴァイスをこき使う


その日の夜くらいになるとヴァイスが団長室に入ってきた。


「こんばんは、団長」


「疲れは取れたな?見回りに行ってこい」


「お厳しいですね」


「もちろんだ。これからはこき使ってやるから覚悟することだな」


「わかりました」


意外とおとなしく命令を聞くらしい。


こいつの中で俺は完全に逆らってはいけない人物になったんだろう。


ヴァイスは鎧を着るとそのまま団長室を出ていこうとしていた。

その前に用事を頼むことにしよう。


「それとヴァイス」


「なんです?」


「帰りにジュース買ってきて」


「何買えばいいですか?」


「コーラ」


「了解です」


出て行った。

いやー、いい仕事につけたものだ。

あいつならこき使っても罪悪感感じなくて済むからなー。


「あー、そうそう。アレシア」


「どうしました?」


「今日からここで寝ていいの?」


「いいですけど、家に帰りたくないんですか?」


「金もったいないし、通勤だるい」


「めっちゃわかります、それっ!」


ちなみにここにはシャワー室もあるし、仮眠用のベッドもある。つまりここで生活しろと言われているようなものである。



それから俺はルーナもつれてきて本格的にここで暮らすための準備を始めた。


「宿屋より快適ニャー」


ごろん。

ベッドに飛び込んでごろごろしだルーナ。


「にゃんー」


年相応の子供みたいで可愛いと思う。


そうやって眺めてるとアレシアが話しかけてきた。


「あーそうそう、この前の一件でこの騎士団の人員は減ってしまいましたね」


ぺら。


アレシアは資料を見ていた。


「10名ほど補充しないといけないみたいです」


「そんなにー?」


「はい。基本的に団員の補充は団長の仕事です」


つまり、俺が補充しないといけないわけか。


「あぁ、言い忘れておりました」


「なにが?」


「ユカインの時私は遅れてたじゃないですか?」


気になってた。

なんであんなに遅れていたのかについて。


「あれは団員募集に時間をかけていました」


なんだか、イヤーな予感。


「まさか、その分の補充も?」


「それは終わっています。安心してください。ただ、十名となると大変ですね」


俺は名案を考えた。


「わかった。人員募集はヴァイスのやつにやらせよう」


で、俺は採用だけやる。


「なるほど、その手がありましたね」


そのとき、アレシアは呟いた。


「これでしばらくお別れですね。兄さん」

「あー、昇格したんだってな」

「はい。離れたくはないですが私も組織に所属しているので行かないといけないんですよね」


「ま、てきとーにがんばってね」


「はい、それでは明日も早いのでこれで。待ってますから」


そう言って彼女は部屋を出て行った。


おそらくアレシアは上で俺を待ってるんだろうけど、俺は昇格するつもりがない。


昇格してしまえばヴァイスをこき使えないからな。


俺が背もたれに背を預けて休憩していると、がちゃ。


扉が開いた。

ヴァイスが帰ってきたようだ。


「異常ありません。それとコーラです」


俺の机にジュースを置いてきた。


「ご苦労。それから団員募集もしなくてはならん」


そこで思い出す。


これ、よく考えたらもともと俺はなんにも悪くないよな。

団員が減ったのはあのときアレシアの到着を待たずに独断で動いたこいつのせいだ。


「お前、たしかあの時勝手に独断専で先行していたよな」


「それはそうですね」


「全部お前がやれ。以上」


よく考えたらこの件で俺が悪いところ何にもないわ。

よって、俺が仕事売する必要もなし。


「それからこれからは俺の指示以外のことはやるな」


「はい。肝に禁じます」


そうしてヴァイスは団員募集の書類の準備を始めた。


俺はコーラを飲みながらその作業を見ていた。


よく考えたら、めっちゃ気まずい。


「今日はとりあえず帰っていいぞ」


「寝れる気がしないいんですよね」


「俺は寝るから詰所の方で作業しろ」


「失礼します」


ヴァイスは出て行った。


俺はそれから電気を消してルーナと一緒に寝ることにした



俺が団長になってから一週間が過ぎた。

騎士たちは俺を団長として敬っているしなかなか快適な職場だった。


あと、意外だったのがヴァイスがかなり従順だったことだ。

俺の言うことは全部聞いていた。

気持ち悪いくらいだったが、それでも俺が楽をするためにこき使っていた。

なので俺はほとんど仕事することなく団長室でふんぞり返っているだけの日々が続いていた。


特に大きな問題が起きたりすることもなかった。

ちなみにスイレンの方も王都の魔法軍団に合格したらしく。たまにこの部屋まで遊びにきてくれていた。


そして、今日もスイレンとエリスが遊びに来てくれていた。


団長室でちょっとしたお茶会が開かれている。基本はルーナを交えてガールズトークが繰り広げられていて、俺がそれを眺めているだけだ。それのなにが面白いのかと言われると、返答に困るけど、美少女は見ているだけで癒されるものである。


(今日も団長室は異常なーし!いやー今日もこの子たちはかわいいねー)


なんてことを考えてお茶をずずっと飲むのが俺の業務内容である。


「このお茶私が栽培してるのよ」


エリスがそう言っていた。


「にゃー。団長さんはそんなこともできるにゃね~」

「今度教えてあげようか?ルーナちゃん」

「にゃーが作ってもすぐ世話を忘れちゃうにゃ。それで枯れちゃうにゃ」


スイレンが俺のことを見てきた。


「それにしてもユースケさん、いきなり団長を任されるなんてほんとにすごいですねー。尊敬しちゃいます~」


お目目キラキラにして俺のことを見ていた。


スイレンも俺とは所属軍団が違うけど、平の入団だったので、俺がどれだけ凄いのかが分かっているのだろう。


とは言え俺はいまだになんでいきなり団長になれたのかが、よく分かっていないけど。


「はは、ありがとう(ほんと俺は何でいきなり団長なんだろうな)」


こんな感じで俺の団長生活は始まっていた。

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